D.gray-man


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「ね・・ねぇ、やっぱりこんなの」
「もうっ、ミランダったら。大丈夫よ、とっても似合ってるわ」

ミランダの髪をブラッシングしながらリナリーが言った。
淡いラベンダーのドレスは胸元が大きく開かれて、ミランダの美しい鎖骨と豊かな胸元が強調されている。
コルセットは着けなかったものの、ふわりとしたスカートは彼女が元々もっているほっそりとしたウエストを引き立たせるのには充分だった。

「で、でも・・恥ずかしいわ・・こんな」
「何言ってるの?ミランダは主役なのよ、目一杯着飾らないと・・はい、これでいいわ」

リナリーがミランダの髪に白い花を挿した。

「うんっ!すっごく綺麗よっ」

興奮気味に頷くリナリーも、少女らしいピンクのチャイナ風のドレスを着ていてそれは可愛らしい。ミランダはまぶしそうにリナリーを見て微笑むと、鏡に写った自分を見て恥ずかしそうに俯いた。


今日は12月31日。


一年の終わりのこの日は、新年を迎えるニューイヤーパーティーが催される。今年はそれに加えてミランダの誕生日もあり、準備から盛り上がりをみせていた。
去年まで一人ぼっちで新年を迎えていたミランダにとって、大勢で迎える新年は初めてでそれは楽しみなのだが、自分の誕生日も共に祝われると聞いて、正直嬉しさよりも申し訳なさが先に立つ。

(せっかくの新年のお祝いに、私なんかの誕生日で水を挿したくないわ・・)

リナリーがせっかくだからと用意してくれたドレスは嬉しいけれど、女性的なラインを強調するこのドレスは、着ていても気後れしてしまう。

(それに・・・)

そっとため息をついて。
今日のこの日に、「彼」はいない。数日前に任務で本部を離れているのだ。

(・・マリさん)

恋人の無事を思うと、正直言えばパーティーどころではないのだが。

(大丈夫・・かしら)




ゲートをくぐりながら、マリはホッとため息をついた。

(なんとか間に合ったな)

「お疲れ様、マリ。早かったな」

リーバーに声をかけられて、マリは軽く頷きながら周囲の様子を確認した。いつもより班員が少ないことに、嫌な予感を覚える。

「リーバー・・もしかして、もうパーティーは始まってるのか?」
「ん?ああ、今年は中央の人間も多いからな。親睦会も含めて早まったみたいだ」
「・・・・・」

時刻は夜の9時。例年なら10時頃から呑めや歌えやのどんちゃん騒ぎが始まり、カウントダウンを数える頃には花火が打ち上げられてる。


(まずいな・・)

「コムイはいるのか?」
「ああ、室長ならカウントダウンに向けて大急ぎで仕事を片付けてるとこだ」

リーバーは、報告書を書きながら答えた。

「・・・そうか」

マリは足早に司令室へと向かう。コムイが必死で仕事を片付ける理由も、間違いなく急いで任務を終えた自分と同じだろう。

新年に移り変わる瞬間は、誰とキスしてもいいという風習がある。旧本部の団員であれば、「コムイの妹」というだけで不可侵な存在であるが、それを知らない中央庁の人間も多い今年は、コムイにとって気が気ではないのだろう。

気が気じゃないのはマリも同様だ。
恋人であるミランダは、男から魅力的に見られていることに無自覚すぎて困る。あまりに無防備で、マリとしてはいつもハラハラさせられてしまうのだ。

とにかく。

(さっさと報告を終えて、ミランダを探さなければ)





10時を過ぎて、ミランダがパーティー会場となる、食堂へ向かっていると、

「おおっ!ミランダ、すげぇ綺麗さ」

ラビが歩いて来るのが見えた。

「いいね〜!そのドレスすげぇ似合う!」
「そ・・そんな・・」

恥ずかしくて、頬が染まる。
ラビはミランダの周りを堪能するように眺めながら、ため息をついて

「・・いいわ〜」
「あ、あんまり見ないで・・恥ずかしいから」
「なんでなんで、見せびらかしても良いくらい似合ってんのに?」
「・・・・・」

身を縮めるように恥じらう姿は、男から見るとなんともそそられるものがある。また、いつも露出していない白い胸元や背中が艶っぽい。

(こりゃ、やべぇさ)

さっきから、通りすがりの団員がチラチラ見ている。
本人は気付いていないようだが、ミランダは実はモテる。優しげな雰囲気と、どんな相手にも親身になりすぎる所や、頼りなげな様子が男の庇護欲をそそるのだ。

(あと)

ちら、と見て。

(・・いいカラダしてんさ、これが)

心の中で男の本音をもらした。

「・・ミランダ、もしかして一人で会場に行こうとしてる?」
「え・・ええ」
「・・・・」

(酔っ払いの狼に羊をぶち込むみたいなもんじゃねぇか)

「よかったら、一緒に行く・・?」
「えっ・・い、いいの?」

ミランダの顔がパッと輝く。

「ああ。でも図書室に用事あっから、食堂でリナリーかアレン見つけたらそこでバイバイだけど」

手に持っていた分厚い本を見せる。

「そ・・そんな、悪いわ・・大丈夫よ私一人でも」
「あー、いいからいいから」

手を振って、歩き出した。
ミランダは申し訳なさそうに、けれど安心したのか、小走りでラビの横まで来るとそっと微笑む。

(・・・マリも大変さ)

ここにいないミランダの恋人の苦労を偲んで、ラビは小さいため息をもらした。

二人が食堂へ歩いていたその時。
向こうから、ペック班長が歩いて来るのが見えて、ラビの顔は引き攣る。

(来たな、セクハラ班長・・)

ペックはラビには興味も示さなかったが、ラビの後ろで隠れるように歩いているミランダを見つけると、表情を一転して近づいてきた。

「こんばんは、ミランダ・・と、ブックマンJr.」

ニコッと笑いながらもその視線が一瞬にして、ミランダの全身をチェックしていたのをラビは見逃さなかった。

「あ、こんばんは・・ペックさん」
「・・ウィーッス」
「どうしたんですか?今日は随分と素晴らしい装いですね」

ラビは視界に入ってないようで、ミランダの前へすっと出る。

「そ・・そんな・・」
「とっても良く似合ってますよ、うん、素晴らしい」
「・・あ、ありがとうございます・・」

羞恥からミランダの身体はうっすら朱に染まって、それは匂い立つように、色っぽい。
ラビはペックをちら、と窺う。

(おーおー、鼻の下のばしちゃって)

「お、ミランダそろそろ行かねぇと・・んじゃ、どーも」

ラビがミランダの腕を取り、ペックに向かいヘラリと笑った。

「あ・・それじゃ、ペックさん」

ミランダもペコッと頭を下げる。
そのまま二人で歩き出すと、なぜかペックもついて来たので一旦足を止めた。

「・・何?、何か用なん?」
「いえね、二人がパーティーに行くなら僕も行こうかなって」

ニッコリ笑って、ミランダの横に立つ。

「・・つか、今食堂の方から来なかった?」
「まぁそうなんですけどね。でも、二人がパーティーに加わるなら楽しそうかなって思って」
「・・・へー・・」
(下心、まる見えじゃねぇか)

ミランダは何も気付いてないようで、ペックのニヤけ顔に無防備にも微笑みを返してなぞいる。

「それよりブックマンJr.、君こそパーティーへ行くようには見えないなぁ」
「・・へ?」

ペックがラビの持っている分厚い本を見て。

「図書室へ、行くのが先なんじゃなかったのかな?」

(・・やべ)
ラビは心の中で舌打ちした。

「先に図書室へ行ってきたらどうかな?ミランダなら僕がエスコートさせてもらうよ」

だから安心してくれ、と言われても、そうはいくまい。まさに赤ずきんちゃんを狼に差し出すみたいなものだ。これでは、美味しく食べられてしまうではないか。

(このまま、引き下がったら寝覚めが悪ぃしなぁ・・)

何より、後々それを知った恐い仲間達に袋だたきされるだろう。

「や、でも最初に約束したからさ。俺がついてかねぇと・・なぁ?」

ラビがペックの横にいるミランダに声をかけた。



・・・と、思ったら。



なぜか、忽然と。ミランダの姿は消えていたのだった。




突然腕を引かれ、声を立てる間もなく。ミランダは通路の陰で抱きすくめられた。

(・・・!)

恐怖より先に感じたのは驚きと不思議なデジャヴ。耳もとで、シィーッと囁かれた時。ミランダは沸き上がる喜びから目をキュッとつむった。

(マリさん!)

マリは、ふ、と笑うと。声には出さずに『ただいま』と、唇を動かした。




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