D.gray-man


1


眩しさを感じて、重たいまぶたをなんとか持ち上げる。

(ああ、もう朝なの?・・)

ミランダはゆっくりと目をこすり、けだるそうに体を起こした。

(・・あっ)

隣にいる人物を思い出してあわてて布団に潜る。肌と肌が触れ合い、顔が赤くなった。
マリはまだ寝ているようで、静かな寝息にホッとする。

(マリさん)

昨夜、二人は結ばれた。
ミランダは何がなんだかわからないまま、あっという間に官能の渦に巻き込まれて
夢心地のまま、どうやら気を失うように眠ったらしい。

(は・・恥ずかしい・・・)

昨日の嬌態が、急に思い出される。

(あんな・・こ・声、とか・・う、うぅ、もうダメ!)

そっと、布団から抜け出した。しかし、自分が素っ裸なのに慌てて、イスの上に掛けられてあった自分の服に手をだしたとたん

ガタタターン!

見事な音と共にイスが転がった。

(ヒィィィィィッッ!!)

体中が総毛立つ。


「・・ん・・」
「!!」
「ミランダ・・?」

(お・・起きちゃった!)

青ざめつつ、服で体を隠す。

「何、やってるんだ?そんなとこで」

ムクッと起き上がるマリが何も着ていないことにいまさらだが、焦る。

「いっ・・いえっ・・あのっ・・部屋に戻ろうか、と・・そのっ」

マリの裸を見ないように顔を不自然に背けるので、不思議そうにマリはこちらを見ている。

「あ・・あの・・マリ、さん・・」

ミランダは勇気を振り絞った。

「なんだ?」
「そちら・・向いてもらって・・いいですか?・・服、着たいので」
「服?」
「は・・はい」

マリは苦笑した。

「もう、着てしまうのか?」

ミランダは全身が赤く染まり、オドオドしながら

「え・・っと。その・・その・・」
「ふふ、冗談だよ。確かに、みんなそろそろ起きる頃だな」

そう言いながら、マリはシャツに袖を通した。

「では、後ろを向いてるから」

ミランダはお言葉に甘えて、その間に服を着させてもらうのだった。
どこからか鳥のさえずりが聞こえる。時間はまだ5時になったばかりなので、ほとんどの団員はベッドの中だろう。
マリがごく自然にミランダの手を握ったので、心臓が跳びはねた。

「ダメか?」
「えっ!・・いっ、いえ、まさか」

ミランダの慌てぶりが可笑しいのか、マリは楽しそうに小さく笑う。
二人で手を繋いで教団を歩くなんて、いつもは出来ないから。ミランダはくすぐったいような、恥ずかしいような何とも言えない気持ちになった。

(マリさんの手・・大きい)

ふと、昨夜この手が自分の体を触れたのだと思い、顔が熱くなる。

(マリさんは、どう思ってるのかしら・・はしたない女だと思ったかしら・・あんな・・姿を晒して、がっかりされてないかしら・・)

心配で、そっとマリを見つめる。マリは穏やかに微笑んで、ミランダの視線に返した。

ミランダの部屋の前まで行くと、マリはそっと手を離す。

「・・では・・」
「送ってくれて・・ありがとうございます」

そう言うと、マリは少し淋しそうに微笑む。そして、そのまま体を屈めると、ちゅ、と軽くキスをした。

「!」
「まだ、離れがたいな・・」
「マ、マリさ・・んっ」

カアッと、全身が熱くなった。

(し、刺激が強すぎるわ・・)

マリはフッと笑い、今度はミランダの耳元に口を寄せると

「では、あとで」

と、低音の声でささやいた。
もう本当に燃えちゃうんじゃないかと思うくらい、ミランダの体中の血が沸騰した。

(マ・・マリさんが、違う人みたい・・・)

何とか、ミランダはマリが見守るなか自室に入ると、高鳴ったままで治まりのつかない心臓を抑えるようにベッドへダイブした。



シャワーを浴びて、食堂へ向かう。

なんだかフワフワした心持ちで、あまり食欲もないのだが朝食をとらないとジェリーにこっぴどく叱られる為、ミランダは食堂の列に並ぶ。
ミランダは優柔不断なので、メニューはたいていがジェリーのオススメになることが多く、今日もまた

「おはようミランダ、はい、これアタシのオススメ!」

と、ドン、とトレーごと出された。
焼きたてのクロワッサンに、熱々のコーンポタージュ、新鮮なサラダとフワフワなオムレツ、デザートにはミランダの大好きな洋梨がのってある。

(まぁ、なんて美味しそう)

顔がほころぶ。
食欲も復活して、ミランダはトレーを持って近くの席に座った。

「ミランダ、おはよう!」

明るく可愛い声が聞こえて、それがすぐにリナリーだと気付いた。

「おはよう、リナリーちゃん」

リナリーは、べーグルサンドにカフェオレをトレーにのせてミランダの前に座った。ミランダをじっと見ると

「ミランダ、何か良いことあった?」
「えっ!?」

ガシャン!

びっくりしてスプーンをポタージュに落としてしまい、ポタージュがミランダの顔と服に思いきりはねた。

「きゃっ!ご、ごめんなさいっ・・」
「大丈夫?ミランダ、熱くない?」
「ええ、だ・だだ・大丈夫よっ」

ミランダは、動揺を隠し切れず、今度は近くにあったサラダをひっくり返してしまう。リナリーは何かひらめいたようで、ミランダだけ聞こえるように

「あ、マリだわ」

とささやく。

するとミランダの体がビクッと反応した。それを見て、リナリーがイタズラっ子のように笑いながら

「うそ、うそ、ごめん!マリは修練場よ」

ミランダはカアッと顔を赤く染めて、恥ずかしそうに呟いた。

「ひ・・ひどいわっ、リナリーちゃんたら」
「ゴメン、ゴメン!・・でも、やっぱりマリと何かあったのね」

リナリーはにっこり笑うと、カフェオレを一口飲んだ。ミランダは慌てて首をブンブン振る。

「な、何にもないわっ・・ほ、ほんとよっ」

リナリーはそれ以上聞いてこなかったけれど、ミランダは気恥ずかしくて、朝食が喉を通らなかった。



修練場をのぞくと、マリはまだ鍛練中だった。ミランダもタイムレコードを持って、そっと入る。

(朝から、ずっと鍛練しているのかしら・・)

マリは神田と組んで、組み手の稽古をやっている。ミランダは邪魔しないように、と片隅にいくと静かに『時間停止』を発動させた。

(私も頑張らなくっちゃ・・)

ふと、マリを見ると一時中断してタオルで汗を拭いている。
汗が気持ち悪いのだろう、濡れたシャツをぬいで、上半身裸になった。

(!)

それを見て、急にミランダの顔が熱くなる。

(ど、どうしたのかしら・・マリさんの裸は初めて見るわけじゃないのに)

胸がドキドキして、見ていられない。

(どうしてこんなに・・?)

昨夜の、自分が触れたマリの硬い肌を思い出してしまった。

(わ、わたしったら・・はしたないっ)

心が乱れすぎてイノセンスに集中できず、発動を一度解いた。

(ダメダメ!ミランダ、あなたこれじゃエクソシスト失格よ・・)

気持ちを落ち着かせ、再び発動させようとしたその時。

「ミランダ?どうかしたのか?」

心配そうなマリの声が聞こえて、ミランダは振り向いた。

「え、い・いいえっ・・大丈夫です」

マリが新しいシャツに着替えている、ひそかにホッとした。

「どこか具合でも悪いのか?心音が少しおかしいぞ」

ミランダの隣に膝まずく。フワン、とマリから男の香りがして、ミランダは
また顔が熱くなった。

(私・・どうかしてるわ)

「・・だ、大丈夫です・・それより、マリさん朝から修練場にいるんですか?」

時計は正午を回っていた。

「ん・・ああ。もう終わったが、ミランダはこれからか?」
「はい」
「あまり、無理をするなよ・・」

ミランダは修練場で何度か倒れてしまい、その度にマリに医務室まで運ばれているのだ。

「後で、迎えに来よう。」
「えっ、そんなっ・・悪いわ・・」
「そうしたいんだ。ミランダの修練が終わったら、一緒にお茶でも飲もう」

マリは穏やかに微笑み肩をトンとたたいて、ミランダから離れた。



夢を見た。


マリの手が頬にかかりそっと瞼にキスされた。

『ミランダ・・』

マリの唇は瞼から鼻先、そしてミランダの唇へと渡る。触れるように、しかしゆっくりと粘着を帯びて、ミランダの唇を味わう。
頭がぼうっとして、熱でも出たみたいにくらくらした。
マリの指が、つつ、と耳たぶを這うと、焦がれるように、ミランダはその先を望んでしまう・・・

・・ああ、これって昨日の夜の夢?

夢でも、私ったらこんなはしたないの?恥ずかしくて死にそう・・

夢の中のマリは、首筋を指先で撫でていた。それが気持ち良くて、ミランダは声が出そうになる。
頬に唇の感触を感じ、その時にふと、これは本当に夢なのか、という疑問が沸いた。

リアルな感触、息遣いまで感じる

(夢・・じゃないの?)

そろりと瞼を開くと、そこにはマリがいて、ミランダを優しげに見守っていた。

(やっぱり、夢だったのね・・)

ちょっとガッカリした自分に赤面しつつ、マリを見る。マリはホッとしたように微笑んで、

「よかった、目が覚めたか」
「私・・・」

頭がくらくらする。

「イノセンス発動中に倒れたんだ」
「あ・・私・・」

そこでハッとした。ここは、医務室だ。また、やり過ぎてしまったと気付く。
今日は特に、どこか舞い上がっていたから集中し過ぎた・・・。
マリはミランダの頭をそっと撫でる。

「ミランダ、すまない。もう少し早く迎えに行くべきだった・・」

申し訳なさそうに呟かれ、ミランダはいたたまれなかった。

「ご・・ごめんなさい」

(また迷惑かけてしまった)

「あの、私・・もう大丈夫です。だから、部屋に戻ります・・」

慌ててベッドから体を起こした。

「ミランダ、まだ・・」
「いいえ、本当に大丈夫なんです」

本当は少しだけ、目眩がしたがマリを安心させたくてベッドから降りようとする。
その時、スッと手が延びて、ミランダの身体が宙に浮く。

「・・!」

抱え上げられ、いわゆるお姫様抱っこをされていた。

「あまり、無理をするな」

穏やかに諭されて、なんだか泣きたくなる。

「・・・・」
「ミランダ?・・」

ミランダは抱えられたまま、マリの胸に顔を埋める。

「・・・優しすぎます・」

涙がじんわり、溢れ出た。

「違うぞ」

優しい声が耳に落ちる

「これは趣味みたいなものだ」

楽しそうに笑って、医務室のドアを開けると

「では、部屋まで送ろうか、食事は後でリナリーに頼んでおこう」

そう言って、マリは歩き始めた。




抱き上げられた腕が、いつもに増して逞しく感じた。厚い胸が、頬にあたり体温が伝わる。
それはとても心地よく、離れがたく感じた。

時間は、もう夕方の5時を過ぎて、あたりは暗くなっている。
この時間帯は食堂や談話室で過ごす者が多い為、団員の部屋がある階は人の気配がなかった。
医務室からミランダの部屋まで行くには、マリの部屋の階を通らなければならない。

(・・・・はしたない、かしら・・やっぱり)

まだ、もう少し一緒にいたい。
けれど、昨日の今日ではまるで誘っているみたいだ。

(誘う・・・)

そっと、マリを見る。ミランダの視線に気付いたのか

「なんだ?」
「あ、いえっ・・」

(まだ、離れたくない・・でも・・)

もう少しで、マリの部屋がある階にさしかかる。ミランダは、なにか糸口を見つけようと

「そ・・そういえば変な夢を見たわ」
「夢・・?」
「・・キスされる夢でした・・マリさんに」

マリは不思議そうな顔でミランダを見た。

(あわわわ、私ったら、何言い出してるのっ!マリさん思いっきり引いてるじゃない・・)

「それは・・いつだ?」
「え・・さっき医務室で・・あ、き、気にしないで・・私ったら、何を・・」

これでは、いやらしい夢を見たと単に報告してるだけだ。

(恥ずかしくて、消えてしまいたい・・)

「夢ではないかも、しれないぞ」

含みがある言い方に、ミランダは顔を上げた。

「・・え・・?」

マリは立ち止まると、そっとミランダの瞼にキスをした。

(あ・・!・)

夢の中の感触が思い出され、胸の奥が、キュン、と鳴るのを感じた。マリの唇は、そのまま鼻先を辿りやがてミランダの唇へと這う。

(わ・・わっ)

また熱いキスがくるのかと、身構えたが・・チュ、と軽いキスを落としただけだった。

「すまない、悪ふざけをしてしまった」

照れたように、少し笑うとマリはそのまま、階段を上っていく。

「あの・・」

キュ、とマリのシャツを掴んだ。

「あの・・あの・・」

心臓の音が聞こえてきそうな程、鳴っている。でも、ミランダはこの後、うまく言葉が出てこない。

一緒にいたい。

(また、あなたに愛されたい・・)

「・・離れたく、ない?」

感じたように、突然マリが聞いた。

「!・・」

(はしたない・・かしら)

恥ずかしくて、言葉がでない・・やっとの思いで、小さく頷くと、マリからは返事のような、夢より熱い口づけが降ってきた。






マリの部屋に入ると、彼の匂いがして、安心する。
抱きしめられて、優しく髪を撫でられたら耳元で、そっと囁かれる。

「・・我慢してたんだぞ・・」

それなのに、と優しい恨み言を言いながらミランダの首筋を舐めた。
自分の中の理性が溶け出して、本能が頭をもたげると、甘い痺れのような快楽がミランダを支配していく。

たった一晩で、虜になり始めてるなんて、こんなふうに、求められることが、気持ち良くて・・。
快楽に浮かされて、普段言えないことも言えてしまう。肌と肌とが触れ合い、熱い息を感じながら

ミランダは目を閉じてマリの胸に溺れていった。





end

- 59 -


[*前] | [次#]





D.gray-man


(D.gray-man....)





戻る


×
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -