D.gray-man


3


◆◇◆





押さえつけるような、強引な口づけはしだいに熱を帯びて。

僅かな抵抗をうけた後、舌はたやすくミランダの口腔へと侵入する。怯えた舌を絡めとリ、顔の角度を変えながらじっくりとねぶった。
ぬるい肉の感覚は女の脳を麻痺させていき、体中の筋肉がゆっくりと弛緩していくのがわかる。溢れる唾液に耐え切れず、ごくとミランダの喉が上下したのが分かると、ティキは内心ほくそ笑んだ。

「・・っ・・はぁっ」

艶めきを含んだ声を聞いて、ティキは唇を離す。上気した頬と乱れる息。潤んだ瞳は、まだ少し抵抗の色が見えた。
それに気を良くして再び口づけに戻り、追い討ちをかけるようにワンピースの上から乳房をまさぐる。細い体に不似合いな豊かなそれを、下から持ち上げるように強く揉みしだいた。

「けっこうあんのな、もしかして誰かに揉んでもらってる?」
「っ・・や、やめ・・そんな、こと」
「ないの?そりゃ勿体ねぇな、あんた尻も悪かなかったぜ?場所が場所ならそこそこ売れるよ?ほら・・感度もなかなかいいし、ん?ずいぶん硬くなってんな」
「あっ!い、いやぁ・・」

親指の爪で服の上から乳首を押され、ミランダは眉を寄せ顔を背ける。逃げようと思ったのかティキの胸を押してきたので、今度は耳を舐めた。

「ぁっ・・!」

耳介の溝に舌をねじ入れ、なぞり、耳たぶをしゃぶる。女の体がびくんと跳ねるのが分かった。

「やぁ・・はぁ、あぁっ」
「ここ、いいだろ?こういうとこってジワジワくるんだよな?」
「だ・・だめぇ・・」

ぴちゃぴちゃと音を立てて耳を弄りながら、ティキの指はワンピースのボタンを外す。胸下まですいすいと外していくと、白い乳房がビスチェにおさめられているのが見えた。
鎖骨から谷間へとなめらかに指を這わせ、やや強引にビスチェを下ろす。硬くなった乳首を人差し指で撫でると、ミランダは必死で逃げようとドアの取っ手を探る。

「行っちゃうの?こんなに反応してんのに?」
「っ!・・だめっ、おね・・がいっ」
「こんな状態で帰ったら後が大変だろ?それともなに、あの眼帯くんに慰めてもらう?」
「そんなこと・・っ・・はぁ」

女の瞳から涙が溢れ頬をつたう。それを舌で舐めて、また口づけを繰返す。舌でゆっくりと口腔を犯しながら、ティキはミランダの抵抗が薄らいでいることに気づく。
そこに愛があると錯覚するに十分な甘い口づけは、女の思考をさらに混乱させるだろう。舐めて、触れて、吸って、絡めて、弄る。互いの体液は媚薬の一種、理性など簡単に崩れてしまうものだ。

ティキはそっと唇を離しミランダの瞳を覗き込む。ぎりぎりに踏みとどまって、ぐらついているのが見える。
体は与えられる刺激を素直に受け入れているのに、頭はゆるゆると抵抗して、好きな男の名前を小さく呟く。ティキはワンピースの裾を持ち上げ、甘い吐息とともに耳元に唇を寄せた。

大丈夫、背中を押してあげよう。望むとおりに、優しく。

「愛してるからさ、いいだろ?」

なんの土台もないその言葉は、空しく耳に響いて消える。誰も信じないだろう言葉は、ミランダの最後の火を消した。
震える膝と太股を撫でて、ショーツの上から秘裂をなぞる。抵抗するのも迷い始めた女の瞳に映る己の姿に、ティキは苦笑する。なんて愚かしいのかと。



―――穢してみたかったのだ。あの男の背中を見つめた眼差しを。穢して壊して、そうして消し去ってしまいたかったのだ。







◆◇◆





胸の先端を執拗に責められて、ミランダは立っているのも辛い。ティキの指はごく弱い力でショーツの上からクリトリスを刺激しており、そのもどかしさに切ない声が漏れた。

「はぁ・・くっ」
「こっち、涎たらしすぎだろ」
「やぁ、あぁ・・」
「あんた根っからのスキものなんだな、こないだみたいなプレイでも興奮するみたいだし?こうやってちょっといじるだけで蛇口止まらねぇって、どういうことよ?」

鼻で笑って、ティキはショーツの隙間から指を差し入れる。唐突に感じる異物感に、ミランダは耐え切れず胸の位置にあったティキの頭にしがみついた。

「うわ、どろどろ」
「やっ・・!ああんっ!」
「おい、髪の毛掴むなよ。痛えだろうが」
「だっ・・だって・・あぁ、はぁん!」

ゆるやかな律動を繰り返していた指が、くるりと膣内をなぞり抜ける。舌打ちとともにミランダの蜜で濡らした指をぺろりと舐め、スカートの裾を捲くって「ほら」と差し出した。

「口、開けろ」
「・・え?」
「舐めてやるから、ちゃんと噛んどけよ?」

何を言ってるのか分からず怪訝な顔をすると、突然口にミランダのスカートがねじ込まれる。抵抗する間もなくすぐにショーツをひき下ろされ、強引に足を開かされた。

「おお、いい格好じゃん」

ドアを背に自身のスカートを咥えて足を開く姿は、まるで娼婦のようで。恥ずかしさと情けなさで涙が出る。
ティキは脱がしたショーツをポイとソファーに投げると、腕を組みじっくりとミランダの姿を鑑賞する。満足げに「なかなか」と肯くと、むきだしの太股を指で撫でた。
つう、と腿から足の付け根までたどると、口の端を軽く上げてその場にしゃがみこむ。

「ほら、足開いてろって。舐めて欲しいんだろ?」
「ん・・んむっ・・」
「欲しくて欲しくてたまりません、って太股まで濡らしてるなんて・・ずいぶんと飢えてんのな。眼帯くんはあんたがこんな女だって知らねぇの?もったいないね」

ラビのことを言われ、少ない理性が働く。自分の今の格好や状況を思い、ここから逃げたくなる。
けれどすぐに感じた生温い舌の感触に、その理性も溶けた。ドアを背に腰だけ浮かせた格好で、ティキに秘所を舐められミランダの体がさらに熱くなる。快楽に膝が震え、スカートを強く噛み締めた。

「!んむぅっ・・んんっ!」

襞をめくり突起を吸い、溢れる蜜を啜られる。下腹部から脳へ、脳から全身へと広がる悦楽に耐え切れず、ミランダはずるずると背中から崩れ落ちていく。

「ちゃんと立ってろよ、重いだろ」
「んん・・むぅん・・ふっはぁ・・」

ぐったりとして涙目のミランダを楽しそうに見ながら、ティキはぺろりと口を舐めて起き上がる。
力が抜けてとうとう床に腰をつけ、足だけ広げている女の姿はいたく扇情的で。口に咥えたスカートは唾液の染みが拳ほどまでひろがっていた。

「立てねぇの?あれだけで?」

頭と肩だけつけて座り込むミランダに覆いかぶさり、口からスカートを外す。濁った瞳は、ぼんやりとティキを見上げていた。
すがるような責めるような、何ともいえないその瞳にティキは目を細める。鼻先が触れ合うほど近づき、角度を変えれば口づけしてしまう程の距離であっても、逃げる様子はない。
口を歪めて笑うティキは、ミランダの足を持ち上げ自らの腰を浮かす。
「床硬ぇと、足が痛ぇんだよなぁ」とぼやきつつ、下半身の先端をぬかるみに宛がった。

「!あぁんっ・・!」
「言っとくけど、あんま激しく動けねぇからな。膝が痛ぇよ、ボケ」

ぬる、と簡単に侵入を許したそこは、二度目とは思えぬほど快感をミランダにもたらした。奥までいかない入口での摩擦に、背中が弓なりに跳ねる。完全に頭が床につき、ドア下の隙間風で髪が乱れた。


まるで夢の中のような感覚。靄がかかって、判然としない。
抵抗しなければと思うが、どこかでそれをセーブしてしまう。男の指が、舌が、ミランダを愛撫するたびに、確かに体が悦んでいるのを実感するから。
頭では分かっている「愛している」なんて嘘だと。けれどこんなふうに求められると、はっきり拒絶できなかった。

風がまた強くなって、風とともに外の土埃も隙間から入る。
ひゅうひゅうと風の叫び声を耳にしながら、ミランダもまた切ない声を漏らす。

じわじわと侵入してくるティキ自身に、もどかしくて思わず腰を浮かせてしまう。奥からの疼きに声を上げたその時、蕩けた頭に突き刺さるような声が聞こえた。

「・・・?」
「ん?」

ティキも一旦動きを止めて、外の音に耳を傾ける。
風の音に紛れて、誰かを呼ぶ声がする。それが自分の名前だと気づき、さらにその声の主に気づくと、ミランダの顔は青ざめた。

「あー・・眼帯くんだ。あんたを捜しにきたのかな?」

意地悪く耳で囁き、腰の動きを再開する。さっきよりもゆっくりと、焦らすような動きで。

「やっ・・ぁあっ・・」
「どうする?今いいとこなんだけどね、やめるのも勿体ないけど・・・やめちゃう?」
「っ・・あっ・・はぁぁ・・」
「声出すと気づかれるよ?あいつけっこう勘いいからさ」

心配そうに言いながらも、ティキの腰は最奥へと突き入れる。ミランダは求めていた刺激に全身に鳥肌が立ち、咄嗟にティキの首を掻き抱いた。

「あ!はぁっん・・!」
「声出すなって言ったろ?仕方ねぇなぁ・・」

確信犯の笑みを浮かべて、ティキはミランダの口を塞ぐ。とどめの口づけは降伏せずはにいられない程、とびきりの甘さで。



狭くて暗い小屋の中、天井には蜘蛛の巣。小さな格子窓からは楓が風に揺れているのが見える。
きっとラビは心配しているだろう、いつもの迷子かと色々捜してくれているのかもしれない。何度か『ミランダ』と名前を呼ぶのが聞こえた、その声でどんな表情をしているのかも分かる。

体と心がバラバラの思考を持ち、なにが正しいのか、なにがいけないのか、どうすればいいのか。ただ恐ろしくて、目の前の男に縋りついた。

絡まる舌と突き上げられる熱が、ミランダの思考を奪ってくれる。
あの翡翠の瞳も、楓のような赤い髪も、最初にときめいた笑い顔も今は耐え切れない。


揺さぶられる視界が、上り詰める快楽に染まる。

それは一度白んで、ゆっくりと紅くなり、最後は黒へと堕ちていった。









END

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