「はあっ?!」


流石にそれには脳内から危険信号が発せられる。そんな危険なことしたくない。まして、素人がそんなことできるはずがない。
俺は口をポカン、と開けたまま頭を左右にぶんぶんと振った。


「だっだめですよそんなの!いくら命があったってたりないですよ?!」
「大丈夫だよ。」


いくらこっちが青い顔をしようが何しようが彼は何のその。挙げ句の果てには俺の頭をぽんぽん、と撫でると「見てて。」とさっきからギラギラした目でこちらを見てくるおばちゃんたち、基、『今を生きる戦国武将』たちの中へと向かっていった。


「だめですってば―――」


俺の叫び声も空しく彼の背中は颯爽と戦国武将たちの中へ消えていった。
このあと起こることなんてもう容易に想像がつく。あの中へ入っていって助かった素人なんて一人もいないのに。
耳を塞ぎ、目を強く瞑った。
瞬間だった。
殺気だった卵売り場に突如響く凛とした声。


「僕はここを通りたいんだ。」


彼だった。


「僕が通りたいと言ったら、道を開ける。そんなの、常識だろう?」


ザワッと売り場前がざわついた。
な、な、な、


「何言ってんの、あの人…」


絶賛殺気立ちまくりの戦国武将たちを前にあの物言い。なんて命知らずなんだ。そして、もちろん、突然現れた青年にあんなことを言われて黙っているはずがない戦国武将たち。物凄い勢いで怖いもの知らずの彼を罵倒しはじめた。


「なんだあんたは!」
「ここは戦場だよ!そんなこと通用するわけないでしょ!」
「そもそもあんたの方が後に来たのになんであたしたちが譲らなきゃならないんだい!」


最もすぎるおばちゃんたちの言い種。さすがの俺もそれには頷くことしかできない。だけど、それでも彼はどこまでいっても彼だった。


「僕がいるところでは、僕がルールだよ。」


冷たい声でそう言い放ち、ギラ、と彼の青い流し目が周りのおばちゃんたちをきつく睨み付けた。
その瞬間、遠くからこの謎のやり取りを見ていた俺まで背筋に冷たいものが走った。
それはおばちゃんたちも同じらしく、屈強なおばちゃんたちは皆、クッと悔しそうに左右に一歩引き彼の前に一本の道を開いた。


「ふうん。分かってるじゃないか。」


そして、満足げに頷く彼。
なんだこの状況は。
謎のやり取りを目の前に呆然としている俺は彼のさっきの冷たい声とはうってかわったいつもの楽しそうな声でハッと我に返った。


「おーい!ほらっ!一番前来れたよ!」
「えっ」
「ほらほら、早くー!時間になっちゃうよー!」
「えっ、あ、はいっ」


急いで最前列まで行くと同時に、店員さんが「特売セール始め!」と叫んだ。





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