どうしたことでしょう。 天使が電車に乗ってます いや、電車に天使が乗ってます。の方が合っているような気もします。 どちらでもいいですね。 つまり何が言いたいかといいますと、それくらい気が動転しているということです。 これは決して可愛い女の子が電車に乗ってます。というような比喩ではありません。 本当に天使が電車に乗っているのです。 その証拠に金色のふわふわ頭の上には同じく金色に輝く天使のわっかが。小さな背中には似つかわない大きな羽が生えています。 その大きな羽の所為で背もたれできないのか天使はシャンと背筋を伸ばし座っています。 しかし、短い足は床に届かないらしく宙ぶらりん 天使のくせに。 天使の一個開けて隣に座るサラリーマンは気付いていないようです。 先程からだらしなく涎を垂らして眠りにふけています。 あーあ、勿体ない。 しかし、天使なんかが電車に乗って何の用事があるのでしょう。 折角、羽がお生えになっていらっしゃるので、空を飛んで移動なせればいいのに。そうすれば、態々御行儀よく座ることもないのに。 案外おつむの方はよろしくないようです。 もしかして、この電車は天使の住む世界に繋がっていたりして。 そしたら、私も降りてみようかしら。 きっと、ふわふわの雲の床に頬っぺたがとろりと落ちてしまうような美味しい果物、それから女神の美しいハープ演奏があるの。 そこは誰もが夢見る楽園 プシュー、と電車が停止しました。 アナウンスからは聞き慣れた駅名が流れてきます すると、天使はぴょこんと椅子から降り、開きっぱなしの扉から羽をほんの少し羽ばたかせながら下車していきました。 プシュー、と電車の扉が閉まります。 東の空には小さな天使のシルエットが見えました どうやら、無断乗車だったらしいです。 ………なーんてね。 私は小さくなっていく天使の背中を見つめながら最寄りまでの駅の個数を数えました。 |