かぶり、と一咬み貴方の腕。 あらやだなんだか血の味がするわ。 だらだら歯から零れ落ちる血も拭かずに貴方を見つめる。うーん、口の中が鉄臭い。 貴方は驚いた顔で私の歯に付着した血を見た後、ゆっくり自分の腕に付いた歯形に目をやったわ。 あーあ、くっきり歯形が付いちゃったわね。まるで玉蜀黍を食べた後みたい。イタズラ小僧が笑っているわ。だらしがないなって。私に噛まれたくらいで痕なんか付けるなんてって。 「痛い」 「そうでしょうね」 「血が出てる」 「見れば分かるわ」 「そっか」 「そうよ」 貴方に付いている赤い斑点。 それ、私が付けたのよ。私が貴方に噛みついて付けたのよ。 痛いのなんて当たり前じゃない。だって、痛くなるように噛みついたんだから。痛くなかったら嘘だわ。もう一度噛みついてやるんだから。 貴方は悲しそうに瞳を揺らすと、ペロリと私が噛み付いた部分を舐めた。 なんだかとってもヤラシイわね、貴方。 私がそう思いながら貴方を見ていると、貴方の口にもポタリと赤が垂れた。 あらまあ、お揃いね私たち。 「やっぱり、血だったよ」 「良かったわね」 「痛いよ」 「痛いわね」 私が噛み付いた貴方の腕は貴方の血と私の唾液と貴方の唾液でぐちゃぐちゃだった。 見ているこっちが痛々しいわ。 ああ痛いんでしたっけ。 私は同情して貴方の腕を舐めたわ。ベロン。 そしたらやっぱり血だった。 貴方にもちゃんと流れているのね、血液が。他の人とおんなじ赤い血液が身体中に犇めいているのね。 私も流れているのかしら、貴方とおんなじ血液が。貴方とおんなじ鉄臭い味が私の身体の中にも有るのかしら。 今度は私の腕でも噛んでみようかな。 「痛いのは嫌いよ」 「ああ」 だから貴方で充分だわ。痛いのは。 貴方はゆっくり血で彩られた唇にキスをした。 鉄と鉄が混ざりあってなんて鉄臭いのだろう。 でも漸く分かったわ。 「私にも血液が流れているわ。」 そう言って、私たちはキスをするの。 |