D.gray-man


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そっとはなした薄い唇の端を、僅かに上げて。

おやすみ、とラビが囁く。

細められた翡翠のような瞳にリナリーは胸が締め付けられて、無意識にラビの服を摘んでいた。


リナリーの部屋の前で、暗闇に隠れるようにキスをした後で。こんな風に引き止めるみたいな真似をしたら、それ以上を望んでると思われても仕方ないと思う。

(行かないで)

素直に口にできないから、リナリーは無言でラビの服の裾を放さない。もっと傍にいたい、いてほしいのにラビの前では素直にそう言えなくて。

「リナリー?」
「・・・・・」

赤い顔で俯いて、そっと唇を尖らせる。
服を摘んでいる指にラビが触れて、握るようにリナリーの指を裾から放すと指先にキスをされた。

「また明日、リナリー」

騎士がお姫様にするみたいに手に唇を寄せて、悪戯っぽく笑うと、じゃ、と声に出さず軽く手を上げラビはリナリーから一歩離れた。


「・・逃げるの?」

咄嗟に口について出た言葉に、リナリーはほとほと自分が嫌になる。
どうしてもっと可愛い事が言えないんだろう、これではラビに呆れられてしまいそうだ。

(わかってるのよ、本当は)

きっとラビは意識して自分と深い関係になるのを避けている。
キスはしても、けしてそれ以上は求めて来ない。最後の一線は踏み越えないのだ。

ブックマンだから?
いつか離れていく場所だから?

声に出して聞いてみたいけれど、ラビはきっと答えてはくれないだろう。

ラビの手がリナリーの頬を包み、俯いていた顔を自分へと向ける。

「何で、そんな泣きそうな顔してんの?」

そう言いながらラビが自分を見る瞳は優しくて。
潤んだ瞳のせいで視界がぼやけているが、リナリーはそんな彼に胸がときめいた。

「オレはリナリーに泣かれるのが1番辛いんさ」
「泣いてなんて、ないわ・・」

言いながら、溢れたものが頬を伝うのを感じる。

「リナリー」

名前を呼ばれて抱きしめられて。気付いた時、リナリーはラビの腕の中にいた。
ぎゅ、と強く彼の体に縫い付けるように抱きしめられてその瞳から涙が止まる。

「ほんと、リナリー・・そんな顔は反則」

耳元で苦しそうに呟いて小さくため息をもらし、抱きしめたままリナリーの頭にキスをする。

(ラビ・・)

胸の高鳴りがうるさいくらい耳に届いて、リナリーは目をつむると、ラビの抱擁に応えるように、背中に手を回しさらに強く抱き着く。

(私・・いいのよ?)

キスより先の関係に進んでも、いい。

こんなこと考えるなんて、いけないのかもしれないけれど。ラビと、そういう関係になってもいいと思っている。

「・・そろそろ行かねぇと」

ラビがリナリーをゆっくり放すと、自分の頭をげんこつで叩きながら。

「狼さんは赤ずきんちゃんが欲しくなっちゃうから」

軽くふざけて笑い、リナリーの頬にチュとキスをした。こうやっていつも上手にかわされてしまうのが、切ない。暗闇に映える赤い髪が目の前で揺れて、翡翠の瞳はリナリーを見つめている。

(ずるいわ、ラビ)

私の気持ちを知っているくせに、知らないふりをして。

「ラビ」

覗き込むような瞳の下の唇が目に留まると、リナリーは半ば反射的にそれに自分の唇を重ねていた。
されるのと違いするのは初めてで、勢いが強くカチ、と歯が当たる感触に眉を寄せる。

いつもラビがしてくれるキスは、羽が下りてくるみたいに優しい。そっと触れて、それからゆっくり味わうみたいに唇を動かすのだ。
リナリーは、感覚に残るそのキスを再現するようにラビへのキスを続けた。
背伸びをしながらラビの肩に手を置いて、ぎこちない動きで薄い唇を吸う。チュ、と微かな粘着音がもれ、リナリーの耳にラビが唾を飲む音が聞こえた。

「・・ん・・っ・・」

息つぎが上手く出来なくて一度唇を放しラビを見ると、苦しそうに眉を寄せてリナリーを見ていて。そんな表情の彼に、なぜか鼓動が速まるのを感じる。

「・・狼になっていいわよ」

言って、ラビから目を逸らす。

「ラビなら、いいの」

だからお願い拒絶しないで、と胸の中で祈るように呟いた。

(・・知っているから)

ラビが本当に私を好きなのを知っている。
色んな柵らみも色んな環境も、多分知っているつもり。

いつかは離れていくからなの?
ブックマンだから?

でも・・私は

(ラビが好きなの)

だから傍にいたい。もっと深く繋がりたい。

「・・・・・」

リナリーは下唇を震わせて、睨むようにラビを見た。

「リナリー、オレ・・」
「いいの」

ラビの口を手で塞ぎ、目を閉じてその胸に抱き着いた。

「もう、考えないでっ・・」

考えたら動けなくなるから、考えない。
エクソシストでもブックマンでもない、普通の恋人みたいになりたいの。

「ラビが、好きなの」

背中に回した手が震えてしまう。自分が今なんて事をしているのか、分かっているけど気持ちは止まらない。

「リナリー・・」

かすれた声がして、リナリーの体がラビの腕に包まれる。
まるで閉じ込めるみたいに強く抱きしめられて、リナリーはまた泣きそうになった。

「・・んなこと言って、後悔するぞ」
「しないよ、絶対・・しない」

腕を緩めリナリーの顔を覗き込むラビの顔は、なぜか泣きそうに見えて。やっぱり駄目なのかしらとリナリーの胸はチクン、と痛んだ。

「ラビ、私・・」
「いいから」

声を遮るようにリナリーの唇は塞がれる。
いつもに増して熱のこもったラビの唇から、ゆっくりと生暖かいものを割り入れられた。

「ん・・っ」

ラビの舌がリナリーの口腔を優しくなぞる。舌を絡めて深く深く繋がるこんなキスは初めてで、リナリーは目眩がした。

(ラビ・・)

下唇を甘く噛まれて、そっと離される。
リナリーは潤んだ瞳で見上げると、ラビは愛おしむようにリナリーを見ていて。

「もう限界」

まいった、と笑った。
それが受け入れてくれた合図なのだと分かると、リナリーはホッとした気持ちと嬉しさに滲んだ涙を拭う。
そして指先についた涙をラビが舐め、幸せな恋人たちのように手を繋いでリナリーの部屋へと引いた。

「行こ、リナリー」
「うん」

ちょっとだけ照れくさいような恥ずかしい気持ち、赤い顔を隠すように俯いて。
部屋に入り、パタンと扉が閉まるとドキドキと鼓動が速まる。いつも寝ている自分のベットがなぜか直視出来ない。
ラビも緊張しているのか、繋いだ指先が少しだけ冷たかった。

「暖炉に火、いれる?」
「ううん、寒くないから・・」

室内は明かりが一つだけついて薄暗い。
ラビがそっと手を引いてリナリーをベッドに座らせると、自分もその隣に腰掛ける。

「・・・・」
「・・・・・」

沈黙が二人を包み、見つめ合いながら吸い寄せられるようにキスをして。

最初は触れるだけ、感触を確かめ合うみたいに優しく。
それから舌で味わうように唇のふくらみを確かめて、ゆっくりと互いの口腔を求める。

「・・っ・・ん」

ラビの唇に押されるようにリナリーの体はベットへ沈んでいき、柔らかな布団の感触を背中に感じた。
優しいキスは熱いキスに、そして次第に貪るような動きへと変化していく。

リナリーのぎこちない舌の動きではついていけない。翻弄するような動きに、頭の芯が痺れるような感覚をおぼえた。
チュパ、と水音がして唇が離されると、うっすら見開いたリナリーの瞳にラビが映り、
翡翠の瞳に見たことのない牡の色が表れて、くらくらと目眩がする。

「リナリーってば、可愛すぎ・・」

ブラウスのボタンを外していく指が微かに震えていて、リナリーはそれも愛しかった。
ラビが服を脱がしていくのを感じながら、リナリーは気付かれないようにゴクと生唾を飲む。緊張から体が固くなっているのを感じて、リナリーは目を閉じた。
ラビの手が胸を被う白い下着に触れた時、反射的に体がピク、と震える。

「リナリー・・」
「ちょっと・・緊張しただけ」

赤い顔を隠すように手で顔を覆うと、そんなリナリーの手を掴んで、

「オレも、一緒・・」

緊張してんさ、と耳元で囁く。
パチ、とホックを外す音がしてスルリと下着が外されると、リナリーの白い胸がラビの眼下にさらされた。

(あ・・)

ラビの手がそっと持ち上げるように、乳房に触れる。
手の平にすっぽりとおさまり、外気に触れた乳首が固くなっていた。

温かい感触が乳首にして、すぐにラビの舌だと感じる。
舌先で回すように舐め、それからチュウと吸い付き甘く噛まれて、ビリッと痺れを感じた

「ぁ・・っ」

生まれて初めて感じる奇妙な感覚にリナリーは戸惑いながら、吐息をもらした。
ラビは乳房を持ち上げながら舌で尖端を転がし、片方の手でリナリーの体を摩るように撫でる。
それはまるで片時も触れずにはいられないと、手の平でキスをされているような感覚だった。
乳首をひと舐めしてゆっくり身を起こすと、ラビは切なそうにリナリーを見る。

「・・マジで余裕ねぇから、リナリーに優しくできんかも」

ごめん、と続けリナリーを抱きしめながら。

「でも、途中でやめんのは・・・無理」

かすれた声が、耳元から聞こえる。
やめないで、と言いたかったけれど恥ずかしくてリナリーは小さな声で、うん、と頷いた。

「・・ありがと」

目を細めて笑う。
いつもよりなぜか大人びて見えるその表情に、頬が染まった。
ラビがゆっくり身を起こし、着ている服を脱ぎ捨て上半身が裸になると、リナリーの心臓はとたんに速まる。

(わ)

何度か見たことのはあったはずなのに、この状況のせいかつい目を逸らしてしまった。
明かりがラビの背にあるからか逆光でよく見えなかったけれど、筋肉が陰影で際立ち美しかった。

頬にラビの手が触れて、ゆっくり唇が降りてくる。
温かな舌の感触と共に、抱きしめられた時に感じた肌が温かくて。
誰かの体温がこれほどまで愛おしくて心地よいと、リナリーは知らなかった。

「気持ちいいね・・」

抱き合いながら呟けば、ラビは笑いながら頷いて。

「オレ、一生このままでいいさ」

本気みたいな冗談を呟く。
その言い方に思わずリナリーは笑みがこぼれていた。

「バカね」

風が強いのか窓を、カタンカタンと鳴らす。微かな風が室内に紛れ込んで、明かりが二人の影を揺らした。
揺れる影を瞳に映しながら、二人は微笑みあってまた唇を寄せ合う。
舌を絡ませる行為も、慣れてきたのかリナリーは最初の戸惑いはなかった。




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