D.gray-man


3


手袋に包まれたミランダの指が、そっと固くなりつつあるティキに触れる。
開いたファスナーからゆっくりと取り出すと、その姿にミランダは恥ずかしそうに目を逸らした。

「懐かしい?」
「そ、そんな・・」

昔付き合いがあった頃に、ティキには色々と教え込まれたのを思い出す。
散々下手くそと罵られ、たまに打たれたりもしたが上手くすると乱暴な事をされないので、ミランダはこの行為は嫌ではなかった。

「・・・・・」

右手で根元を支え、躊躇うように先端に口をつける。
そっとティキを窺うと、にやりと笑いながらミランダの髪をグシャッと握り、

「しっかりやれよ、歯なんか立てたら承知しねぇからな」
「は、はい・・」

頷き、ミランダはそれを口に含んだ。すぐに感じるのはティキの匂い。普段と違う牡臭い、こもるような匂い。
根元をゆっくり上下に擦りながら、舌で先端を包むように舐めると、すぐにピクンと固さが増して、暖かい熱を帯びてきた。


チロチロと猫のように赤い舌が、固い自身を舐める姿にティキは目を細める。
昔よりも舌使いは落ちているが、それでいい。恐らく使う相手がいないんだろう。

青く澄んだ空の下、本来は敵であるミランダが跪き、ノアである自分に奉仕を行う姿は倒錯的で。ティキはゾクゾクとした奇妙な興奮を感じ、頬の緩みを抑えきれない。

「ほら、しっかりくわえろよ下手くそ」
「・・んっ・・んんっ」

両手でミランダの頭を掴みガクガクと揺さぶると、苦しそうに顔を歪めるのが見えて、ティキは更なる興奮を覚えた。
瞳いっぱいに涙を溜め、赤い顔で自分を見上げるミランダに、嗜虐心が刺激されてたまらない。

喉奥に叩きつけるようにミランダの頭を激しく動かしながら、それでも必死で耐えようとするミランダにティキは不思議な愛しさを感じる。

「お前って、ほんと・・救いようがないね」

その珍しく嘲弄を含まない、優しい声音にミランダは気づく事はなかった。
口腔に感じる激しい摩擦、揺さぶられ喉奥への突き立てに思考が麻痺する。熱く、固いティキ自身がミランダの口腔を犯し、その苦しさに指先が痺れ目眩がした。

「んっ・・ふ、んっ・・っ!」

唾液が口から溢れ顎を伝い、地面に落ちる。動かされるたびにジュッ、ジュプ、と卑猥な音が発つのが恥ずかしい。
本当に苦しくて辛いのに、それなのになぜかティキに嫌悪感を抱けない自分が、ミランダは不思議だった。

今も、そう。

酷い扱いをされ辱めを受けていても、やっぱりどうしてか嫌いになれない。今も、口に含むティキ自身を傷つけないように、苦しみながらも舌で守ってしまう。

(・・わた、し・・)

揺れ動く視界に意識も揺らぐ。
ミランダはそれに耐えられなくて目を閉じると、溜まった涙がツウと頬を伝うのを感じた。

がっちりと捕えるように掴んだ手が、さらに力がこもるのに気づく。そろそろ達するのを口腔の熱と固さで悟り、ミランダは身構えるようにティキのズボンを握った。

「・・出すぞ」

やや掠れた声がして、それと共にさらに動きが速まっていく。

窒息しそうな息苦しさに、くらくらしながらその時を待っていると、やがてビクビクと痙攣を感じ、破裂するようにドクンとミランダの喉にティキの精は放たれた。

「・・!」

複雑な味が口腔に広がり顔を歪ませる。
口に手を宛て零れないようにゴクンとそれを飲み込み、まだ荒い息でティキを見上げると、

「まずい?」

彼は満足げに目を細めていた。

「・・・・・」

目眩が治まらず、ぼんやりとした瞳でティキを見上げたまま、ミランダは力が抜けへたりと地面に座り込む。
目の前にティキがしゃがみ、意地悪く微笑して。頬の涙の跡を指でなぞり肩へ辿ると、
そのまま軽く押してきたので、ミランダは人形のようにガクンと倒れた。

「っ・・えっ?」

何が起きたか分からず、ぽかんとした顔でティキを見る。

「おまえさー・・」

その手はミランダのズボンのベルトを外しており、カチャカチャと金具が擦れる音に意識がハッキリした。

「え、テ、ティキさん?えっ?」

スルリと長い指がショーツの中に侵入してきたので、ミランダはハッとして膝を寄せ抵抗したが、ティキのもう片方の手にそれを防がれ、滑るように花唇へと侵入を許してしまった。

「!?」
「ほうら、やっぱりな」

我が意を得たりと、笑う彼をミランダは訝しげに見たが、すぐにその意味を知る。

「え、ティキさん・・?あ、あのっ?」

指はすぐに滑らかな動きを見せ、二本の指で花唇を開くと、
中指らしい一本の指がクプと差し入れられたので、ミランダは思わず弓なりに跳ねた。

「!?・・」
「なーんでこんな濡れてんの?」
「っ・・えっ?あ、いやっ・・はぁん」

掻き回すみたいに中を動かされ、つい甘い声が漏れる。

「おまえさー・・変態なんじゃねぇの?」
「そ、そんっ・・そんなっ・・あっ」
「俺のくわえて濡らしてんだろ?すげぇわ・・ほら、今もどんどん溢れてる」

クッ、と喉を鳴らしながら耳元で嘲るように囁いて。

「知ってる?お前みたいなのを、マゾヒストって言うんだよ」
「え・・マゾ・・ヒ?」
「被虐性淫乱症」

ティキの言葉がはっきりミランダの耳に届く前に、秘芯を爪で引っ掻かれ
衝撃から視界は霞んだ。

ただ、空の青さだけがその瞳に映ったが、それもすぐに覆いかぶさるティキの影に消えてしまった。





◆◇◆◇◆



赤く染まった空を遠くに見ながら、ミランダはようやく麓へと下りる事が出来た。

とりあえず約束を守ってくれたティキに感謝しつつ、なんのかんのと淫らな行為に流された自分に自己嫌悪だ。
人が来なかったからいいものの、もし誰かに見られたら大変な事だった。

(・・・・)

思い出すと、ミランダは恥ずかしさにいたたまれない。結局、最後は全裸になってしまった。青空の下で。


目の前のティキは煙草を吸い、殆どミランダを振り返る事なく歩いている。
風で煙がミランダの元へ届く、その匂いに懐かしさを感じるのは夕暮れのせいだろうか。

(きっと・・次に会う時は、敵同士ね)

そう思うと、少しだけ淋しいような気がしてしまう。
ティキとの関係で良かった記憶は・・あんまり無いのに。それでも知り合いが消えてしまうようで。

「・・・・」

道が終わり、麓の小さな村にたどり着くとティキがミランダを振り返った。

「んじゃ、俺行くわ」
「あの・・ありがとうございました」
「この辺の村はここしかないし、今晩はここに泊まるのか?」
「え、ええ・・・あら?」

なんだか優しいティキに少し不審に思いつつ、ミランダはその村に目をやると奇妙な違和感を覚えた。

「・・・?」

違う、と思う。
昨日までいた麓の景色と明らかに、違う。

「あの・・ティキさん、ここって私が来た方で・・あってます、よね?」

恐る恐る聞くと、ティキは明らかにその意を含んだような笑みを浮かべ、

「は?俺は麓っていうから、山を下りただけだぜ」
「え?下りた・・だけ?」
「お前の仲間がどこにいようが、俺は麓って言われただけだし」
「・・・・・え」

頭が一瞬真っ白になった。
つまり、戻らずに進んで山を下りたと?また一つ山を越えたと?

「じ、じゃあ・・み、皆は・・?こ、ここどこですかっ?」

真っ青になりながら、ティキの服を掴む。

「さあね、山一つ越えた麓町か山二つ越えた麓町じゃねぇの?」

煙草をくわえたまま面倒そうに頭を掻いた。

「っ・・・!」

ミランダはショックからフラリとよろめき、倒れるようにその場に落ちる。山での行為で体力を使い込み過ぎたせいで、体は限界をとうに超えていた。
地面に頭をゴンと打ち、衝撃と痛みから立ち上がれないでいると、ティキに手首をぐいっと引かれ、ミランダは団服の襟足を掴まれた。

「なあに、大丈夫。今晩は俺が一緒にいてやるよ」
「え」
「てことで、とりあえず宿屋を探してこい」
「え・・ええぇぇ・・」

青ざめ強張るミランダをティキはポイと投げるように放し、またも地面にゴツンと頭を打つ。
打ちひしがれ、色んなショックから立ち上がれない。疫病神(ティキ)に取り付かれ、いったい自分はどうなるのか。

(ああ、こんな時に)

脳裏に浮かぶのは無線ゴーレム。どこではぐれたのか、いつも一緒にフワフワ飛び回っているのに。

あれがあれば皆に連絡できるのに・・・・。

「そうだ、これお前んだろ?」

顔の横にゴトンと何かが落とされ、それを見てミランダは目を見開く。間違いない、ミランダの無線ゴーレムだ。いや、ゴーレムの残骸だった。

「テ、ティキ・・さん?」
「邪魔くせぇな、これ」

爽やかな笑顔を見せたティキに、ミランダはもう何も言える事はないのだった。




『迷子の迷子の子猫ちゃん、わたしのお家はどこですか』




END




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