D.gray-man


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『迷子の迷子の子猫ちゃん、あなたのおウチはどこですか?』



絶望に打ちひしがれ、涙と鼻水にぐちゃぐちゃになった顔で、ミランダは四つん這いになる。その腕は震え、力尽きるように額が地面を打つ直前。歪んだ視界に何か黒い物が目に入った。

それが靴だと、ツヤツヤした革靴だと覚ると、ミランダは弾かれるように顔を上げた−−−・・・

「よう、久しぶり」

まるで親しい友に会ったみたいに、ニッコリとした笑顔の男を見て。ミランダの涙と鼻水はピタッと止まり、顔は引き攣り血の気が引く。

男は親しげな微笑をたたえたまま、おもむろにミランダの背中に片足を乗せると、まるで蛙のように踏み付けた。
あっ、と言う声も出せずミランダは地面に潰されると、鼻の頭に土を付けながら。

「テ・・ティキさん・・痛い、ですぅ」

「何やってんの、こんなトコで」




◆◇◆◇◆



ここは北イタリアにある国境近くの山。
ミランダは現在任務中であり、本来はアクマと戦闘中の筈であった。

リナリーとラビ、ブックマンの三人はLEVEL3を数体破壊した後、残るLEVEL2の殲滅の為それぞれ散らばった。
ミランダはラビについて行っていたのだが・・・


「・・・途中で、はぐれたと」

ティキはミランダの髪をクルクルと指に巻き付ける。
それを引っ張り、ミランダの顔が痛そうに歪むと嬉しそうに目を細めた。

「は、はい・・」
「相変わらず軽ーい頭してんだな、ここ」

コンコンと拳で小突かれ、ミランダは怯えるみたいに目をつむった。
ティキは正座するミランダの前にしゃがんで、何かを含むような狡い顔で笑うと。

「つうか、戦闘あったのって・・あっちの山だよな?お前山一つ越えてんぞ」
「え・・・・・ええっ?」
「普通、上りと下りで分かんだろ・・って、分かるわきゃねぇか」

再び頭をコンと小突かれたが、ミランダは頭を摩る事もせず顔を真っ青にしながら。

「わっ、私・・戻らないとっ!」

きっと今頃みんな捜しているはずだ、考えたらかれこれ迷ってから5時間経っている。
無線ゴーレムが確かにあった筈なのに、いったい何処にいってしまったのか。これでは連絡の取りようがない。
とりあえず、戻る方角は分かった。今から皆がいる場所まで行かなければ。そう思い立ち上がろうとした時、

「知らないみたいだから教えてやるけど。この辺・・出るぞ」
「・・・・出る?」

「熊」

「!?」

サーッと血の気が引いていく。
ミランダは上げかけた腰を再び下ろし、怖ず怖ずとティキを見上げる。

「ほ、本当ですか・・?」
「ホントも何も、ほれ」

長い指で、ある一点を指し示す。
『※注意!熊出没』の立て札が、ミランダの目に飛び込んできて恐怖から顔を強張らせた。ティキは楽しそうに唇を軽く上げると、よいせと立ち。そのままミランダに背を向け歩き出す。

「えっ、あ、あのっ?ティキさんっ・・!」
「んじゃ、俺行くわ」
「いっ行くって、どこへ?」

ティキは歩みをぴたりと止め、不安げに見ているミランダに意地悪く笑いながら。

「帰んだよ、散歩に来てただけだからな」
「そっ、そうですか・・」
「一応敵同士だけど、今回は昔なじみって事で見逃してやるよ。お前も帰れ、野犬が出る前に」

言いながら笑うティキの顔は、それは優しいもので。
古くから彼を知るミランダだったが、その初めて見る表情に違和感を感じるより先に「野犬」という言葉に反応した。

「や、や、野犬っ!?」
「ここは山だぞ。夜になったら野犬どころか、得体の知れない化け物がゴロゴロ出てくんだろ、普通」
「えっ・・ば、化け・・え、あの、ええっ?」

あわわ、と青ざめた顔のままパニックを起こしはじめるミランダに笑いを堪えつつ。
ティキはヤレヤレと軽く演技をしながら、

「まさかお前、一人じゃ恐いなんて言うんじゃねぇよなぁ?」
「・・・・・・・」

ミランダは図星をさされたようで、顔を俯いて眉を寄せた。

「・・・・・」
「・・テ、ティキさ・・」
「おまえな、分かってる?俺らはノアとエクソシストなの、昔とは違うんだよ」

ミランダの鼻を摘んでキュッと捻る。
痛みからその大きな瞳に涙が滲むのを、満足そうに見ながら。

「ま、でもお前にはそれなりに世話にもなったしな、今回限り敵味方忘れてもいいぜ」

パッと指を放し、形の良い唇から舌を出しペロッと上唇を舐めた。



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