長かった午前中の授業もやっと終わり、これから待ちに待ったお弁当の時間。学食の生徒は食堂へ、弁当の生徒は友人たちと楽しそうに机をくっ付け始めている。そんなお昼モード真っ只中、俺はというと自分の弁当を持ちながら目の前に立っている人物を見て顔をしかめていた。 「やっ、朱流!」 そう言ってきたのは、昨日知り合いになってしまった鳴海ケイトだ。鳴海先輩は昼休みが始まると同時に俺の教室に飛び込んできた。 ただでさえ金髪碧眼の美青年なのにそんな人が特に教室で目立ってもいない俺に用があるというから、俺の教室は小さなざわめきが起きている。 ああ、さようなら、俺の幸せな普通のお昼休みよ。隣の席の前島でさえ不思議な顔で俺を見ているよ。 俺はとりあえずこれ以上目立ちたくないため、鳴海先輩を教室から押し出した。 「なんですか、急に飛び込んできて。」 「あのね、朱流!一緒にお昼ご飯食べよう!」 「…はあ?」 噛み合わない会話と突拍子のない誘いに思わず声を上げた。 「僕、お弁当作ってきたんだ。中庭に丁度良いベンチがあったろう?そこで食べよう!」 「嫌ですよ」 「えっなんでっ?!」 漸く噛み合った会話に今度は鳴海先輩が驚いた声を上げた。やれやれ、と先輩を見上げるとまるで捨て犬のような顔でこちらを見てくる。 美人な顔でそんな顔をするのは狡い気がする。断りたいものも断れないじゃないか。 「食べる人いないんですか?」 「いない」 渋々とそう聞くと先輩は悲しそうな顔で答えた。 そう言えば、先輩って一昨日転入してきたばかりだったっけ。だから、一緒に食べる人がいないのかな。それなら、転入して直ぐに知り合った俺しか誘う人がいないのも無理ないか。 俺は溜め息を吐き、ゆっくりと頷いた。 「…いいですよ。お昼、食べましょう。」 俺の言葉に鳴海先輩は直ぐ様悲し気な顔を一変して明るくさせた。 「じゃあ中庭に行こう!ねっ早く行こう!」 「分かりましたから、そんなに引っ張らないで下さい。」 「お弁当の具、交換こしようね!」 「それは絶対嫌です!!」 斯くして、俺は鳴海先輩に引きずられるようにお昼をお供することになったのでした。 |