D.gray-man


1



てっぺんを越えると、あとは下り坂。




放出した熱とともに、は、と息をついたティキはゆっくりと体を起こす。
女の首から手を放すと、既にぴくりとも動かないその様子に事切れたかと一瞬動揺したが、なだらかに動く胸を確認すると舌打ちした。
失神しているらしく意識はない。殺すつもりではなかったが死んでもいいと思って絞めたのに、いざとなると気持ちが揺れたことにティキは苛立ちを覚えた。

ぐったりと枕に半分顔を埋め、涎をたらしながら気絶した女の顔は、子供の寝顔のように無防備でどこか間抜けに見える。
ティキはズボンの釦を留めてベッドに腰かけ、ポケットからおもむろにタバコを取り出すと火を点け吸う。肺を満たし、巡って吐いた煙がゆるやかに女の部屋を漂うのを見ながら、物憂そうにまた一服した。


−−−もう、ここに来るのは何度目だろうか。






◆◇◆◇◆






最初は、単なる気まぐれだった。

街で偶然見つけた2人のエクソシスト、大柄な男の方は私服でもすぐ分かったが女はパッと見エクソシストとは思えなくて。てっきりその辺の一般人かと思っていたが、よく見ればどこか覚えがあり、俯いた顔の角度と細い腰で江戸で会った女エクソシストの一人だと気づいた。
どう見ても恋人同士な2人の様子に、ティキは下品な興味を持つ。それは特に女の方へ。

華奢な体があの大きな男を受け入れているのを想像して笑う。初めて見た時もそうだったが、弱々しくて今にも壊れてしまいそうな風情が男としては妙な気をそそられた。
おどおどしながらも、女は男を全面的に信頼しきっているのが分かる。男の方も過保護に思えるくらい女を大事にしているらしい。見ていてティキにはそらぞらしく感じるのだが、女は嬉しいようで頬を染めて微笑んでいた。

(違う)

違和感を覚える。傍目には幸せそうに映る女の姿がくすんで見えた。
あの江戸で見かけた時の息も絶え絶えに今にも挫けてしまいそうな様子は、安っぽい笑顔よりもずっとティキの心を掻き立てた。ゾクゾクと痺れるような興奮を感じたのを思い出す。戦いのさなかでその種の高揚を覚えたのは初めてだった。


違う。そうじゃない、それでは面白くない。
脆そうに見せてぎりぎりまで持ちこたえる、あの姿がいい。絶望的な涙を流しながらも、その奥に一条の光を滲ませる。それがいいのに、勿体無い。


残念そうに肩をすくませたティキは、立ち去ろうと2人に背を向けたがふいに足を止めて振り返った。
口の端を上げて目を細める。これといって目的はない、強いて言うならばちょっとした暇つぶし。あの女への単純な興味と、本能ともいえるエクソシストへのざわつく感情から起こったお遊び。幸せそうな恋人たちへの、やっかみも無きにしも非ず。


その夜に女のもとへ忍び込んだのは、そんな理由からだ。
わざわざ敵の本拠地に出向くなんて酔狂な行動をシェリルあたりに知られれば後が面倒くさい。さりとて真剣に隠し立てする気もなく、ばれたらばれたなりの楽しみを味わうつもりでいた。
目隠しを持っていたのは出来すぎた偶然。昼寝から覚めた長子が、おそらく気まぐれに自分のポケットに入れたのだろう。ロードは邪魔な物を他人のポケットにつめていく癖があるから。

黒い絹のアイマスクの光沢は、夜においては倒錯的な雰囲気を醸す。寝ている女に着けてみると今からとびきり悪いことをするようで、ワクワクしてしまう。
白い枕に広がる黒い癖毛を手に取り指で弄ぶ。細く青白い喉は穏やかに動いて、当人が安らかな眠りの中にいるのが分かった。
夜着の胸元を引っ張ると華奢な鎖骨が見え、すうっと指先でなぞってみる。しっとりとした肌は好ましく、この肌を思い切り引っ掻いて赤く腫らしたところを見てみたいと、うすく笑った。

手をいれて乳房のまろやかな感触を味わい、先端の敏感なところを爪先で軽く弾く。やや力を込めて捻ると、女は何か感じるものがあったのか身じろいだ。
起きたからといって止めるつもりのないティキは、首筋をべろりと舌で弄る。女の体がビクンと跳ねて圧し掛かる存在を認識したらしく、にわかに体が硬くなっていった。

「っ・・?だれ・・マ、マリさん・・?」

マリ?ああ、あの男の名前か。声に出さずにティキは笑う。
不安げな声であるが、うわ言のように力ない声で言う女は、夢かうつつか判然としていないのだろう。目隠しされているのも解っていないらしい、手が暗闇を探るような動きでティキに触れた。
手首を掴んで指先を舐めると、女は驚いたらしく小さな叫び声を上げた。

「・・え?・・な、なに?」
「知らないほうがいいと思うけど?」
「!?誰・・?」

ククッと喉を鳴らし、顔を引き攣らせた女を満足そうに見る。得体の知れない何かに怯えるその姿は、滑稽であるが見ている分には楽しい。
舐めていた指先を軽く咬む。突然の痛みに女は恐怖から震えたが、ティキの手にある乳首は硬さを増した。夜着から乳房をむき出しにし、爪をくい込ませながら揉みしだくと、白い乳房に赤い爪の痕が映えた。

「い、いたいっ・・や、やめ・・っ」

苦しそうに歯を食いしばるが、その吐息は微かに甘さを感じさせる。間違いない、この女は「そういう性質」なのだ。被虐的に責められることを体が望んでいる、甚振られて反応する性質らしい。
面白そうに目を細めて、ティキはミランダの胸を跨ぐように膝立ちするとズボンの釦を外し、おもむろに自らの陰茎を取り出した。エクソシストを相手にしたこの状況に興奮してか、しっかりと硬くなっている。
わしっと女の髪を掴み上げると、口元にそれを宛がった。

「ほうら、口開けな」
「っ!?・・こ、これは・・?」
「逃げんじゃねえぞ、ちゃあんとしゃぶれよ?ほれ、舌出せ」

真っ赤に染まった顔を背けて拒絶する女に、ティキは軽く眉を上げるともう片方の手で女の鼻を摘んだ。息が出来ない苦しさから口を開けた隙に、強引にその物を押し込む。

「!?・・っ!」
「いいか、歯を立てんなよ?ちょっとでも怪しい動きしたらその首をへし折ってやるからな」

温く柔い感触を楽しむようにゆっくりと腰を前後する。女はティキが髪をしっかり掴んでいるので逃げられないのを悟ったのだろう、二度ほど軽い抵抗を見せたがしだいに大人しくなった。
目隠しからのぞく眉毛が苦しそうに八の字を描く、息苦しいのか顔は赤くなり額に汗が滲んでいる。次第に動きを速めて喉奥へと突き立てると、さらに苦しそうに女の指先が震え始めたのが分かった。同時に汗ばんだ肌から立ち上るような女の匂いに、ティキはゾクゾクと興奮し始める。
必死で耐えているのだろう、苦しさが過ぎるのを待っているのだ。けれど本人が知ってか知らずか、女の体はあきらかに反応している。

溢れた唾液が唇から顎へと辿り、女の胸元を濡らしていく。口腔の熱さが陰茎に伝わりティキはほくそ笑んだ。
さっきまであった抵抗する気力はどこへやら、ティキのたぐまったズボンを握り、されるがままに咥えている。無抵抗なその様子は何を考えているのか、けれど見下ろすこちらにすれば興奮する光景で。思わず髪を掴む手に力が入り、容赦なく女の口腔を犯した。
ヌチャ、ジュプ、とまるで局部へ挿入しているような音が口から漏れる。卑猥な水音はこの場をさらに盛り上げるBGMだ。思ったとおり女の表情が艶を含んだ恥じらいを見せたので、ティキは満足そうに目を細めた。

「そろそろ出すぞ、ちゃんと旨そうに飲めよ?」
「っ!・・ふ・・んんっ!」

加速を増した腰の動きに、女が苦しそうに眉を寄せる。もがくみたいにティキのズボンを引っ掻き、涙なのか汗なのか目隠しに染みがついていく。訪れた絶頂感に、ためらいなく女の口へドクンドクンと熱を注いだ。
ティキは言われた通りに喉を動かす女の姿を見て、我慢できずに声に出して笑う。痺れるような快楽に心の中でも絶頂した。


見ず知らずの男の精を飲み干して、女は気を失ったらしい。ティキが手を放すと、そのまま力無く枕へと落ちる。
唾液に濡れた竿をズボンに戻しベッドから降りると、静かに目隠しを外す。意識ない女の表情は無防備なものだったが、ティキの目には恍惚として見えた。
ゆるんだ口から、飲みきれなかった白い液体がたれて首筋へと落ちる。それをなかなか悪くないと興趣がわき、もうすこしこの女で遊んでもいいかもしれないと思う。後に引くつもりは無かったのだが、こうも嗜虐心をそそられる女にはなかなか巡り会えまい。
こちらの身元がばれたらその時に始末すればいい。こんなに弱っちいんだ、急いで殺さなくても少し楽しんでからでも遅くはないだろう。


それよりも、今後この女が自分との関係をどう折り合いをつけるかが気になる。忘れるのか、逃げるのか、それとも男に白状するのか。
ノアだとあえて言わなくても十分楽しめる展開になりそうで、ティキは悪趣味な想像をしながら女の部屋から消えた。




−−そう。すべて気まぐれだった。


忍び込んだのも、続けようと決めたのも、ちょっとした遊び。
女にはなんの感情もない。サディスティックな感情を刺激されるだけ。エクソシストを嬲る行為が楽しい、けして何かしらの感情が動いたわけではない。殺そうと思えばいつでも出来る。

ただ、その時がこないだけだった。








◆◇◆◇◆




ティキはのし掛かる度に馬鹿みたいにヨガって喘ぐ女を蔑みながら、女の恋人であるエクソシストのことを考える。説明できない不快な感情がさらに甚振りを激しくさせ、女の悲痛な叫びを聞くと胸がすっとした。
白い肌に一つ傷をつけるたびに、小さな満足感が胸に湧いてくる。辱められて従順になる姿に、憐みと愛着を覚える。そうやって少しづつ侵食される感情に、ティキは戸惑い、苛立ちを覚え始めた。


(・・・イライラするんだ、あんた見てると)


タバコを口にくわえたまま、失神した女の首に触れる。しっとりと汗ばんだ肌に薄赤い痕が痛々しく残っていて、おそらく明日になっても消えないだろう。
それでもまだ『夢』だというのか、現実ではないと思い込むのか。絞められた記憶も蓋をして、無かったことにしてしまうのだろうか。ティキの存在を。

「ふざけんな」

指先に力を入れる、もう一度絞めてやろうかと力を込めた。ティキはグッと首を垂直にベッドに押さえつけて、意識が無くとも苦しそうに眉を寄せる女をじっと見つめる。


−−−殺そうか、本当に。


自分がこの女をどう思っているのか、そうすれば分かるかもしれない。壊してしまえば、その価値に気づくかもしれない。苛立ちの正体も分かるのかもしれない。
ノアであることも曝して、いったい自分はこれからどうしたいのか。分からないまま、女の首にさらに力を入れて絞める。苦しさに気がついたのか女の意識が戻ったらしい、もがくようにティキの手を掴んだ。

うっすらと双眸が開き、目が合う。
先ほど情事の最中に見せた隷属の光はもうそこには無く、変わりに改めて突きつけられた現実への絶望が映っていた。それを見た瞬間、ティキは手の力を緩めて冷笑する。
女は再び遠退く意識に死を感じたようだが、殺すことなくティキはその細首から手を放した。

(そうだ、これは現実だよ)

またも夢の世界に旅立とうとする女を引き止めて、今度は優しく頬を撫でる。夢の中の出来事ではないのだと、はっきりと知らせる為に現実へと導く。




「おはよう」と、囁いて。










END

- 7 -


[*前] | [次#]





D.gray-man


(D.gray-man....)





戻る


×
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -