愛しい人が亡くなった。 だから、私は自然と必然的に北枕で寝るようになった。 北枕にして寝れば、愛しいあの人に会える気がして。 同じ世界に行けるような気がして。 そして、その日は訪れた 仕事から帰ってきて、自分で作ったクソ不味い料理を口に運んで、湯船に浸かり一日の疲れだけを流しきって、いつもと同じように北枕にして寝ようとしたときにそれは訪れた。 暗闇の中でしか寝れない私はいつも部屋を暗くして寝ているのだが、そんな中、枕元がぽおっと明るく光り始めた。暗闇の中でしか寝れない私は何事かと思い光を見つめていたら、最初はぼんやりとしていた光は徐々に人型になって行き、そしてついに光は愛しい人型になった。 「やあ、元気にしていたかい?」 先に死んでいったくせに、なんて軽い挨拶なのだろう。 「私は暗闇の中でしか寝れないんだけど。」 「ああ、ごめんごめん。知っていたよ。」 先に死んでいったやつが失礼なこった。 完全に目が覚めてしまった。 私は暗闇の中でしか寝れないのだ。 「何のよう?」 私は愛しい人型の光に話しかけた。すると、愛しい人型の光は生前の愛しい人と同じような笑顔を浮かべながら「別に」と答えた。 正直なところ、夜には来てほしくないと思った。なぜなら、私は暗闇の中でしか寝れないからだ。 「用はないけれど、君に会いたくなって。神様にお願いして会いに来た。」 死んだ人でも会いたい人がいるのだと初めて知った。 私は生まれてからこの方、生きている人しか死んだ人に会いたいと思わないと思っていた。所詮、一方通行だと思っていた。 勝手に死んで、一方通行にさせておいて。この野郎。 「光じゃん」 「光にしかなれないんだって、神様が。」 「ふうん。」 愛しい人型の光はそう悲しく笑った。 「向こうはどうなの?貴方の話を聞く限り神様って人は優しそう。」 「そうでもないよ。」 「ふうん。」 また、愛しい人型の光は悲しげに笑った。そんなに良いところでもなさそうだ。 「あのね、ずっと向こうで考えてたんだ。」 愛しい人型の光は先程前の悲しい顔を一瞬にして明るい笑顔に変えた。眩しかった。 「君もいればずっと楽しいんだろうなって。」 眩しくて眩しくて眩しくて。 目を閉じたいのだが私は暗闇の中でしか寝れないから、仕方なく眩しく光る愛しい人型の光を見つめるしかなかった。 「でも、良かった。君が暗闇の中でしか寝れない君で。」 頭の何処か遠くで声が響いた。 『ごめんごめん。』 ああ、私の思いは決して一方通行じゃないんだあ 『君には太陽の光が当たるところの方が似合っているよ』 頭の中で響いている声は愛しい人の声だった。 「やっと、会いに来てくれたんだね」 やっと、会いに来てくれた。 ニセモノの光なんかじゃなくて。 ホンモノが会いに来てくれた。 そして、やっと暗闇の中でしか寝れない私は眠りについた。 朝、目が覚めると東枕になっていた。 一筋の涙が頬を伝った。 |