オカマさんに半ば引きずられるように店の中に入れられた二人はただただ青い顔をして俯くしかなかった。右を向けば金髪ツインテールの男の人、左を向けばさらさら黒髪ロングヘアーの男の人が座っている。八束は何とかして裕也の隣にいたかったのだが当の裕也はというと八束の倍以上の数のオカマさんたちに囲まれていた。あれはもう南無三としか言い様がない。
「えぇーっと、やつか、くんだっけぇ?」
「あ、はい。」
「んふふ。可愛い名前。アタシ、明美。あっちゃん、って呼んでね。」
「あ、はい。」
 八束から向かって右隣にいる明美と名乗る男性に苦笑いを浮かべながら受け答えをする。内太ももを撫でられている感覚は気のせいだと思いたい。体もピッタリとくっつけてくる。ここら辺は他のキャバクラ等とは変わりがないのだろう。行ったことがないから分からないが。
 「クラブオネェ様」はテレビなどでよく見るキャバクラのような作りはしておらず、どちらかというとバーのような作りになっている。八束たちが座っている場所は長いテーブルとソファが置いてある場所だが、別の場所にはカウンターもありそこでは何人かのサラリーマンとオカマが親しげに会話をしている。多分、キャバクラというよりかはスナックやオカマがいる居酒屋と言った方が近しいのかもしれない。だとしたら、このボディタッチの多さはオカマの性なのか。八束は明美から少し距離を取りながら小さく溜め息を吐いた。
「八束ちゃんっていくつ?」
「えっ?!い、いくつって歳ですか?」
「そぉよぉ。ここ、未成年禁止だから。」
 明美はそういうと上手なウィンクをばっちんと八束に飛ばした。八束はそのウィンクと未成年だともうバレていることに顔を青ざめた。しかし、ここで嘘をついても無駄な気がする。八束は俯きながら口を開いた。
「あ、あの…じゅう、はちです。あっ、でも今年でじゅうきゅう…」
「未成年なことに変わり無いわね。あっちの坊やも?」
「…はい。」 
 明美はやれやれといった表情で八束を見ると、あちらこちらに立っているウェイターの中の一人に声をかけた。
「オレンジジュース1つ、ご注文よ。」
「えっ。…いいんですか?」
「今の時間に外に出したら危険だからね。ここより際どいのがいっ〜ぱいいるわよ。」
「あ、ありがとうございますっ」
「今日だけ特別っ」
 明美はニコリと笑うとウェイターが持ってきた綺麗なオレンジ色をしたオレンジジュースを八束に手渡す。グラスを受け取った八束は先程よりかはほんの少しだけ明美がちょっぴり女性らしく見えた。
 そして、何時間か経つと八束も裕也も多少はこの異空間にも慣れてきたのか、苦笑いを浮かべつつも普通の会話は出来るようになっていた。裕也なんかは周りを5、6人のオカマに囲まれながらもなんとか会話を続けられるようだった。
 そんな中、八束に異変が起きたのは4杯目のオレンジジュースを飲み終えた辺りだった。
「でねえ、八束ちゃん…あら?八束ちゃん?」
「…なんですかあ…?…ん…」
 今までは苦笑いながらも明美の話に相づちを打っていた八束の声は明らかに小さくなっており、体もふにゃんふにゃんと今にも倒れそうだ。流石の明美も八束の異変に気付き、がくがくと八束の体を揺らすがくたあとなってしまった八束の体は重力に逆らうこともなくされるがまま。そして、どこからかアルコールの匂いまでもしてきた。明美はその匂いにハッとして、今まで八束が飲んでいたグラスの臭いを嗅いだ。
「やだぁ〜これ、カクテルじゃなぁ〜い!」
「うそぉ」
「誰〜?これ持ってきたのぉ!」
「アタシー!」
「美樹ぃ!もうっおドジさんっ」
「やんっ」
 などと明美たちがキャッキャッやっている横で八束はというと、ほんのり頬を染めながら明美の膝の上でぐうぐうと眠っていた。そんな八束を見ながら、明美は困ったように「どうしましょー」と眉を潜める。一緒に来た裕也は沢山のオカマたちと楽しそうに騒いでおり、まだ終わらなそうだ。だからといって八束を終わるまで店に置いておく訳にもいかない。
 その時、うーんと低い唸り声をあげている明美の前に1つの影がかかった。
「俺、もう上がりなんで連れてきますよ。」
「ほんとー?!助かるわー」
「いえ。」
 明美は突然現れた影の主ににっこりと微笑んでくたくたになった八束を渡した。 
「じゃあよろしくねアカネちゃん。」




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