「遂に完成したぞ…朱流」 「やりましたね。」 怪我事件から2時間後、美味しそうなハンバーグとハンバーグとは言い難い物体が白いお皿に不様に盛り付けらながらテーブルに置かれていた。 勿論、美味しそうな方は俺が作ったハンバーグだ。一方、形はぐしゃぐしゃ、所々黒く焦げている余りにも想像していたハンバーグとは程遠いハンバーグは鳴海先輩の作ったもの。 今日改めて知ったけど、先輩はだいぶ料理に関しては向いてない。あの不器用さでハンバーグが丸焦げにならなかっただけでも奇跡だと思う。手を切った以外にも先輩の手にはたくさんの絆創膏が貼られていた。 「ううーむ…。どうしてこうも違うんだ?」 「…。まあ、俺は毎日作ってますから。」 「そういうものなのか?」 「いやー…。ま、とりあえず食べましょう。」 ささ、と先輩を座るように促し、自分が作ったハンバーグに手を伸ばした。 「ちょっと待て」 先輩にそれを阻止するように手を止められる。伸ばしかけた手をすごすごと戻し、顔をしかめながら先輩を見ると、「はい。」と目の前に不恰好な方のハンバーグを差し出された。 「…へ?」 「朱流はこっちだ。」 差し出されたハンバーグを見て、再度先輩の顔を見る。すると、既に先輩の前には俺が作ったハンバーグが置かれていた。 「は?」 「僕が朱流の作ったやつを食べる。」 「いやいやいや。なんで。」 まさかまさかな。笑いながら先輩の前に置かれたハンバーグと自分の前に置かれたハンバーグを交換する。なんで俺がこっちのハンバーグ食べなきゃならないんだよ。 「なにやってる。僕が朱流のを食べる。朱流が作ったやつが食べたい。」 しかし、現実はそう上手くいかないらしい。直ぐ様、ハンバーグを取り替えられた。 「それ、自分が作ったやつ食べたくないからでしょう。」 「そんなことはない。朱流のが、食べたいんだ。」 「嘘です。」 「嘘じゃない。」 「じゃあ、一口、先輩が作ったやつ食べてください。」 「嫌だ。」 「ほらー!嘘じゃないですかー!」 「嘘じゃない。」 グイグイと真っ黒なハンバーグを先輩に押し付けると先輩はプイッと顔を背けてしまった。 このわがまま王子め!! これじゃあ意地でも食べないんだろうなあ。仕方なく、渋々と真っ黒なハンバーグを口に運んだ。うわ、これは。 「美味しい!」 「えっ本当か?!」 「はい。」 「…!! 不味いじゃないか!!」 「仕返しです。」 余りの苦さに顔をしかめる先輩。ざまあみやがれ。 「料理は難しいなあ。」 「慣れですよ。」 「慣れ?」 俺の作ったハンバーグを口一杯に含みながら先輩は首を傾げた。俺はそれに「はい。」と答える。 「俺だって最初は失敗ばかりでした。でも毎日作り続けている内にいつの間にかにできるようになりましたよ。」 「…それは、僕にも出来る、ということか?」 「まあ、はい。」 俺がそう答えると、先輩は難しい顔をしながら何やらうんうん頷いている。 あれ、この感じ前にもあったような。なんだか嫌な予感。 「じゃあ、僕が料理ができるまで朱流に教えてもらうことにしよう!」 「…は?」 先輩は可愛らしい絆創膏を貼ったままそう笑顔で言った。 変わりに俺は自分でもわかるくらいみるみる青ざめていくのが分かる。 なんてこった。墓穴を掘ってしまうだなんて。 「なっ!いいだろう!」 ハンバーグの苦い味が幾分増したような気がするのはただの気のせいだろうか。 「ぜーったい嫌ですー!!」 笑顔の先輩を余所に、俺の叫び声がマンション中に響き渡った。 |