「名前…ですか…」
「そう、名前!昨日聞きそびれちゃったからさ。」
「あー、山田太郎辺りでいいですか?」
「本名教えて」


直ぐ様嘘を見抜かれた。ちくしょうなんでこういうのは分かるんだこの人。


「名字は相楽だろ?」
「え、なんで知ってるんですか。」
「昨日、表札に書いてあるの見たから。」
「あちゃー」


その手があったか。
名字を知っていれば名前を聞く必要ないと思うんだけど。それに、名前なんて教えたくない。教えてしまったらなんだか戻れなくなる気がするからだ。ただでさえあの人は俺とは住む世界が違う人なんだからそんな人とはあまり関わりたくない。それなのに、名前なんて教えてしまったら否応なしに関わらなくてはいけなくなってしまうじゃないか。
だけど、教えなかったら教えなかったで面倒なんだろうなこの人。
迷った末に俺は彼を見た。


「人に名前を聞く前に、自分から名乗るのが礼儀ではないですか?」
「えっ。あっ、そっかそっか。ごめんね。」


俺がそう言うと彼は意外と素直に言うことを聞いてくれた。そして、コホンと態とらしく咳払いをして、自分の自己紹介を始めた。


「僕は鳴海ケイト。この学校の2年生だよ。実は、一昨日転入してきたばかりなんだ。よろしくね。」


鳴海ケイト。
どちらが名前か分かりにくい名前だ。
でも名字が鳴海ってことは日本人なのかな。それにしては綺麗な金髪碧眼だ。もしかしてハーフかもしれない。
それに2年生ってことは、先輩なのかこの人。元々、初対面の人には敬語で話すのが癖になっていたけど、本当に年上だったとは驚きだ。
あと、転入生だったのか。なるほど、だから、地元の人しか通わないこの高校であまり見ない顔だったのか。


「よろしくお願いします。」


俺はニッコリ笑う鳴海ケイトにつられてペコリと頭を下げた。


「さっ!次は君の番だよー」
「うっ…」


やっぱり言わなきゃいけないのか。けれど、この状況で言わないとうるさいしなこの人。こんな人通りの多いところで騒がれて悪目立ちするのはごめんだ。
俺は渋々口を開いた。


「…相楽朱流です。1年です。」


そう素っ気なく伝えると、鳴海ケイトは満足したのか満面の笑顔を浮かべていた。


「よろしくね、朱流!」


本当に後戻りできない気がしてきた。





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