コーヒー牛乳



 僕には好きな人がいる。
 そう言うと必ず皆学校の子?なんて聞くけれどそんな生易しいもんじゃない。そもそも学校の子なんて名前もあわよくば顔さえ覚えていないし。
 僕の好きな人。それは頭が良くて、仕事ができて、誰よりも格好よくって、優しくて大きな人。20歳も年が上だけどそんなことこれっぽっちも気にならない。それくらい僕を夢中にさせる人。吉田しのぶくん。32歳。アラサー。エリートサラリーマン。何の仕事をしているのかは難しくて良く分からないけどきっと凄い仕事をしているんだと思う。顔はめちゃくちゃ格好いい。芸能人になれるんじゃないのってくらいイケメン。もう何もかもが格好いい。
 そんな人と僕は一緒に住んでいる。前、しのぶくんに同棲?って聞いたら驚かれたから多分同棲じゃない。同棲じゃないとすれば、僕はしのぶくんに拾われた捨て人間とかそんな感じかな。
 とりあえず、今はしのぶくんと一緒にのんびり生活している。例えばこんな感じ。
「譲、コーヒー牛乳、出来たよ。」
「比率は?」
「牛乳7コーヒー3」
「さすが、デキる人は違うねー。」
「だから、どこでそういう言葉覚えてくるの?」
 ちなみにしのぶくんの作るコーヒー牛乳はすっごく美味しい。僕が今まで飲んできたコーヒー牛乳の中でもダントツナンバーワン。
「やっぱり、しのぶくんの作るコーヒー牛乳はおいしいね。」
「それは良かった。」
 コーヒー牛乳を飲むといつも思い出す。
 雨が降る中、しのぶくんと最初に話した言葉。
『行く宛がないのなら、俺の家に来ますか?』
 しのぶくんのあの言葉に僕は一生しのぶくんについていこうって決めたんだ。
 しのぶくんは僕にとって例えるなら牛乳みたいな人。真っ黒で苦さしかないコーヒーみたいな僕の中に真っ白で優しい味のしのぶくんはすうって何でもない顔ですぐに溶け込んじゃうんだ。周りなんか信じられなくてうざたくって、大嫌いで、真っ黒に染まっていく僕を和らげてくれる白。それがしのぶくん。
 だから、僕はもしかしなくてもしのぶくんがいないと死んじゃうんだ。あまりにも苦くて。
「譲はコーヒー牛乳が好きだな。」
「大好き。」
「どうして好きなんだ?」
「んー…」
 不思議そうにそう聞いてくるしのぶくん。どうしよう教えてあげようかな。教えないでおこうかな。
「知りたい?」
「少し」
「じゃあ、耳貸して」
「ん」
 僕がしのぶくんに向かって手招きをするとしのぶくんは大きな体を傾けて僕の口許に耳を近づけた。
 仕方ないから大好きなしのぶくんに特別に教えてあげる。僕がコーヒー牛乳が大好きな理由。
 あのね、
「僕らみたいだから。」
「…ん?」
「コーヒー牛乳って僕らみたいでしょ。」
「…んー、少し難しいな。」
 しのぶくんは残念そうに眉毛を下げてそう言った。まだしのぶくんには難しかったみたい。しょうがないなあ。
「僕が大人になったら教えてあげるね。」
「待ってる。」
 僕がもう少し大人になったらしのぶくんに伝えるよ。
 コーヒー牛乳が好きな理由と、僕の気持ち。
 だから、それまで一緒にいてね、僕の大好きなしのぶくん。







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