見上げた先にあったのはまだ記憶に新しい顔だった。新しいと言っても、記憶の隅の方だが。それでも覚えていたのはこの端正な顔だからだろう。
夕暮れでも変わらず金髪はさらさらと綺麗で、透き通った青は真っ直ぐに俺を捉えている。
朝、ぶつかった綺麗な彼が驚いた顔で俺を見つめていた。


「すいません。何度もぶつか、…うわ」


ペコリと下げた頭がそのままグイっと持ち上げられた。
今度は俺が驚いたように彼の顔を凝視する。すると、彼は驚いていた表情を一辺させ、パアッと明るい笑顔を浮かべた。


「君、朝の子?」
「え、はい、多分…」
「なんてことだ。」


彼は俺の頭を持ち上げていた片方の手を自らの頭に乗せ、眉間に皺を寄せた。と、思ったら突然俺の手を握り、何故かは分からないが得意気な顔をした。


「正に、運命だよ」
「はあ?」


訳の分からない言葉に俺はついつい顔を歪める。
それもそうだろう。見知らぬ人間に突然ドヤ顔で運命だよ、なんて言われたら誰だって戸惑う。


「やっぱり僕たちは運命の赤い糸で結ばれていたんだよ。ところで君名前は?」
「ウンメイノアカイイト?」


聞いたことはあるような気はするけれど聞き慣れない言葉を復唱する。
すると、彼はニッコリ笑ったまま首を傾げた。


「ウンメイノアカイイトさん?」
「は?」


何となく会話が成り立っていないような気がするけど、まあいっか。


「あの、俺、これから特売に行かなきゃならないんで、手、離してもらっていいですか?」


きっとこの人は日本に来たばかりであまり日本のことが分からないんだろう。困っている人には優しくしなくちゃダメだと親に口を酸っぱくなるほど言われたが、今はそんなことをしている暇はない。俺には今は何よりも優先させなくちゃいけない特売が待っているのだから。
無遠慮に握られている両手をブンブン振ると、彼も楽しそうに両手をブンブン振った。そして、その子供のような笑みを浮かべながら衝撃的な言葉を放った。


「それ、僕も行っても良い?」


俺もよく遠慮を知らないと言われるけれど、この人はそれ以上に遠慮を知らないみたいだ。

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