D.gray-man
1
「な・・なんでいるんですか?」
ありえない人物に、ミランダの顔は強張る。
「あー、おかえり」
その人物はあくびをしながら、なぜかベッドに横になっている。ちなみに、そのベッドはミランダのだ。
くわえていたタバコの灰を、手近にあったミランダ愛用のカップに落とすと、
「なにやってんの?早く入れよ」
枕に肘をつき、半身を起こす。
ミランダはハッとして後ろ手にドアを閉めると、目の前の彼をまだ信じられなくて、まじまじと見ていた。
「テ・・ティキさん、ですよね?」
「おいおい、久しぶりすぎて顔まで忘れたわけじゃねぇよな?」
口の端しを上げて、嘲笑うようなその表情は昔と変わらぬ彼だった。
「・・・・・・」
混乱する。
ここは黒の教団本部。あのミランダが住んでいた、狭いアパートではない。
あの時はまだエクソシストではなかったし、ティキもノアだなんて知らなかった。
「え、えっと・・あの、その、どうして?」
ここは教団からミランダに与えられた一室。一日を終えて、この部屋に帰ってきた彼女が目にしたのは、浅からぬ縁を持つティキ・ミックだった。
ティキはタバコをキュ、とカップに押し付けて消すと、何かを求めるように、その手をミランダに向けて出す。
「チョコは?」
「?」
「バレンタインデーだろ、今日」
ベッドから起き上がり、ドア付近から動けないでいるミランダに、近づいていく。
「え?え?ええっ?」
ティキがこんな風にミランダの前に立っているなんて、いつぶりだろう。
久しぶりに見た彼は、相変わらずのくせっ毛に女受けする整った顔立ちであったが、ミランダが知っている瓶底の眼鏡もかけてはいなかったし。服もヨレたシャツではなく、一目で高級なのだと分かる仕立ての良いシャツを着ていた。
(・・・・・・・)
何年も前だが、ミランダはこのティキと恋人同士のような関係があった。
いや、それはミランダからの視点であって、他人からは弄ばれていたと見られていたのが妥当だろう。
特に連絡もなく、ふらりとアパートにやってきてはミランダに淫らな行為をしていく。
それは何日か続く事もあったり、何ヶ月も来なかったりと、すべてはティキの都合で。
何か話をしたりする訳でもなく、来て早々とミランダをベッドへ連れ込み彼女の意識が失くなるまで弄ぶと、当人は妙にすっきりした様子で帰っていくのであった。
ミランダは、ティキをどう思っているか自分でもよく分からない。初めての時も、あれよあれよと言う間にティキの手練手管に乗せられて、
「おまえみたいな不幸女、オレ以外相手にゃしねぇだろうな」
「そんな貧相な体、他の男に見せても笑われるだけだぜ」
そう言われれば、そうかとも思い。
自分のような女を相手にしてくれるのは、ティキのような物好きだけなのかもしれない。ティキに流されるまま、何となく受け入れていた訳だが、ある日なぜか彼をひどく怒らせてしまい、それからミランダの元へは姿を見せなくなったのだ。
それは、ティキから毎回違う女の匂いがしてくるので、
「あの、私なんかより他の方の所へ行ってあげて下さい」
ミランダとしては、たくさん恋人がいる彼に向けての親切心で言ったのだが、なぜかティキの機嫌をかなり悪くさせてしまい、随分ひどく虐められてしまった。
失神すらさせて貰えず、開放された時はまるで生まれたての小鹿のように、足腰がブルブルと震えて立てなくなっていて。
「ホントにお前って、どうしようもねぇ馬鹿だな」
そう吐き捨てるように言って、出て行ったのが最後だった。
「チ・・チョコレート?」
そんな彼が、なぜ今になってこんな所にいるのだろう。
「ええと・・」
ミランダは困ったように、ポケットを探る。今日みんなに配ったチョコが、もしかしたら残っているかもしれない。
ないと分かっていながらも探してしまうのは、ティキの機嫌を損ねたら恐ろしい事を身をもって経験しているから。
(やっぱり・・ないわ)
ミランダはびくびくしながらティキを見上げると、
「あ、あの・・食堂へ行けばあると思うので、ちょっと待っていてくれますか」
「お前ってさー・・」
ティキは、嘲笑するようにククッと笑うと
「本気でチョコ貰いに来たと思ってんの?」
「・・?」
「相変わらず、足りないねぇお前」
ぽんぽんとミランダの頭を叩くと、ティキの視線が一瞬だけ柔らかくなった気がした。
ティキはミランダからくるりと背を向けて、観察するように部屋をぐるり見回すと、机に備え付けてある椅子に腰を下ろし、再びタバコに火をつけた。
「・・・・・・」
「・・・・・」
(チ、チョコはもういいのかしら?)
というか、チョコレートが理由で来た訳ではなかったのだろうか?
聞いてみたいが、ティキは同じような質問をされるのを嫌がるから、ミランダは黙り込む。
「・・なあ」
「は、はいっ」
「なんで、エクソシストなんてやってんの?」
じろ、と見てくる。
「え?そ、それは・・」
「どう考えても向いてねぇだろ、お前殺されんぞ」
フーッとタバコの煙りをミランダへ吹いてくる。
「辞めたほうが、いいんじゃね?」
「えっ?」
「だいたい、なんでよりによってエクソシストなんだよ。お前わかってる?オレ、一応ノアなんだよ?」
「はあ・・」
「お前、オレに勝てるとでも思ってんのかよ」
「・・・・・・」
そう言われると、言葉が出ない。
ティキはタバコをくわえたままゆっくり立ち上がると、ミランダの頬をギュッとツネる。
「!・・ひ、ひたいれすっ(痛いです)」
「バカだから分かんねぇだろうけど、死ぬともっと痛いんだぞ」
「ひ、ひたいっっ・・!」
パッと放されて、
「悪いこた言わねぇから、んな仕事辞めちまえ。もっと割のいい仕事、紹介してやるよ」
ミランダはツネられて熱くなった頬を摩りながら、泣きそうな顔でティキを見る。
「だ・・だめですっ、私ようやく誰かの役に立てるかもしれないのに・・」
「誰かって誰だよ」
「そ、それは・・」
困ったように、口ごもる。
ティキが面白くなさそうに、タバコを床にほうると足でキュ、と消した。
「おい」
突然、ティキがミランダの肩口をポンと押してきたので、不意を打たれミランダはベッドに沈んでしまう。
「!?」
「ホント、お前って危機感ねぇよな」
気付いた時は、すでにティキが覆いかぶさっていた。
驚いて目を丸くするミランダに、ティキはたまらず笑う。
(相変わらずネジが1、2本抜けてんな)
ミランダが着ている黒いワンピースの裾を手繰り上げる。太股を撫でると、彼女の体がびくりと震えた。
「テ・・ティキさん?」
何かに恐れるような、ミランダの声に口の端しを上げる。つつ、と太股のつけねを指先でなぞり布ごしから花唇に触れると、しっとりと湿って。
「もう、濡れてるぞ」
「・・・!」
「なんだよ、もしかして待ってた?」
「そ・・そんなっ・・」
羞恥で赤くなるミランダを見て、ティキは喉を鳴らした。怯えを含んだ瞳で見られると、ゾクゾクしてたまらない。まるで肉食獣にでもなったような気分だ。
布ごしに花核を探り当て、クリクリと親指で撫で回すと、じわじわと湿りが広がってくるのが人差し指に感じる。
「・・ん・・・ふ・・」
「ほら・・布ごしでも溢れてきてる」
溢れ出る場所を探るように指の力を強めると、
「や・・やめ・・・て・・ティキさ・・」
抵抗するように、体を捻る。
ぴっちりと首まで止められたワンピースのボタンを、ひとつひとつ外していく。
思いきり弾け跳ばせてもそれはそれで楽しいが、今日の気分はジワジワと心も体も支配していきたい。
白い首筋から、鎖骨が現れて舌先でなぞりあげると、ミランダから苦しげな吐息がもれた。
「・・く・・ぅ・・ん」
すでに快楽に流され始めたミランダに、嘲るように視線を落とし、
「いやらしいのも相変わらずだな」
「そ・・んなっ・・んっ!」
乱暴に乳房を剥き出せて、噛み付くように桃色の突起に吸い付く。ぴちゃぴちゃと、音を出しながら回すように舐めると、ミランダは声を耐えるように、口元にこぶしをあてた。
「おいおい、つまんねぇ事すんなよ」
「だ・・だって・・」
分かってる。
(ここが黒の教団本部だからだろ?)
そんな事は百も承知だ。分かっていて、こんな行為をしているのだから。
だからこそ挫けてしまえ。
お前を信じる仲間達がいる、この場所で。
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