身体中がふわふわする。まるで夢の中を歩き回っている感覚。何か考えようにも思考が定まらない脳みそじゃ何も考えられない。とりあえず指先を動かしてみるけど鉛のように重たく感じる。ここはどこなんだろうか。
 八束はゆっくりと重たい瞼を開けた。同時に視界に眩しい朝日が入ってくる。寝惚けている頭のまま異様にだるく感じる体を起こしあげた。ぱさりとタオルケットが八束の体から落ち、手に柔らかい布団の感触がした。布団の上にいるということはきっと今まで寝ていたのだろうと八束は推測する。ようやく冴えてきた頭で辺りを見回して八束はギョッとした。なぜなら、自分が寝ている部屋は今まで全く来たことも見たこともない見知らぬ部屋。そして何よりも驚いたのは自分の隣でぐうすかとこれまた見知らぬ男が寝ていたからだ。
「…なに、これ…」
 自分が置かれている状況が全く理解できないで一人慌てふためく八束。昨日のことを思い出そうとするとずきずきと頭が痛む。オカマバーに裕也と二人で行ったところまでは覚えているのだがそこから先が全く記憶にない。記憶はないがとりあえず今の状況が大変よろしくないことだけは理解できた八束はさっと顔を青ざめた。
 すると、八束の騒ぎ声で目が覚めたのか隣で寝ていた男の指先がぴくりと動いた。
「…うるさい」
 ボソッと突然呟かれた低トーンボイスに八束はびくりと体を震わせた。嫌な予感が八束を過る。冷や汗まみれの顔で恐る恐る声のする方に目をやるとそこには思わず目を背けたくなるような恐ろしい顔でこちらを見ている男がいた。
「ごめんなさい!起こすつもりはなかったんだけど…」
「お前はいつも俺の眠りを邪魔するんだな。」
「だから、そんなつもりじゃ」
 男はぶっきらぼうにそれだけいうとまた布団に潜っていく。八束はそんな男を見ながら男の言葉に違和感を感じ首を傾げた。
「あの俺ら会ったことありましたっけ?」
 八束の問いかけに布団の中から眠たそうな声で「第2講義室」と返ってきた。第2講義室だけでは何がなんだかさっぱり分からない。その答えに八束はまた頭を捻った。
「第2講義室で何かありましたっけ」
「…昼寝」
「昼寝…」
 相変わらず布団からは単語しか返ってこない。これじゃあ全く埒が明かない。仕方無く自分で考えることにした八束は今まで第2講義室でしてきたことを思い出そうとした。第2講義室といえば八束が老教授の授業を受ける部屋だ。それ以外ではあまり使わない。元々古いこともあって人が寄り付かないのも第2講義室だ。それから陽射しの入りかたが最高で昼寝にうってつけの場所。
 昼寝にうってつけ。昼寝。
 八束はハッとした顔で隣で丸まっている布団を見つめた。
「もしかしてこれ」
 第2講義室で昼寝といえば。記憶に新しい出来事が八束の頭の中に浮かんだ。布団の中からはまたリズムのよい寝息が聞こえてくる。少し捲れあがった布団の中身を覗いて八束は再度ギョッと目を丸くした。
「…嘘、だろ…」
「…うるさい」
 隣で寝ていたのは、あの日第2講義室で出会った目付きの悪いヤンキーだった。




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