「うわあ、こんなところあったんだ。」
「良い場所だろう。」


鳴海先輩に引っ張られるがまま連れてこられた場所は静かな中庭だった。
中庭があることさえ知らなかった上にあの騒がしい学校内にこんな静かな場所があるとは思わなかった。
俺らは中庭に等間隔に並べられたベンチの1つに腰を下ろした。


「ここならばゆっくり食事が出来るな!朱流!」
「そうですねえ」


そもそも貴方が来なければ今頃俺は友達たちとゆっくり食事ができたんですが、という文句をこの人に言ったところで無駄なのは百も承知、ぐっと言葉を飲み込む。
俺は自分で作った弁当箱を広げた。パカリ、とふたを開けると中にはそぼろご飯に玉子焼き、ミートボール、ミニトマトとブロッコリー、ミニコロッケと言ったありきたりなおかずが並んでいた。と、言っても作ったのは自分なのだが。そんななんとも平凡な俺の弁当の中身を見た鳴海先輩に俺はその中の玉子焼きに箸を伸ばすと同時に話しかけられた。


「その玉子焼き!昨日手に入れたたまごで作ったのか?!」
「え?あ、これですか?そうですよ。」
「おおー!大変身だな!」
「大変身って…。」
「凄いな!たまごは!」


鳴海先輩は嬉しそうにたまごを見て子どものようにはしゃいでいる。しかし、不思議とそんな先輩を見ているのは嫌ではない。むしろ、見ているこっちまで笑ってしまうようなそんな気持ちになる。


「玉子焼き、食べます?」
「!!いいのか?!」
「いいですよ。はい。」
「おおっ!」


苦笑しながら自分の弁当箱から玉子焼きをひょいとつまみあげ、先輩の弁当箱に乗せて上げる。先輩は自分の弁当箱の玉子焼きを見つめにっこりと笑った。


「僕も何かやろう。」
「え、いいですよ。」
「遠慮するな!ほら、何がいい?」
「えー、と。じゃあ」


キラキラと顔を輝かせながら差し出されたお弁当を見ると中身はサンドイッチが3つと隅にケチャップのかかったスクランブルエッグが申し訳なさそうにちょこんと入っているだけだった。
あまりの少なさに伸ばしかけていた箸を引っ込める。いくら痩せ身だからってこれは少なすぎるだろう。ひとつしか年が違う俺だって今の時期はたくさん食べなければお腹が減ってしまうというのに、これでは少なすぎる。


「これだけで足りるんですか?」
「ん?ああ、足りると言えば嘘になるな。だが、大丈夫だ!心配するな!」
「そんな。心配しますよ。」
「大丈夫、大丈夫。で、どうするんだ?何がほしい?」
「えぇー…じゃあ、これで。」


俺ははじっこに置かれているスクランブルエッグをひとつ掬った。それを見て先輩は驚いたように「それでいいのか?」と聞いてくる。俺は「はい。」と短く答えると、箸の上に美味しそうに乗っかったスクランブルエッグを口に運んだ。


「美味しい。」
「サンドイッチもあるぞ?」
「俺、先輩に玉子焼きあげたでしょ?」
「あ、ああ。」
「だから、俺もスクランブルエッグを貰いました。」
「え?どういうことだ?」
「たまご料理同士、です。」


そう笑うと、先輩も一瞬目を丸くしたが嬉しそうに笑った。


「たまご交換だな!」
「そういうことになりますね。」


先輩が笑うと、俺もつられて笑ってしまう。先輩のあの明るい笑顔は人を笑わせる力があるみたいだ。



「これでお弁当の具の交換できたな!」
「…あ、」


先輩につられてばかりだなあ、と俺は甘い玉子焼きを頬張った。





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