▽宇宙警察と彼

あたしの家には指名手配犯が居候している。


「はよーっす」


今、起きてきたボサボサ頭に無精髭をだらしなく生やしている男。こいつがその指名手配犯。


「えぇー今日目玉焼きぃ?俺さー目玉焼き苦手なんだよねー。他の作ってよー。」


本来なら今すぐにでも警察に突き出してやりたいところだが。
あたしは黙って男の目の前に一杯の水を置いた。少々力強く置きすぎたらしい。水が零れている。と、いうより手が滑った。コップの中の水全て被った男は頭からポタポタと滴を足らしている。ざまあみやがれ。


「ひどいよね。こういうのってさ。暴力?精神的暴力っていうの?内側からじわじわ、じわじわ壊していくっての。悪魔だね。人のやることじゃないよ。」


男は外人のようにやれやれといった感じで肩を竦めながら首を横に振っている。その動きさえ腹が立つ。本当に今すぐ警察に突き出すぞ。
だけど、そんなことできるはずもなくあたしはぶつぶつ文句垂れる奴を無視して目玉焼きに箸を刺した。


「あれ、俺のは?作ってくんないの?」
「…あたし、目玉焼きしか作れないから。」
「えぇーいいお嫁さんになれないよ?仕方無いなー。じゃあ目玉焼きでもいいよ。我慢する。」
「テメエで作りやがれ。反社会的野郎。」
「ひどーい。僕だって好きで指名手配されてるんじゃないし。そもそもあっちが悪いんだよ。私が折角作ったタイムマシン盗もうとするから。だから逃げてるだけなのに。なのに指名手配とかひどくない?!」
「知らない」


あたしは何度目かの男の話を聞いて溜め息を吐いた。
一人称くらい1つに絞れよ。
あたしが男を警察に突き出せない理由。


「っていうか、やっぱり100年前の暮らしって不便だよね。よくこんな不便で生活できるよねって感じ。朝御飯なんかロボットに作ってもらえばいいのに。」


それは、アイツが未来人だから。
なんでも、未来の世界じゃ天才科学者だったらしくタイムマシンの研究を長年続けていたそうだ。しかし、世界の偉い組織にタイムマシンの研究がバレてしまい、盗まれかけ、タイムマシンを使って過去の世界へ命からがら逃げてきたとかなんとか。そしたら、向こうの世界で指名手配犯にされてしまった、という訳。らしい。
こんなSF漫画みたいなこと信じろっていう方が無理があると思う。あたしだって信じていない。指名手配犯だと聞き、急いで警察に連れていったけど案の定指名手配なんてされていなかったし。男曰く、こっちの世界では指名手配されてないよー。はは、ばかだねー。


「じゃあ、あたし、もう仕事行くから。何にもしないでよ。」
「しないしなーい。宇宙警察に追われてますしね。」
「…あっそう。」
「今日の徹美の部屋誰だっけー」


こんなどこにでもいそうな居候が未来では指名手配されている大罪人だなんて信じられない。むしろ、滞在人だ。


「あっ、夕飯はカレーがいいなー。」


早く宇宙警察を見つけて突き出してやろう。









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