D.gray-man
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◆◇◆◇◆
び・・
びっくりしたわ・・・
ドックンドックンと心臓の音が耳に響いている。突然の事だったから、まだ体が震えていた。
(マリさん・・気づいたかしら?)
気づいてないわよね?と辺りを見回す。いつの間にかティキはいなくなっていて、恐らくマリが入ってくる寸前にどこかへ消えたのだろう。
その気になれば空気にも触れる彼は、壁でも何でもするすると通り抜ける。今はもうそれ程驚かないが、初めて見た時は卒倒しそうになった。
このまま帰ってくれればいいのだけれど、今までの事を思えば多分それはないだろう。今のうちにパジャマを着ておかねば。
布団の中から床へと手を伸ばす。思い切ってベッドから出てしまおうかと迷うが、いつティキが現れるかと気が気じゃない。
(も・・もうちょっと・・!)
伸ばした手の中指にあと数ミリで届く・・という時、目指すパジャマがサッと消えた。
「あぁぁ・・」
どうして、と思う間もなく視界に写る黒い革靴で分かる。ティキが戻ってきたのだ。
遅かった・・と指先の力が抜けて恐る恐るティキを見上げると、パジャマをつまんだまま面白くなさそうな顔で扉に目を向けている。
「おい・・・アレじゃあねぇよな」
「え?」
「え、じゃねぇよ。お前が言ってたご立派な野郎は、まさかアレだってんじゃねぇだろうな?」
「え・・えっと・・」
どうやらマリの事を言われているらしいと、ミランダが悟るとみるみる顔が赤くなり、恥ずかしそうに布団に顔を埋めた。
「マジかよ、なにお前ああいうのが好きなわけ?」
「ああいう・・え?え?」
「だってどうみてもツルツルだよな?あれやっぱハゲてんの?それとも剃ってんの?」
「しっ、知りませんっ!・・失礼な事を言わないで下さいっ・・り、立派な人なんですから」
大事な人をけなされたのに我慢できず、赤い顔のまま珍しくティキに抗議する。
そんなミランダを見て意地悪く口の端を上げると、ティキは手に持ったパジャマをタオルのように肩にかけたまま、
「えらくあのハゲにご執心みたいだけど、でっかい体同様アッチも『ご立派』だった?」
「ひぃっ・・!」
軽々と布団を引きはがし、押さえ付けるようにミランダに馬乗りになった。
隠していた上半身がティキの眼下に晒される。恥ずかしさと今いる場所が教団である事の恐怖から、ミランダはティキを拒絶するように首を振る。
「や、やめて下さいっ・・テ、ティキさん、お願いですから・・本当にっ」
「あんまでっけぇ声出さない方がいいんじゃねぇの?」
「っ・・で、でもっ・・」
首筋にティキの顔が埋まる。ぬるりとした舌の感触がしてミランダは耐えるように指を噛んだ。
「・・・・おい」
「・・?」
怪訝な顔のティキがこちらを見下ろしている。どうしたのだろうと思う間もなく、おもむろに額に手がのせられた。
「熱、あんの?」
「へ?」
あんまりにも意外な事を言われるので、ミランダは目を真ん丸にしてティキを見返した。
額にあてていた手を自分の額へと持っていくティキに、別人を見るような思いである。
「ちょっと風邪をひいてしまいまして・・」
「風邪?お前が?」
「は、はい・・」
「馬鹿は風邪ひかないっていうだろ、なんかの間違いじゃねぇの?」
「いえ、あの、医療班で診ていただいたので・・あ、でももう殆ど治りましたから」
「ふーん」
ティキは心配しているふうでもなく、あまり興味がなさそうに言うと枕元の洗面器に目をやって、
「そんじゃ、脱いでたのは体拭いてたわけ?」
「あ・・はい、そうです汗をかきましたので」
もしかしてパジャマを返してくれるのだろうか、そんな淡い期待が浮かび怖ず怖ずとティキを見上げると、パチと視線が合う。
何かを思ったのかティキは、すっと目を細めるとミランダの上から体を起こした。
「仕方ねぇな、今日は帰るとするか」
「えっ!ほ、本当ですかっ?」
「あのなあ、病気で弱ってる奴に気遣う優しさくらい俺だって持ってるって」
「テ、ティキさん・・?」
信じられないと目を見開く。
ティキには昔、体調が悪いから行為を遠慮したいと伝えた時に、ひどく怒られ半裸で寒空に放置された事があった。
本当に同一人物の言葉だろうか、信じられない。
「本当に・・?」
「うたぐり深いな、何にもしねぇよ」
「・・・・・ティキさん」
ホッと肩から力が抜けて、意外な優しさを見せるティキに目頭が熱くなった。
ヒドイ人だと思っていたけれど、こんな優しい面もあるのか。疑うなんて本当に悪かったわ、とミランダが感じていると。
「じゃ、せっかくだから体拭いてやるよ。俺が」
「・・・・・・・え?」
何を言われたのかすぐには飲み込めず、ミランダはポカンとした顔で彼を見る。
ティキはワイシャツの袖を腕まくりして、湯に浸かったタオルに手を伸ばすところだった。
「ち、ちち、ちょっと・・待って下さい」
「あ?なに」
「あの、か、体を拭くって・・?どういう事なんでしょう」
「どういう事もなにも、優しさ以外に何があるんだよ。自分じゃ拭きづれぇとこも俺が拭いてやるって言ってんだろ?」
ティキの片方の眉が不愉快そうに上がると、また怒らせたのだろうかとミランダの体はビクッと震える。
できるならこのまま何事もなくお帰り願いたい。別れ話についても、今日のところは諦めて次回に持ち越そう。
場所が場所なだけに、ミランダはとにかく焦っていた。うっかり怒らせて長く居られたら大変なのだ。
「ほ、本当に体を拭く・・だけ、ですよね?」
「なんだよ、だけ、って」
「いいえ、あの・・ティキさんここは教団ですから・・その・・」
「あんまり煩いと朝まで帰んねぇぞ」
「・・・・・」
それは困る。
大人しくなったミランダにティキはそれでいいと唇の端を上げ、洗面器からタオルを絞ると肩口をベッドに押さえ拭きはじめる。
さっきまで熱かったお湯はぬるくなったのか、首筋を拭かれて冷たさが少し残った。
「・・・・・」
タオルは鎖骨から胸骨を辿る。ミランダは無防備すぎる乳房を両手で覆い隠した。
もう何度となく見せているのに、どうしてか今日はいつもより恥ずかしい。
「手ぇ、邪魔だ」
「・・はい」
視線が合う。ドキリとした。
そうだこの瞳だ。雄の色をしたティキの瞳が自分を見ていて、恐れとともに胸がざわめく。見られているというだけで、逃げ出したいような泣きたいような気持ちになる。
肉食獣に狙われる獲物は、きっとこんな気持ちなのではないだろうか。
タオルは乳房を包み最初は右、次は左へと動いた。何の快楽も呼ばない触り方なのに先端が固くなっていく。
ティキの目が僅かに細まったのを感じて、恥ずかしさに顔を横に背けた。
(・・!)
タオルごしに乳首をねじるように触れられ、ミランダは思わずティキを見る。
「テ、ティキさん・・」
「なに?拭いてるだけだろ?」
「・・でも・・んっ!」
直接は触れていないが、薄い布一枚の隔たりではティキの指の感触はリアルに伝わる。
濡れたタオルの感触は、まるで舌のような動きで乳首を優しく嬲ると、微弱な電流が全身に伝わりミランダはなだらかに息が荒くなった。
よく慣らされた体は些細な事にも反応してしまう。まるで条件反射のように、それだけの刺激で体の芯にほてりが起きる。
(私ったら・・)
自戒するように下唇を噛み、ティキから目を逸らす。流されては駄目よ、ここは教団なのだから。
大切な人達や、ひそかに想いを寄せる彼が居る場所なのだ。そんな所で恥ずかしい行為に耽るなんて絶対に駄目。
ふと、マリを思い出しハッと息を飲む。
そういえばミランダの食事を頼みに行ってくれたのだった、という事は・・・・戻ってくるという事?
さっきは気づかれなかったが、さすがにこの場面を見られたら言い訳も出来ない。
「あの、ティキさん・・」
「んー?」
「ええと、あの、やっぱり・・」
これ以上は遠慮したいとどう伝えよう。考えながら怖ず怖ずとティキを見ると、既にパジャマのズボンに手をかけている。
ミランダは驚いて狼狽しながらも、ズボンをがっちり掴んだ。
「テ、ティキさんっ?・・そそ、そっちは大丈夫ですからっ」
「遠慮すんな、ちゃあんと拭いてやるって」
「いえ、やっぱり恥ずかしいのでもう・・そ、それに誰か来たら大変ですしっ」
「うるせぇなあ、さんざっぱら俺に股開いといて何を今更」
「いやああっ・・ティキさん、声が大きいですっ・・きゃあっ!」
舌打ちとともに強引にズボンを引く。ビリッと布の引き攣れる音がしてショーツと共に一気に膝まで下ろされた。
「おまえね、人の親切を無下にしちゃ失礼だろ」
「・・・・ご、ごめんなさい」
黒い瞳の奥に金色の何かが光る。それはティキの中のノア。
機嫌を損ねているのが分かり、恐ろしい予感からミランダは抗議の口を閉ざす。
パジャマのズボンを剥ぎ取られ一糸纏わぬ姿にされると、ミランダは心細げにティキを見た。
「ほら、脚開けよ」
「えっ・・・」
洗面器で再びタオルを絞り、太股をゆっくりと拭われる。ぴったり合わさった脚は躊躇うように、腕一本分間隔を開けた。
「もっとしっかり開けって、これじゃちっとも見えねぇよ」
「・・・は、はい」
そろそろと30p程開くと、焦れったそうに眉を寄せたティキが、ぐいっと手でこじ開けミランダの両足は大きく開かれる。
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