D.gray-man


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◆◇◆◇◆




大事なところが最高潮の状態で踏まれてしまったその痛みは、筆舌に尽くし難いものがある。
息が止まりそうな程の痛みの中、それでもなんとか持ち直したのはミランダの泣き声が耳に届いたからだ。

「ごっ・・ごべんなざいっ・・マリさん、わた・・わ、私っ・・うっ、ぐふっ、べふっ」

しゃくり上げながら鼻を啜り丸くなったマリの背中を摩る。わざとではないのは分かっているし、彼女なりによかれと思ってやったことだというのも分かっている。
だから気にするなと、そう言ってやりたいのだが如何せん体中に走った電流がまだ声を発するのを許してくれない。今は乱れた呼吸を整えるので精一杯だ。
ミランダはマリが怒っているのだと思い込んでいるらしく、先ほどからこの世の終わりのような泣き声を出している。こういう時の彼女は危険であることをマリは経験から知っていた。
良くないことを考えすぎて、行動まで突っ走ってしまうのだ。

「こ、こんなことして・・私なんてもうお詫びどころか・・・マ、マリさんの前に出る資格ないですぅっ・・!」

案の定そう叫んで立ち上がると、ミランダはベッドから転がるように下りてドアへと走り出す。全裸で。

「まっ・・待て待て待てっ!!」
「いいえ、いいえっ・・もうほとほと自分が嫌になりました、ごめんなさいごめんなさいごめんなさいぃぃっ」
「いいから、とにかくちょっと待てっ!」

余裕が無いためいつもより語気が荒くなる。現在のこの体では致し方ないことなのだが、ミランダはやはりマリが怒っているのだと体をビクッと震わせた。
深く深呼吸をして痛みを逃す、少々時間が経ったおかげで声は出るようになった。また全裸で逃げられては困るので手首を掴み、ゆっくりと体を起こす。

「・・・ミランダ」
「は、はいぃ・・」

ベッドの上で全裸のまま、萎れたアサガオのように座るミランダは瞳をうるうるさせて俯いた。

「わたしは別に、怒ってなどいない」
「・・・そ、そんな・・私、あんな失礼なことして・・」
「い、いや・・まあ、ミランダの気持ちは分かっているから。だからそう落ち込まないでくれ」
「マ、マリさんっ・・・」

ぶわりと瞳から滝のように涙が溢れ出す。これでとりあえず逃亡のおそれは無くなったと、そっと手首を放しマリは同じく萎れた自分の分身の具合をうかがう。
間に合わなかったと思ったが、それでも咄嗟に僅かでも体を捻ったのが功を奏したようだ。折れるのが回避できて本当に良かった、一歩遅ければ大変なことになるとこであった。
とはいえまだ痛いものは痛いので今日は中断せざる得ないだろう。

ミランダが鼻を啜りながら心配そうにこちらを見ているのに気付き、マリは痛みをこらえつつ微笑んで見せた。

「大丈夫だ。少し休めば良くなるから」
「ほ、本当に?」
「ああ、だからあまり気にするな」
「でも、私のせいであんなことになって・・。負担をかけたくないなんて、思い上がりもいいとこだったわ・・ほ、本当にごめんなさい」
「・・・・・負担?なんのことだ?」

あ・・と、口を押えたミランダにマリは今日の行動の糸口が見えた気がした。
不審に思わずにいられない心音のスピード、嘘が下手な彼女らしい気まずそうに泳ぐ視線。どう見てもあやしい。なにかある。

「ミランダ、言ってくれないか?わたしが何を負担に思っていると・・?」
「い、いえ・・マリさんがそう思っているということではなくて・・私が勝手に・・そうなんじゃないかしらって」
「?・・どういう意味だ?教えてくれないか」
「そ・・・それは・・」

ミランダの声がますます小さく消えそうになり、叱られる子供のように体も縮こませる。あの、その、と繰り返した後で、また瞳に涙を滲ませた。

「マリさん、きっと聞いたら幻滅するわ・・だって、本当に自分勝手な考えだから」
「幻滅なんてするわけないだろう?」
「だって・・だって私、マリさんの邪魔してるんです。マリさんは一生懸命新しい指に慣れようとしているのに・・それなのに、私はまだ・・」

マリの大きな手がミランダの頭を優しく撫でる、皆まで言わなくとも分かっている。彼女が義指に抵抗を覚えていることなど、本人は隠しているつもりであったがマリには分かっていた。
でもそれでいいと思っていた。周囲の誰よりも、以前の指への未練を残すミランダが正直嬉しかったから。

「それを言うなら、わたしも同じだ。慣れようとしても気持ちの中では・・わだかまりがある」
「え・・?」
「まだどこかで、自分の指だと思えないんだろうな。あの指でミランダを触るのは少々躊躇うというか・・」

感触がないせいか、触れていてもしっくりこないのだ。
ミランダへの気遣いで愛し合う時はつけないと決めていたが、もしかしたら自分自身も義指に対して抵抗があったのかもしれない、認めなかっただけで。

「負担というのは、もしやわたしが義指を外すことを思ってか?だったら思い違いだ、今言ったとおり私自身がまだ割り切れていないのだから」
「でも・・」
「ミランダ、わたしはたとえ指がすべて無くなったとしても、あなたとこうすることを負担になど思ったりはしないよ」

きっぱりと言い、ミランダを抱きしめる。マリの胸の中でゆっくりと緊張が解けていったのか、鼻を啜る音に紛れてため息が漏れた。
とりあえず山は越えたらしい、そう思うとマリもホッとして彼女の髪に頬を寄せた。

きっと色々と考えていたのだろう。その思考の道筋を想像すると楽しくもあるが、さすがに今回のは危機一髪だっただけに冷や汗が流れた。
先ほど踏まれた患部はまだ痛いことは痛いが、我慢できる範囲まで落ち着いている。もし医療班にお世話になっていたらと考えると、居た堪れないことこの上ない。本当に良かった。

「あ、あのマリさん」
「ん?」

胸の中からそっとマリを窺い、心配そうに小さな声で呟く。

「く、口でしたのも、痛かったですか・・?」

「!」

途端に先ほどもたらされた、甘くときめく刺激が脳内にフラッシュバックされる。恋人からの奉仕はその技術に関係なく気持ちを昂らせるものだから。

「い、痛くはなかった」
「本当ですか?私・・上手く出来たか心配で。あの、もし痛かったらちゃんと言ってくださいね・・?」
「あ・・ああ、大丈夫だ」

軽く咳払いをして、努めて平静を保つ。そうしないと負傷した股間が反応してしまいそうで。反応すればもれなく激痛が待っているだろう、それは避けたかった。
ミランダは安心したらしく、またマリの胸に頬を寄せる。まるで子犬が母犬の懐にもぐりこむような動きをする彼女に頬を緩ませながら、抱きしめる腕の力を強めた。

今日はこのままミランダを抱きしめて眠ろうか、そんなことを考えていると。胸の中の彼女が恥じらいつつ、決意を込めて呟いたのが聞こえた。


「次は、もっと気持ちよくなってもらえるように・・が、頑張ります」

「!!」

次回も口での愛撫があるのか・・その予感にマリの分身が再び元気を取り戻す。

その途端、またしても激痛が電流のように全身に流れ、またも目の奥に火花が散ったのが見えたのであった。








END

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