夕日のオレンジ色で部屋が満たされる頃。時計は6時を差していた。 何もない真っ白な壁に映った影を僕はただ無言で見つめる。 まん丸頭に猫背ぎみの背中のシルエット。 僕は黙って自分の頭を左右に小さく動かすと、真っ白な壁に映ったそれもまん丸頭をゆっくり動かした。 そのまま頭を縦に動かしてみる。すると、やっぱり壁に映る彼も頭を縦に動かした。 しばらくそれを続けたあとにもう一度影を見つめると影はピタリと動かなくなった。 動かなくなった影を見て、今度は右手をあげてみる。勿論、右手をあげる。次は左手。左手。 バイバイ、さよなら。 バイバイ、さよなら。 両手を振って、さようなら。 両手を振って、さようなら。 ずっと続けていると腕が痛くなってきた。ダラン、と下げると壁に映るそれもダラン、と腕を下げてただのシルエットに戻った。 動かぬただの黒い塊になったそれをまた無言で見つめる。黒い奴は見つめられているのにも関わらずやっぱり微動だにしない。 僕は諦めて左半身を壁に凭れかけるように座り込んだ。すると、どうだろうか。さっきまであった黒い塊は僕のからだの隣にすっぽりと隠れてしまったではないか。なんだい、どうしたんだい。さっきまで僕の真似ばかりしてたじゃないか。 慌てて空いている右手を壁に向かって振る。そうしたら、ああ、良かった。壁の中の奴もふるふると手を振り替えした。 僕はそのまま右手でキツネを作った。すると、案の定、壁の中にひょこんとキツネが一匹現れた。キツネの口をパクパクさせる。壁のキツネも口をパクパクさせた。 いつの間にか、僕は壁のキツネを見ていた。壁のキツネは左右に動いたり、口をパクパク、パクパクさせたり、たまーに耳をぴょこぴょこ揺らしていた。 そんな遊びを飽きもせず、しばらく続けていると。 「あ」 ちゅ、と壁の中のキツネがいつの間にかに増えたもう一匹とキスをしていた。 「ただいま」 頭上から優しい低温が降ってきた。ゆっくり壁から目を離し上を見上げると、ふんやり笑った優しい笑顔。 「おかえり」 大好きなその笑顔に抱きつくと、彼もゆっくり僕を抱きよせた。 ちゅ、とキツネたちと同じように柔らかいキスをして。 いつの間にかに真っ白な壁には、二つの影が重なっていた。 |