D.gray-man


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「ミランダ?何しているの?」

リナリーは、不思議そうにミランダを見た。借りていた本を元に戻そうとハシゴに上ると、ミランダが図書室の隅に隠れるようにして座っていた。

「リ、リナリーちゃんっ・・・」

明らかに、動揺を隠しきれない様子。

「あ、あの・・リナリーちゃん・・ここにいる事、誰にも言わないでくれる?」

もじもじと小さな声で、囁いた。

「いいけど、どうかした?」

ミランダは、あの、その、と言いづらそうにしながら

「・・マリさん・・帰ってきた・・?」
「マリ?ええ。さっき兄さんのところで会ったわよ」
「そ・・そう」

みるみる顔が赤く染まっていく。リナリーは、首を傾げながら

「・・もしかして、マリから隠れてる?」
「!!」

ミランダの体がビクン、と跳ねた。リナリーは苦笑しながら、

「ミランダ、忘れてるでしょ」

自分の耳を、指差して

「マリの、聴覚」
「・・・・!」
「多分、もうバレてると・・えっ!ミ、ミランダ!?」

ミランダは、リナリーの話が終わる前に、出口へと駆け出していた。






それは、マリが任務へ行く前日・・・。

人気のない暗い談話室の一角で、夜に紛れるようにキスをした。幾度か、重ねられたその唇は、とても熱くて。

「ん・・・ふ・・」

ゆっくり舌が侵入して、柔らかな感触を感じて、吐息がもれた。
マリとは、恋人という関係になって、それなりに時が経っていたが、いまだにキスから先には進んでいない。

「・・ミランダ・・」

求めるような、切ない声に、ミランダの胸は痺れる。月明かりが、マリの顔を照らし、その表情は、苦しげにも見えた。

「ミランダ・・本当に・・」

その後は、声にならず、再び、唇を奪われる。

「・・ん・・はっ」

ミランダは、予感がした。今日、求められるかもしれないと。

胸が、早鐘のように鳴る。ふいに、マリの唇がはなされて少しの沈黙の後。

「・・部屋に、来ないか」

低い声で、言った。
ミランダは、身をキュッと硬くする。

(ど・・どうしよう・・)

言葉が、出てこない。新たな関係へ足を踏み出すのが、怖い。けれど、反面その関係を望む自分もいて。

(いまさら・・何を考えているの・・)

でも・・でも・・。

(・・迷う必要ないのに)


その時、突然頭を撫でられて。マリが、苦笑しながら

「無理強いする気はないんだ」
「マリさん・・・」

そのまま、守るように抱きしめられた。

「だが・・・もう、待ちたくないな」
「・・!」

いたずらっぽく囁く。耳から、熱が広がるように顔が熱くなった。

「マリさん・・あの・・」
「・・?」

暗闇の中、心臓の音が耳にこだまする。

「・・・任務、生きて帰って・・くださいね」

勇気を振り絞るように、マリの手を、そっと握った。

「帰ってきたら・・・・」

帰ってきてくれたら・・・あなたと。

「・・・必ず・・約束しよう」

マリは、ミランダの頬にキスをして、そのまま全てを包むように、抱きしめられた。


そうして、約一週間の任務を終えて、マリは今日帰還した。


(わ、わかってるわ)

往生際が、悪いこと。

(でも・・だって・・・なんだか)

ミランダの顔が、茹で上がったみたいに赤くなる。

(どんな顔で会えばいいのか)

会って、お帰りなさい、を言いたいけれど。きっと、意識してしまう。ああ、なんだか、ふしだらな事ばかり考えてしまって・・・・。

(もうダメ)

しゃがみ込み、手で顔を覆う。ふと、辺りを見渡す。

(ここ・・・・)

「!!」

ミランダは、慌てて立ち上がり、急いでその場から駆け出した。そこは、マリの自室があるフロアだった。
時間にして、夕方の6時。この夕食時に、いるはずもないと分かっていてもミランダは、焦る。
そもそも、なぜ逃げているかも、自分ですら分かっていない。フロアは、全体的に薄暗く、まだ灯が点されてなかった。

(く、暗いわ・・)

少しだけ、恐ろしい気持ちになりながら慎重に、階段を下りる。
ゆっくり、ゆっくり、けれど、大体に於いて、事は彼女の思うようには動かない。

「!!!」

(ま、またっ・・!)

慣れた感覚が、ミランダを襲う。と、同時に階段を滑るように、足を踏み外した。

「ヒィ・・!」

目をギュッとつむり、衝撃に耐える。

(?)

何か、大きな力で引き上げられて。

(・・・あ・・)

それは、腕。
見覚えのある、硬い腕に、背後から抱きしめられていた。

「・・・捕まえた」

低い声に、耳元で囁かれる。

「!!・・・」

(マリさんっ)

心臓が跳びはねるように動き出した。

「お・・お帰りなさい・・」

ようやく、言葉が出て。

「ただいま・・」

マリが、ミランダの髪に顔を埋めているのを感じた。

「鬼ごっこは、これで終わりでいいかな・・?」

そのまま、ミランダの体を抱き上げる。

「えっ!?・・マ、マ、マリさん?」
「・・行くぞ・・」

小さく笑った。

「えっ?えっ・・?ええっ!?」

(ち、ち、ちょっとーっ!?)

ミランダの心の叫びを、知ってか知らずか、マリはそのままずんずんと歩いて行った。





マリの自室まで、連れて来られ、ミランダはベッドへ下ろされる。緊張から、少し震えた。

(わ、わ、わわっ・・・)

「ミランダ・・」

声を掛けられ、ビクリと反応する。そっとマリを窺うと、こちらを向いて苦笑していた。

「これを」

差し出されたのは、小さな小袋。開くと、甘い香りの香り袋だった。

「バラの、香り」
「近くに、バラ園があって・・素晴らしい香りだったから」

おみやげだ、と笑う。

「マリさん・・・」

甘い香りに、胸がときめく。

「本物を、持ってきたかったが・・そうもいかなくてな」

言いながら、ミランダに向かい合うように、椅子に座った。ミランダの胸に、温かいものが広がる。

「・・・嬉しい・・」

ポプリを胸に押し当てた。

「その、ミランダ・・あまり・・無理をしなくて、いいんだぞ」
「え?」
キョトン、としてマリを見た。

「・・・無理強いは、しないと・・言っただろ?」

優しく、頭を撫でられる。意図する事を察して、ミランダは、顔が熱くなった。

「そ・・そういう・・訳では」

消えるように、呟く。マリは、可笑しそうに笑い

「だから、あまり逃げないでくれ」
「!・・マ、マリさん」

(やっぱり、気付いてたのね)

マリは、さて、と立ち上がった。

「久しぶりに、一緒に夕食をとろうか」

す、と手を差し出されて、その手を取る。

(・・マリさん・・)



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