D.gray-man


4


ショーツとブラジャーだけの姿が恥ずかしくて、ミランダは毛布の中に滑り込む。
さっきまでの期待は今は不安に変わっていて、横になったまま恐る恐るティエドールを見た。

「あの・・何を書くんでしょうか?」
「何って、僕の名前だよ。君の体にしっかりと染み込むようにね」

何でもない事のようにさらりと言いながら、ティエドールは一本の筆を選び先を解し始めた。

「で、でも元帥・・」
「ああ心配しなくていい、絵の具をつけたりはしないよ、その滑らかな肌を傷つけたりなんかするもんか」
「・・そうなんですか?」

少しだけホッとして力が抜ける、なんとなく体が絵の具まみれになるのは好ましくなかったから。
ティエドールは鞄から一つ瓶を取り出し、コップにそれを注いだ。
綺麗な琥珀色の液体は一瞬何かは分からなかったが、彼がそれを一口飲んだのを見て白ワインらしいと悟る。

「うん、美味しいね」
「それは・・ワインですか?」
「そうだよ、飲んでごらん。イタリアワインだ」

言いながら、ティエドールはワインを口に含むとそのままミランダに口移しで流し込んだ。

「・・っ・・!」

ほのかに甘く爽やかな口当たりのワイン。けれど続けられる口づけに、その味を確認する余裕は無い。コクンと唾液まじりの白ワインを飲みながら、ミランダはワインではなく、その口づけを味わった。

(・・あ)

しかしミランダがうっとりとする前に、唇は離されてしまう。
物足りなさを感じつつ目を開けると、ティエドールはすでに傍から離れて筆をワインに浸けていた。

「フランスワインの繊細さや重厚さも無いけれど、イタリアワインの開放的な味わいもたまにはいいね」
「はい・・」
「ん?どうかしたのかな?」
「い、いいえ」

もう少し続けて欲しかった・・なんて言えないから、ミランダは頬を染めて首を振る。

「ミランダ、そのまま動いちゃダメだよ」
「えっ・・ワインで書くんですか?」
「葡萄の香りと共に、君の肌にゆっくりとワインが染み込むかと思うと・・とても美味しそうだと思わない?」

悪戯っ子のように笑いながら、ティエドールの筆はミランダの首筋から鎖骨をツウと辿る。さっき飲んだぬるいワインは、肌に乗せられると意外と冷たくてピクンと体が反応した。

「冷たい?」
「い、いえ・・大丈夫です」

(あ・・)

『Froi』と文字が印されていくのが分かる。
優しくこそばゆいような筆遣いが、どうしてか次第に彼からの愛撫と錯覚してしまう。

「そういえば・・ポンペイは素晴らしかったよ、本当に信じられないくらい遺跡の状態がいいんだ」
「そ、うですか・・」
「2000年以上も前なのに、銀行や警察や酒場まであったんだよ・・すごいよね、本当に」

熱っぽく語りながら、ティエドールの筆は肩先をなぞり、そのまま脇腹へと移動していった。『Tiedoll』と綴られていくと、確かにそこに刻印を押されたようで、熱を持ったように熱くなる。

「ポンペイは、ワインやオリーブオイルなんかの産地でも有名だったらしい。このワインは残念ながらトスカーナ産だけどね」
「っ・・そう、なんですか・・あっ!」

筆がスルリと肩紐を引っ掛けて、ミランダの左側の乳房があらわになると、反射的に僅かに体を丸くした。

「ダメだよ、動いたら」
「ご、ごめんなさい・・」
「ちゃんと書いておかないと、君の体に僕の存在を充分染み渡らせる為なんだから」

真面目な口調で言いながら、ティエドールは乳房へと筆を走らせる。

「はい・・っ、んっ」

いつもは血管が透けるほど白い乳房が、うっすらと薔薇色に染まり。
既に固くなっている乳首は、なだらかに荒くなる呼吸と共に微かに揺れていた。

筆をワインに浸けると、たっぷりと含ませて乳首をひと撫でする。ビリッと電流がミランダの体を走った。

「はぁ・・っ!」
「ミランダ、動いたらダメだって言っただろう?」
「あ、ごめん・・なさいっ・・」

チクリとする筆の感触が甘い刺激となって、ミランダは堪えるように唇を噛み締める。

「・・ああ、ちょっとワインが多かったな。垂れてしまう」

言うなりワインに濡れた乳首を啜るように舐めたので、ミランダは耐え切れず声を上げた。

「あぁっ・・!」

くらくらする。たったそれだけの愛撫なのに、頭がボゥッとなってしまう。すぐに離された唇は、くすぐるように優しい声で耳元へと寄せられた。

「もっと・・自覚しないとね、ダメなんだよ?」
「・・?」

快楽に流されたうつろな瞳でティエドールを見つめる。

「そんな瞳をされると・・つい君には甘くなってしまいそうだ」

うっとりと目を細めながら、頬にちゅ、とキスをした。

「・・でもね、たまには厳しくしないと。君に分かってもらいたいから」
「元帥・・わ、わたし・・」
「怒っているんじゃないよ、もう間違えたりしないでほしいんだ・・ね?」

頭を撫でられて諭すように囁かれると、ミランダは胸が痺れるように熱くなる。

うつぶせになり、筆はうなじから肩甲骨をなぞると、思わず熱い吐息が漏れた。背中はとても弱いから。パチンと背中のホックが外されて、開放されたようにミランダは目を閉じる。

「っ・・は、ぁっ」

背筋をすぅっと撫でるように筆が通ると、ぞくぞくとしてシーツを握り締める。
冷たい筆の感触は上気した肌には心地好かったが、ワインの香りのせいか酒に酔ったようにくらくらと眩暈を覚えた。
強弱をつけながらティエドールの筆は、ミランダの体にゆっくりとその名を刻んでゆくが、まるでわざとそうしているように、彼が熟知しているミランダの快楽のつぼには触れない。
肩甲骨のくぼみや脇腹あたりは、触れて欲しくても火を点ける程度になぞるだけで、すぐに遠退いてしまう。

「・・ぁあっ・・」

もどかしさから声が漏れると、そんな自分を恥ずかしくてミランダはシーツに顔を埋めた。

「下が書きづらいな・・腰を上げてくれる?そう、もう少し高く」

言われるまま、うつぶせの状態から腰だけを上げる。足を少しだけ開いたのは、その場所を触れて欲しかったから。
太股の内側をワインを滴らせながら筆が動く。水滴が垂れる微かな刺激にも体の奥に疼きを感じた。

ショーツを一枚隔てた秘所がじわじわと熱くなって、ミランダはそこが濡れているのに気づく。口に溜まった唾液を飲み、は、と息を吐くと堪らずティエドールを見上げた。

「あ、の・・元帥・・」
「どうしたの?」
「・・そ・・その」

足りない、筆なんかじゃ足りない。もっと触れて欲しい、元帥に直接。
懇願するように見るが、ティエドールは素知らぬ顔でコップに筆を置いた。

「さて、かなり染み込んだかな?」

そう言うとおもむろにペロッと背中を舐める。

「あっ・・!」
「うん、いい感じだね。でも・・このままではミランダの体がベタベタしちゃうかな?」

つうっと舌先が肩先を震わすように舐め、そのまま肩甲骨にキスをするとティエドールは体を起こして、

「はい、おしまい」
「えっ?」
「シャワーでも浴びておいで、さっぱりするよ」
「そ、そんな・・」

こんなに熱くされた体を今更どう冷やせばいいか。
縋るように見ると、ティエドールは指先についたワインを舐め、微笑みながら。

「どうしたの、お仕置きが足りない?」

冗談のようなその言葉で、ミランダは再び期待を込めてティエドールを見た。

「げ、元帥・・あの、あの」
「ん?」

眼鏡の奥の薄茶色の瞳が誘うように自分を見ている。
引きずり込まれるような感覚を覚えながら、躊躇いつつもミランダは口を開いた。

「た・・足りま・・せん」

恥ずかしくて死にそう。
けれどちっとも後悔はしていない、それはすぐに落とされた深い口づけがすべて。

割入れられた舌が、抱きしめるみたいにミランダの舌を絡ませ撫でる。
胸が苦しいくらい高鳴って、舌と舌との絡み合いに懸命に応えると、ティエドールは下唇を愛撫するように噛んだ。

お仕置きなんかじゃない、ご褒美みたいな口づけ。

「いい子だね、自分から反省をするのはとても良いことだ」

くたりと力が抜けたミランダの耳元で囁き、くすぐるような笑みを漏らす。

「元帥・・ごめんなさい・・だから、お願い・・やめないで」
「ああ分かったよ、本当に君はなんて可愛いんだろう」

膝上に座らされ、背後から首筋に舌を這わせ耳たぶを弄ぶように舐めると、
ティエドールの手はさっきから溢れる蜜が張り付いた、ショーツへと伸ばされた。

「おや?」

その声にぴくんと震え、顔が熱くなる。そこがひどく濡れているのは自分でもよく分かっていたから。

「ぁ・・あぁぁん」
「こんなに濡らして、まだ溢れてくる」

ショーツを軽く引き下げ指でじかに触れられると、待ち兼ねた刺激にミランダはため息が漏れた。蜜を絡ませた親指でクリトリスを回すように擦り、中指を浅く挿入すると軽く掻き混ぜる。

「は、あぁんっ・・」

快感に鳥肌が立った。
根元まで入れると探るように動かし、指腹で上部を微細に刺激する。
その指使いは、よくよくミランダを知り尽くしている動きだ。

「はしたないよ、こんなに垂らして・・」
「っ・・ご、ごめん・・なさい」
「ミランダ、分かってるの?これはお仕置きなんだよ」
「は、い・・っぁあっ!」

くりくりと奥を擦られ、甘いストロークを繰り返されると、頭の中に靄がかかり力無くティエドールにもたれ掛かる。もうどうされても、どうなっても良い。こうやって愛する人から与えられる快楽に酔えるなら。
背後から抱きしめられる腕の強さが嬉しい。
そのまま閉じ込められるみたいにベットへと倒れると、再び唇を塞がれた。

「んっ・・ふ」

舌と指が口腔と秘所を優しく蹂躙して、ミランダの意識はとろけそう。
縋り付くように彼の首に腕を回し強く抱き着くと、なぜか唐突に涙が溢れた。

体温が、嬉しくて。

ぴたりと合わさる肌と、のしかかる体の重たさが、心地好くてたまらない。
実感した、帰ってきたのだと。暖かく硬い肌に包まれて、ミランダは子供のように泣き出していた。

「元、帥っ・・げんす、いっ・・」
「おやおや、どうしたんだい?そんなに泣いて」

お帰りなさい、そう言いたくて口を開いたが、親指の爪がクリトリスを甘く引っ掻いたので、ミランダの体はビクンと跳ねた。

「っ、はぁ・・あぁぁんっ!」
「なんだい?言ってごらん」
「んっ、はぁん・・げん、元帥」

ティエドールの指は、ぴちゃりと水音を立てゆっくり掻き混ぜる。
焦らすように襞をめくり入口をなぞると、浅く出し入れを繰り返すだけ。

「お、か・・おかえり・・なさいっ」

苦しくて恋しくて、そして待ち遠しくてたまらない。自分自身も知らぬ体の奥底から、元帥を欲していた。
理性も吹き飛ぶ衝動に身を任せ、ミランダは泣き出したまま恋人にしがみついた。

「うん」

ティエドールは満足そうに頷くと、指の代わりに熱く硬い何かを秘所に宛がい、沈める。
ぞわぞわと体中の細胞が悦び啼き、駆け抜ける白い絶頂の予感に視界が揺らいだ。

「あぁぁぁっ・・!」

最奥を貫かれ震えるミランダの耳に、ティエドールが何か囁いたのを意識の片隅で感じる。
それはとても優しい声で、ただいま、と言った気がした。






- 22 -


[*前] | [次#]





D.gray-man


(D.gray-man....)





戻る


×
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -