どうしてこうなったのだろう。
俺は隣でニコニコ笑いながらのんびり歩く彼を見て溜め息吐いた。
ついさっき彼から言われた「それ、僕も行っても良い?」という言葉が脳内をループする。訳の分からない言葉について疲れきっていた体は考えることをやめ、時間もないので流れで「いいですよ。」と答えてしまった自分が憎い。


「あ、あの、もうちょっと早く歩かないと特売に間に合わないんですけど…」
「あ、見て見て。あの雲アイスクリームみたい。」
「…はあ。」


本当はもう少し早く歩く所かダッシュしたいくらいなんですけど、と胸の中で毒づく。腕時計に視線を落とす。短い針はもうすでに6の数字を示していた。もう、間に合わない。特売自体には間に合うけれど、卵はもうゲットできそうにない。
それなのにこの人は。何があの雲アイスクリームみたいだよ。確かにアイスクリームみたいだけどさ。でも今はそんなのんびり歩いている時間は無いんですよ?そもそもアイスクリームだって卵が無くちゃ作れないんですよ?知ってますか?
散々心内で騒いでみるが、当の本人に届くはずもなく呑気にまだ空を見上げている。
俺は、二度目の溜め息を吐いた。


「わあ、凄いなあ。」
「…あれが特売セール前の三角スーパー特設卵売り場です。」
「トクバイって、戦いか何かなのかい?」
「……………まあ」


卵ゲットはもう無理だろうけど一応三角スーパーに来てみた。案の定、卵売り場の前は殺気だっているおばちゃんたちでいっぱいだった。この中を通って最前線に行くのはひよっこの俺からしたら死ににいくようなものだ。しかもそんな日に限ってお荷物が引っ付いてるし。


「今日は卵が安い日なんです。でも、多分、もう買えないと思うので、怪我しない内に避難しましょう。」


俺がそう言いながら、彼の服を引っ張ると彼は空を見上げていた時と同じ表情で「どうして?」と聞いてきた。
どうして、って。そう言い返そうとしたら、被せるように彼は口を開いた。


「通れないのなら、通してもらえばいいんだよ。」


ギラッ、と周りから一斉に殺気が俺らに向けられた。気がする。





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