「お弁当、自分で作っているんですか?」 ミニトマトを口に運びながら、ふと抱いている疑問を聞いてみた。サンドイッチとスクランブルエッグしか入っていない簡素なお弁当は他人が作ったものとは思えない。しかし、作る時間ないや料理が苦手だという理由ならこの中身も納得がいく。もし、その様な理由を持っている他人ならまず弁当を作ってほしいなど頼まないだろう。だとしたら、思い当たるのは先輩が作ったという理由だけだ。 「うん。はは、朱流のように上手くないから恥ずかしいな。」 先輩はそう言うと、恥ずかしそうに頭を掻いた。 やっぱりそうだったのか。思った通りだ。 「俺は毎日作ってますから。そりゃ嫌でも上手くもなりますよ。」 「毎日作っているのか。凄いな、朱流は。」 「大したことじゃありません。先輩は料理はあまりしないんですか?」 「しないなあ。だから、弁当もこんな感じ。」 はは、と先輩は乾いた笑い声をあげたが、直ぐに何か思い付いたような顔になった。手に握られているトマトとレタスとキュウリが挟まっているサンドイッチが楽しそうに揺れている。 何となく、嫌な感じが体を駆け巡った。 「そうだ!料理を教えてよ!!」 「はあ?」 いけない、いけない。思い切り顔をしかめてしまった。けれど、この先輩にはどんな顔をしても特に問題なさそうだ。がっしりと期待を込めて握られた手がそれを物語っていた。 また、なんてことを思い付くんだ、この人は。頭を抱えたいところだが、俺の手を拘束している力強い手がそれを許してくれない。仕方がないから頭を抱えたい思いも含め俺は目の前で目を輝かせている先輩を見た。 「一応聞きますが、誰が誰に、ですか?」 「そんなの朱流が僕に決まっているだろう。」 「やっぱり。」 先輩の顔が目の前にあろうがなかろうが構わず深い溜め息を吐く。この人の我儘っぷりには驚かせられるばかりだ。名前を教えろだのお昼を食べようだの教室に押し掛けてきた挙げ句に料理を教えろだなんて自己中心的の一流を行っている。ここまでくると流石だと拍手を送りたくなる程だ。 「いい提案だろう?そうすれば、僕の弁当のレパートリーは増えるし、何よりも朱流とのお弁当交換が活性化する!な?朱流、一石二鳥だろう!」 そう意気揚々と話す先輩に俺はだらけた声で「はあ」と返す。 きっと、俺にもう拒否権なんてないんだろう。知り合ってからまだ2日しか経っていないのにこんなに簡単に諦めがつくようになるなんて思いもしなかった。 俺には目の前の自己中わがまま王子の提案に従うしかないと重い頭を垂れるしか他にないらしい。 「…それはいいアイディアですねえ。」 この人には敵わない。気がする。 |