始業時刻目前にも関わらずがやがやと煩い教室。そんな教室の窓から2列目後ろから2番目の席。そこが僕の席だ。出席番号順に並んだその席は高校2年生になった時からずっと同じだ。担任の先生はあんまり席替えを好まない人だから多分良くて半年、悪かったら1年間この席で過ごすことになるだろう。まあ、別に席替えなんてしなくていいんだけれども。 僕はくぁあーと欠伸を一つ漏らす。別段昨夜は寝るのが遅かった訳じゃないのだがまだまだ眠気は僕の中に留まりっぱなし。この年頃はいくら寝たって寝たりない。もういっそのこと布団を持ってきてそこで授業を聞きたいくらいだ。時計をチラリと見る。始業まで目前と言ってもあと10分ある。10分あれば少しは眠れるだろう。よく先生方は5分前行動なんて言うが今を生きる僕らにそんなもの必要ない。僕は腕を組み枕にしてその上に突っ伏した。お決まりの睡眠ポーズ。起きた時に若干手が痺れるのが難点。でも今のところこれが一番眠りやすい。僕は目を閉じ、1時間ぶりの夢の中へ旅立とうとした。 「やまくんおはよー!」 「あっ、やまくん!」 遠くの方で女子たちのいつもより1オクターブは高いよそ行きの声が聞こえた。僕は折角夢の中へ行こうとしたのだが一旦それを中止しムクリと体をあげる。 別に女子の黄色い声に体を起こした訳じゃない。女子たちの言葉の内容に体を起こしたのだ。 キャアキャアと真黄色を浴びた「やまくん」と呼ばれている彼は短くおはようと返しながらスタスタと窓側から3列目後ろから2番目の席、つまり僕の隣の席まで歩いてきて鞄を机に置くよりも早く僕に向かってニコリと笑った。 「うみくん」 「やま」 やま。 僕の友達。 高校1年生の時に同じクラスになって知り合った。 やまはさっき女子からキャアキャア騒がれているのを見て分かったと思うけれど凄くモテる。勿論、イケメンだ。キリッとした流し目とすぅっと筋の通った日本人離れした高い鼻。それから薄い唇に部活で焼けた小麦色の男らしい肌。筋肉も程よくついていて細マッチョ。正に絵に書いたようなイケメン。 更にテニス部に所属しておりテニスがとても上手い。3年の先輩でさえ凌駕してしまうその腕前は周りから期待の星だとか5年ぶりにインターハイ出場だとか囁かれるほどだ。部活時はいつも沢山の女子たちがやまの姿を見ようとテニスコートをフェンス越しにぐるりと囲んでいる。 加えて頭も良い。毎回テストではクラス一位。学年も10位以内には入っている。 こんな完璧人間をミーハーイケメン大好き女子たちが見逃すわけがないのだ。 そんな完璧人間と僕がどうして友達になれたのかは僕が一番不思議に思っている。だけど、今さらやまと友達を止める気も更々ない。別段、やま以外に友達がいない訳じゃない。けれどもやまと友達を止めたくない理由がある。 僕がやまの名前を呼ぶとやまは整った顔をふにゃりと緩めて柔らかく笑った。 僕はやまのそんな笑顔が大好きだ。他の人には見せることのない僕だけのやまの笑顔。 「おはよう」 きゅーんと胸がなる。 切ないけれど嬉しい。 「おはよ」 僕はやまが好きだ。 勿論、恋愛対象。 |