夏休み最後の日。 野原しんのすけは大量の宿題をカバンにつめて風間トオルの家に向かっていた。 頭の上ではギラギラと太陽が照らしつけ、遠くからはミーン、ミーンと蝉が喧しく鳴いている。まだ家から出て5分しか経っていないが早くも家に帰りたい。だが、家に帰ったってかーちゃんに「宿題をやれ」と口煩く囃し立てられるので落ち着けない。どうせやるなら静かなところでやりたいと思い、風間の家に行こうと思い立ったのだ。もちろん、例のごとくアポなんてとっていない。 「暑いー」 ダラダラと汗を滴ながら無駄にでかいマンションへとたどり着いた。通い慣れた部屋へと進み、ぴんぽーんとチャイムを鳴らす。 「…なんだよ、いきなり。」 開いた扉から顔を覗かせたのは人生の半分以上を一緒に過ごしてきた幼なじみ、風間トオルだった。覗かせている彼の顔は明らかに嫌な顔をしている。しかし、しんのすけはそれでも構わず扉の隙間から風間の部屋と入っていった。 「あーすずしー。さすが風間くん地球にも冷たい男だね」 「うるさいな。で、なんなんだよ。」 「えーなにー用がないと来ちゃいけないわけー?オラたちの関係じゃなーいのー!トオルちゃんのい、け、ずっ」 「気持ち悪い言い方をするな!」 体をくねらしながらしんのすけが近付くと風間は頬をひきつらせながら距離をとった。しんのすけはそんな風間に構わずリビングのソファへと横たわる。 「宿題をね、やろうと。」 「はあ?自分の家でやればいいだろ。」 「オラがやるより名門学生さんがやったほうが早く終わるでしょ。」 「嫌だね。しんのすけの宿題だろ。自分でやらなくちゃダメだよ。」 「相変わらず効率よくないね、風間くんは」 「やらないったらやらない」 風間はそういうとぷいっと顔を背けてしまった。そんな風間をみてしんのすけははあ、と溜め息を吐いた。融通が利かないというか真面目というかそういうところは小さい頃から全く変わらない。まあ、そこが良いところなのだが、としんのすけは思っている。 しんのすけに向いている背中は昔よりずっと大きくなった。それは自分も同じ。皆、あの時からずっとずっと大きくなった。だけど、変わらないものだってたくさんある。風間はいつまでも真面目でうるさくってナルシストで、だけど正義感の強くて良いやつなのは変わらない。昔より会う頻度は少なくなったが会おうと思えば昔のままの彼がいる。しんのすけはそれが堪らなく嬉しいのだ。 「ふうっ」 「…!!な、なんだよおっ」 「いや、未だに耳の後ろ弱いんだと思って」 「やめろよばか!」 「トオルちゃんひどいー」 「気持ち悪いってば!」 「あーん」 「宿題教えてやらないぞ」 「えーうそうそごめん」 「ったく。どこだよ。」 いつまでも変わらない君が好き。 |