D.gray-man


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ぴちゃり、と薄暗い室内に淫靡な音が響く。


ティエドールの部屋にあるベッドは、ミランダのよりずっと広くて立派だ。

ベッドヘッドの無垢の鏡板にはクラッシックな彫刻。ファブリックはシルクに美しい刺繍が施されている。そして、サイドテーブルに置かれたフランス製のランプが、室内を柔らかく燈していた。
ティエドールはくつろぐようにアトリエ用のガウンを羽織りながら、そのベッドに両手をついて腰掛けている。

「・・ん・・ふ・・っ」

ミランダは、そんな彼の両足に挟まれるように床にひざまずきながら、逞しくそそり立つ熱塊を、猫のように舌で愛撫していた。
ミランダが着ている白い夜着は、ティエドールにプレゼントされた物で、胸元が少し開いていたが、彼女の細く美しい首と華奢な鎖骨を引き立たせていて、とても似合っていた。

手袋のない右手で、上下にそれを摩りながら、先端を口に含ませゆっくりと舌を絡ませる。ピチャ、と粘着音をさせてソロソロと舌を這わし、細い指は根元を軽く押しながら擦っていた。
ミランダは伏せていた瞼をそっと開いて、心配そうにティエドールを見上げると、彼は穏やかに微笑みながら、まるで子供にするようにミランダの頭を優しく撫でた。

(・・元帥・・)

安堵するようにミランダは再び目を伏せて、その奉仕に集中する。

「・・上手になったねぇ・・気持ちいいよ、ミランダ」

その声に胸がときめいて、嬉しさに頬が染まった。ティエドールに教わったこの行為は、自分でもまだまだ拙いのが分かっているけれど、気持ちいいと褒められると、少しは上達している気がしてホッとする。


恋人となってもうすぐ二月を数えようかという、この頃。
ミランダは心も身体も、髪の毛一本、爪の先まで。ティエドールに恋い焦がれてしまっていた。
初めは彼に押されるようにして始まった関係だったが、日が経つにつれ夢中になって行ったのはミランダの方かもしれない。

(・・元帥・・)

口に含んだ彼のそれは、熱く。ミランダの舌からの刺激にピク、と反応する。口をすぼめるようにして上下に動かすと、以前それを手ほどきされた時、ティエドールが気持ち良さそうにため息をついたのを思い出す。またそれが聞きたかった。

「・・ん・・んんっ」

自らの唾液を潤滑油にして、ジュプ、ジュ、と淫らな音が唇から発すると、口の中の彼自身がさらに硬く、大きさを増した気がする。

「・・ああ・・本当に、上手になった」

掠れるようなティエドールの声が、目眩しそうに嬉しくて。一度口からそれを出して、先端に滲む先走りの汁をチュウ、と吸う。
苦いようなしょっぱいような味が口腔に広がるが、ミランダはこの味が嫌いではなかった。
初めてこれを舐めた時、何とも言えない複雑な味につい顔をしかめたが「気持ちが良くなると出てくるんだよ」と教えられて、それからは愛おしさすら感じてしまう。

「・・ん・・っ」

再び口に含み、上下に動かすと吐息がもれた。

「ミランダ・・」

ティエドールの指が彼女の巻き毛をくるくると弄びながら、ツウ、と耳をなぞる。

「・・いいかい?」

それは口に発するという意味。ミランダは伏せていた瞳をティエドールに向けると、口に含んだまま、頷くように動きを速める。
火傷しそうな熱塊が喉奥まで届き、息苦しいほどの圧迫感を口腔に感じた。
ティエドールの腰がミランダの愛撫に合わせるように、喉奥を突き上げて。口の中で張り詰めて硬くなった隠茎が暴れ始める。

「・・っんん・・!」

その動きについて行こうとミランダは必死に顔を上下に動かすが、さらに大きさを増している彼自身を口に含んでいるので精一杯だ。

「・・んっ・・んぐっ!」

苦しげに眉を寄せる。
ティエドールが優しくミランダの頭を両手で押さえて、

「・・っ・・出すよ・・」

掠れながら呟いた言葉に、ミランダの心音はドキドキと早まる。

(今日こそは・・)

ビクン、と何かが破裂するような感覚がして。ミランダの頭に添えられたティエドールの手が、グッと力を増した。

「!・・」

ドクン、ドクン、と熱い液体が喉を打って口の中に複雑な味が広がり、ミランダは口腔に感じる血脈の鼓動に合わせるように、ゴクンとそれを飲んだ。いつも飲むタイミングがつかなくて、唇から漏れてしまうから、今日こそは全部飲みきりたい。
飲む事を強制されている訳ではないが、初めて口の行為をした時、誤って飲んだらティエドールが喜んでくれたから。

「んん・・んっ・・」

ゴクン、と垂らす事なく飲みきって、ゆっくりと唇を離す。まだピク、と痙攣するように動き、尖端には少しだけ白い液が滲んでいた。
ミランダはそれもチュ、と吸い取り。そっと窺うようにティエドールを見上げると、彼は少し息を乱しながら、うっとりと目を細めてミランダを見ていた。

「・・気持ちよかったよ。すごく・・良かった」
「元帥・・」

ティエドールは床に膝をついているミランダを抱き上げて、そのままベッドに押し倒す。

「ミランダ、きみは最高だよ・・」
「・・ぁ・・っ」

剥き出しの首筋と鎖骨を舌でなぞる。
舌先でツツ、と耳たぶの後ろを舐められて、まるで吸血鬼のように肩口を甘く噛んだ。

「はぁ・・っ・・んっ!」
「その声・・ああ、素晴らしい」

歯型をつけるように、強めに噛み、ティエドールの両手がミランダの頬を挟む。

「・・愛しているよ、ミランダ・・」
「・・元、帥・・」

唇がゆっくりと重なり、ミランダは目を閉じる。そして、優しく侵入してくる舌を受け入れながら、ミランダはなぜか泣きそうになっていた。

(・・ティエドール・・元帥・・)

胸の内で名を呼んで、絡まる舌に応えるようにティエドールの髪を撫でる。

(・・・どうしてかしら)

こんなにも愛されているのに。なぜか、怖くて・・。
胸がキュウ、と締め付けられて目の奥がじんじんと熱くなる。抱きしめられて口づけされて幸せなのに、ミランダはその幸せが怖い。

「・・・・・」

唇が離され、ミランダはそっと目を開ける。ランプに照らされたティエドールの顔がすぐ目の前にあり、ミランダは見とれるように見つめていた。

こんなにも・・・

(こんなにも、恋してしまったから・・)

眼鏡の奥に少年のような瞳を隠して、無邪気さと不思議な老獪さを併せ持つ人。芸術家特有のエキセントリックな言動も、誰に対しても惜しみ無く与える優しさも。
ミランダが今まで出会った誰よりも、魅力的だった。

気付けば彼の魅力の虜になって、どんどん翻弄されていて。ミランダは深い沼にどっぷりと嵌まったような、そしてもう、それは抜け出せない。

(・・ああ・・)

ティエドールはミランダの夜着をそろりと捲くり、内股を摩りながら。

「ミランダ、僕の顔に何かついている?」

ずっと目を離さないで見つめているミランダに、悪戯っぽく微笑む。

「あ・・す、すみません」
「どうしたんだい?」
「い、いいえ・・」

恥ずかしくなって、赤くなりながら視線をずらしたが、ティエドールはそれを捕まえるようにミランダの顎を軽く押さえ、視線を自分へと向けさせた。
眼鏡の奥の、色素の薄いブラウンの瞳にミランダが映される。そんな事で、こんなにも胸が熱く痺れてしまうなんて。本当に自分はどうしてしまったのだろうか。

(・・でも・・)

頭の中でいつも何かの信号がなっている。
これ以上は、いけない。
これ以上好きになっては、危険だと。
それでも、これ以上どう好きになればいいか分からないくらい、好きになってしまっているのに。

(どうやって・・踏み止まればいいの?)

「元帥・・・」

掠れた声で囁いて。
ミランダの顎に触れている指を取り、そっとキスをした。

これ以上、好きになってしまったら自分はどうなってしまうのだろう。

(元帥がいなくなったら・・どうしよう)

自由な彼を縛りたくないからそうなっても仕方ないと、いつも心の中で覚悟はしているけれど。
ミランダはキスを求めるように目を閉じる。ティエドールの口髭がふわりと鼻の下をかすめて、柔らかい唇の感触がした。

(幸せなのに・・)

いつか訪れるかもしれない不幸を今から嘆いているのは、本当に馬鹿げていると分かっているのに。

好きになればなるほど、そんな心配ばかりしてしまう。





カーテンからこぼれる朝の光に反応して、ミランダは目が覚める。

重たい瞼を開いて隣を見るが、やはりもうティエドールはいない。朝方まで責められて、ミランダの身体はフラフラだというのに、彼の体力には相変わらず感心してしまう。

(どこに・・行ったのかしら)

ゆっくり起き上がり、辺りを見回すが、もうこの部屋にはいないようだ。ミランダはふと時計を見ると、もう9時を過ぎていて目を見開く。

「きゃっ・・な、なんてこと!」

ここはティエドールの部屋だ。
ミランダは基本的にはこんな風に恋人の部屋に泊まる事はないのだが、昨夜はティエドールがフランスから二週間ぶりに帰ってきた事もあって、つい一夜を明かしてしまった。

(本当は、夜明け前くらいに戻りたかったのに・・)

赤い顔で、自戒するように拳で頭を叩いて。
日が高くなってもベッドにいるなんて、ふしだら過ぎる。ミランダは重い身体のまま急いでベッドから降りるが、自分が一糸纏わぬ姿なのに気付いて、慌ててシーツで身体を隠す。

ふと、昨夜フランスからのお土産にと貰った夜着が目に入り手に取った。
上質のリネンの生地、フランス風の縁取りにリボンやレースをあしらった素敵なもので、ミランダが持っている貫頭衣のような夜着とは全然違う。

「・・・・」

さらさらとした肌触りが心地良くて、ミランダは両手に持って頬にあてた。お土産も嬉しかったが、離れた場所にいても自分を思い出してくれた事が何より嬉しかった。
丁寧に夜着を畳み、貰った時のように紙に包むと、ミランダはシーツを纏いながら立ち上がる。

椅子の上にある自分の服を取り、シーツの中で急いで着替えながらミランダは、昨夜感じた不安を思い出した。

(だめね・・本当に)

どうしても悪い方へと考えて。半ば癖のようにいつも最悪を考えてしまう。幸せにあまり慣れていないせいか、いつか来る別れを今から想像して不安になってしまった。

「・・・・・」

いつも着ている黒いドレスのボタンを留めながら、ミランダはふう、とため息をつく。

(今まで・・あんなに想ってくれた人がいないから)

見下されるのも馬鹿にされるのも、失望されるのも慣れていた。罵倒されて、期待すらされない事は当たり前で、誰かに大切に扱われた事も無かったから。
ティエドールが自分を掌中の玉のように扱ってくれるのが、信じられない。きっと彼は自分をとんでもなく誤解しているのだろう。

(きっとそう・・)

靴紐を結びミランダは着替え終わると、夜着を入れた紙包みを抱きしめるように持って、ドアへと向かった。
ティエドールの部屋は元帥達がいるフロアなので、一般の団員がいる場所と違ってあまり人気はないが、それでも誰かにティエドールの部屋から出ていくのを見られれば、二人がそういう関係だと知られてしまう。

(誰もいませんように・・)

カチャ、と恐る恐る扉を開き、そっと顔だけ覗かせると。

「・・ミランダか?」
「!?」

ちょうど扉の前にクラウドが立って、こちらを見ていた。

「ク、ク、クラウド元帥っ・・こ、これはっ」

ごまかそうと言い訳を考えるが、思い浮かばない。

「フロワはいないのか?」

クラウドはミランダがティエドールの部屋から出て来た事に、あまり気に留めていないようだ。

「えっ・・テ、ティエドール元帥は、ええと・・あの」

一人オロオロと赤くなって、手に持った紙包みをぎゅうと抱きしめる。

「いないのか?」
「は・・はい。その、い、いらっしゃいません」

消えそうな声で呟いて、恥ずかしさから俯いた。

「そうか・・ところでミランダ」
「は、はい」
「なぜ、そんなにびくびくしているんだ?」

クラウドは不思議そうに、首を傾げる。

「え、ええ?そ、それは・・」
「今更、ミランダがその部屋から出て来ても何も驚かんぞ」

さらりと言われて、ミランダは目を見開いた。
クラウドは苦笑ぎみに笑いながら、ミランダの肩をポンと叩いて。

「おまえも、色々と大変だな」
「大変?・・」

ミランダがキョトンとした顔でクラウドを見る。

「いや・・それより部屋に戻るんだろ?途中まで一緒に行こう」

「え、でも・・いいんですか?」
「あいつがここにいないなら、恐らくアトリエだろうから」

クラウドはそう言いながら、近くの階段へ向かう。ミランダはホッとして、クラウドの横へ小走りについた。

(よかった・・)

クラウドと一緒なら元帥達のフロアにいても、不思議に思われないだろう。
知らずに微笑んでいると、そんなミランダにクラウドがヤレヤレと肩を竦めて、僅かに笑った。

「おおかた・・目覚めたらいなかった、という所か」
「えっ・・」
「図星だろ」

ふふ、と笑いながら

「あの、奇想奇天烈ビックリ人間と恋人になるとは・・尊敬するぞ」
「そ、そんな」

カアッと顔が赤く染まり、顔を俯かせる。

「あいつはまともそうで、かなりの変人だからな・・ああ見えて独占欲も強いし」

階段を下りながらクラウドは、ぽつり呟いた。



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