D.gray-man
1
肌寒い、まだ宵の口。
ミランダはリナリーやマリらと、科学班で膨大な書類の整理を手伝っていた。
「なんとか、一段落ね。コーヒー入れてくるわ」
リナリーが立ち上がり、科学室の横にある給湯室で人数分のコーヒーを入れてきた。
「はい、ミランダどうぞ」
渡されたのは、コーヒーよりも優しい香。
「まぁ、紅茶ね・・これはアールグレイ?」
「コーヒーは身体を冷やすけど、紅茶は身体を温めるんですって。ミランダ、冷え症だから」
リナリーの気持ちが嬉しくて、笑顔になる。一口飲むと、特有の柑橘のような香がミランダを癒した。
「今日は寒いしね、あ、よかったらブランデー入れるかい?」
ジョニーが引き出しを捜し出した。
「あ、いえ・・そんな」
「いいから、いいから・・あれ?ここかな・・?」
ゴソゴソと、まだ整理しきれてないダンボールを捜す。手応えがあったようで、笑顔で一本の酒瓶を取り出した。
「たまに夜、科学班でちょっと飲むんだ。・・うん、まだある」
言いながら、ミランダのカップに少量たらす。マリは、そんな様子に何か不思議な違和感を感じていた。
(なんだ・・?)
彼特有の、危険察知能力が作動しているようだ。
(何かが、おかしい・・?)
その時。
「うわああぁぁっ!ち、ちょっと!ストップ!!」
裏返ったようなリーバーの声が聞こえ、皆驚きで振り返る。
リーバーは転がるように、走り、ジョニーが持ってる酒瓶を取り上げると、「誰か、飲んだか!?」と周囲を、見回す。
その場にいる全員が凍り付き、例の事件と巻き毛の男を思い出した。
「「ミランダ!!」」
全員が、ミランダを見る。ミランダは顔を真っ青にして首をフルフルと振った。
「く・・口を付けただけ・・飲んでは・・いないわ」
ガクガクと震えて、壁際まで後退りする。
「「ほ、本当に?」」
ミランダは何度も頷く。
周囲に安堵の空気が広がると同時に、ミランダは床にペタリと座りこんだ。
「ミランダ・・大丈夫か?」
「び・・びっくりしたわ」
マリがミランダの手を取って起き上がらせた。ジョニーが慌てて、ミランダに駆け寄り
「ごめん、ミランダ・・本当に大丈夫?」
「だ、大丈夫よ・・カップに口は付けたけど飲んではいないわ」
ジョニーはそれでも心配そうで、リーバーに「これ、やっぱり室長の・・?」と恐る恐る、聞いた。
リーバーは苦々しい顔で頷くと、瓶を持ち上げて
「室長の新作だ・・コムビタンR・・」
((あいつ、懲りてないのか!))
周囲の空気が怒りに変わる。リーバーはあきらめのようなため息をつきつつ、頭をかいた。
「・・入れ換えておいて、また地下室に置いてこようと思ってたんだよ」
リナリーは指をバキボキと鳴らしながら
「まったく・・兄さんは・・私、ちょっと言ってくるわ」
そのまま背中に『怒』の文字を背負って司令室へと歩いて行った。
「わ・私、もう部屋に戻ります・・」
ミランダはまだ激しく鼓動する心臓を抑えるように、胸に手をあてる。
「送っていこう」
マリがミランダの背中にそっと手を添えた。
「で・・でも、悪いわ・・」
申し訳なさそうに呟く彼女が愛しくて、マリはひそかに笑う。恋人になって、それなりに時が経つのに。ミランダはまだまだ初々しい。
(もう少し、くだけてもいいと思うのだがな)
愛しい反面、少しだけ淋しくもあった。
「いいから、心配だから送らせてくれ」
マリはそう言って、ミランダの跳びはねる心音を聞きながら歩き出した。
マリは、あくびをしながら布団に包まった。
ミランダを送ったあと、なんだかんだと、科学班に長居してしまい、自室に戻ったのは深夜とも言ってよかった。
程よい疲れにすぐに眠気が訪れ、マリはゆるやかに意識を手放し始める。
(・・・?)
遠く離れた意識の中で、聞き覚えのある足音がして、マリは夢か現かわからずに布団の中でその音を聞いていた。
(・・ミランダ・・?)
バタン!
突然、自室のドアが閉じる音がして、マリは跳び起きた。そこに立っていたのは、マリがよく知る人物であったが、あきらかに、何かが違っていた。
「ミランダ?・・」
「マリ・・さん・・」
息苦しいのか、呼吸が乱れている。フゥ、と息を吐きながら
「熱い・・わ」
そのまま胸のボタンを外し、服を脱ぎ始めるので、マリは慌てた。
「ち、ちょっと待て!どうした・・」
ベッドから下り、側へ駆け寄るとそのまま、何も言わずにマリに抱き着いてきた。
「!?」
そのままミランダに唇を奪われる。柔らかな感触に包まれ、小さな舌がマリの下唇をなぞった。
(わわわっ・・!)
混乱と困惑と、沸き上がる甘い衝動から、マリは石のように動けずにいた。あのミランダが、突然自分の首を掻き抱き、情熱的な口づけをしているのだ。
「あ・・ふ・・ん」
吐息のような声が、ミランダから漏れるとマリは己の下半身が悲鳴を上げているのに気付く。
しかし、冷静にならねばと頭をブンブンと振り、ミランダの唇からなんとか離れた。
「ミランダ・・どうした?」
ミランダの顔は上気して、瞳はトロンと、唇からは妖しく舌がのぞき出てる。
(!・・まさか、あの時の!)
そう。ミランダは、飲んではいない。しかし、口は付けた。
カップに数適だけでもコムビタンRがついていたとしたら・・?
(てか、これはどういう事!?)
目の前のミランダを見る限り、明らかに催淫剤だ。
(コムビタンRは催淫剤なのか?いやいや、そんな物作る意味がわからん、
それよりたった数適でこれってどんだけ破壊力あるんだよ!)
ミランダは大胆に着ていた寝間着を脱ぎ捨て、一糸纏わぬ体でぶつかるように、マリに抱きついた。
あまりにも不意打ちのように抱きつかれたので、そのまま滑るようにして壁に頭を打つ。
「!・・つっ・・」
それほど強くは打たなかったようだが、ガンガンと痺れるような感覚が残った。ふと、倒れた場所が自身のベッドの上であることに気付き、慌てて起き上がると自分の下半身に何かうごめく物を感じる。
「!な、何をっ・・」
ミランダがマリの寝間着のズボンを下ろそうとしていた。
「お願い・・マリ、さん・・して・・」
「!?」
その言い方があまりに艶っぽくて、マリは叫び出したい衝動に駆られた。
ミランダとは、これまでも幾度か身体を重ねたことはある。彼女はいつも少女のように恥じらんで、それが可愛らしく、愛しかったが、目の前の妖艶な彼女もまた、男としてはそそるものがあった。
「なんだか・・・身体が・・熱くって・・」
うわごとのように、呟きながら下ろしたズボンからマリの起立した男性自身を取り出した。そのまま、そっと触れてくる。細い指先で、確かめるように、つつと動かした。
(くっ・・!)
マリは白旗をあげるように、その快楽を受け入れる。ミランダが、触れていると思うだけでどうしようもない程、興奮していた。
「わ・・私・・どうしたの・・かしら」
上気した顔で、マリを見つめて、助けを求めるようにマリの上へとのしかかる。
唇と唇が、惹かれあうように求め合う。ミランダは積極的にマリの舌に、自身の舌を絡めた。
何も考えられず、ただ内なる発熱が抑え切れない 目の前の彼が欲しくて、欲しくて、
まるで渇きを癒すように、マリの唇を求めていた。
押さえ込む形での、口づけを一度、離す。口づけだけで、もう、とろけてしまいそうに身体は熱くなっていく・・
ミランダはゆっくりと上体を起こし、焦がれるようにマリを見つめて、
「あ・つい・・の・」
その言葉が言い終わるより早く、マリの手がミランダの身体を掴み、そのまま、突き刺すように自身の股間に座らせた。
グググ、と男根がミランダの花唇をこじ開けていく、ミランダの身体がビクビクと、痙攣した。
「あっ!ああん・・・っ・・!」
(入れただけで・・達してしまった・・か?)
マリの身体の上でミランダが、くたり、と倒れ込む。しかし、ミランダの膣はまだ吸い付くようにマリに絡みついて、キュウキュウと締め付けた。
ミランダの柔らかな乳房を揉みしだき、その尖端を転がすように吸い付く。そのまま、律動を開始した。
ジュプ、クチャ、淫靡な音が、室内に広がっていく。
「はあ・・!あう・・!」
ミランダの吐息を含んだ甘い声。
「す・・すごいっ・・!いいっ・・」
脳内が痺れてくる。
普段の彼女とは違うから、少し大胆な事もしてしまう。助けを求めるように、マリの首に縋り付いて
「ああんっ!・・あっ!」
ガクガクと激しく下から突き上げられて、何度目かの絶頂を感じると、ミランダの身体に変化がおきていた。
(わ・・私・・な、なにを・・)
ぼんやりとした意識の中で、少しづつ、薬の効果が消えていくのを感じた。
マリは、ミランダの両足を肩にかけて、より深く繋がる態勢へ変えた。
トロトロに溶けたそこは、なおも襞が絡み付き、マリを奥へと誘っている。打ち付けるように激しく動けば、マリの限界が近づいてきた。
(くっ・・・もう、無理だ・・!)
ミランダの唇へと下りて、味わうように口腔を貪るとそのまま動きは激しさを増して打ち付ける。絶頂感に身体が震える瞬間、ぐっとミランダを抱き寄せた。
そのまま自身を引き抜くと、己の手に白濁の液をぶちまけて、荒い息のまま、近くにあった己の服でそれを拭う。
近くの棚からキレイなタオルを出して汗をかいたミランダの額を拭いた。
「・・・?」
ミランダの様子がおかしい。
「あ・・・の・・」
恐る恐る、マリの顔を見て
「私・・どうして、ここに・・?」
薬がきれたらしく、冷静になったのかミランダは、この情況を計りかねている様だ。
「覚えて、ないのか? 」
マリの問いに小さく頷くと、自分が裸である事に慌ててシーツを身体に纏う。
「あ、あの・・これはいったい?」
恥ずかしそうに、もじもじとベッドの壁際に背中を擦りつけていく。
「これは・・その・・」
マリは口ごもる。
ミランダの性格を考えれば、何も言わない方がいいだろう。後ろ向きな彼女に、これ以上自分を責める材料を提供したくはなかった。
(嘘をつかねば・・)
どう見ても、情事の後だ。ミランダもそれは気付いている様子だ。
(う・・嘘を・・)
「・・ミ、ミランダが欲しくて・・連れて来てしまったんだ」
(や、なんかそれおかしいだろ!)
自分で自分に突っ込む。それではただの変態だ。いや、犯罪だ。
「いや!そ、そうじゃなくて・・これは・・」
冷や汗が背中を伝う。もう、何を言えば分からなくなっていた。
変態も犯罪も勘弁したいが、これといって上手い言い訳が思いつかない。せめてミランダの部屋であれば、夜這いをかけたとかなんとか・・いや、これも犯罪だ。
マリが悶々としていると、
「そうだったんですね・・」
どこか納得したような声でミランダが呟いた。
「ミランダ?」
「じ・・実は、夢を見たんです。その、マリさんと・・そういうことを、してる・・」
恥じらうように、シーツを顔まで引き上げて
「それが、妙にリアルだったので・・でも、こういう事だったんですね」
わかりました、と頷いた。
(い、いいのか?それで・・)
肩透かしをくって、マリは脱力する。
「その・・いいのか?」
(納得できるか?)
恐る恐る聞いてみると、
「え・・だ、駄目なんですか?」
「や、そ・・そういう訳では・・」
なぜかしどろもどろになるマリを、ミランダは不思議そうに見る。
(まあ・・いいか・・)
このまま、納得してくれるなら。マリは気を取り直し、
「寒いだろう、こちらへおいで」
ミランダの手を取り、己の方へ引き寄せる。ぎこちなくも、嬉しそうに、寄り添ってくる彼女が愛しくて。冷たくなり始めていた柔肌を守るように抱きしめた。
(しかし・・)
紅茶。
口をつけただけで、良かった。
一口でも飲んでいたら、ミランダはどうなっていたのだろうか。マリではなく他の男のもとへ行かないとは限らない。
そう考えると、ぞっとして、ミランダを抱きしめる腕の力が増した。
「マリさん・・?」
「あ、すまない。苦しかったか?」
腕の力を緩める。
「全然・・平気です」
微笑んでから、恥ずかしそうにマリの胸に顔を埋めた。その姿が、あまりに可愛らしいので頬が緩む。
(やはり、いつものミランダがいいな・・)
フワフワなくせっ毛に顔を埋めて、小さく笑った。
(とはいえ、確かに魅力的ではあったが・・)
思い出し、自分を戒めるように軽く咳ばらいしたのだった。
End
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