ぱたぱたぱたと足音が1階から聞こえてくる。ああ、この可愛らしい足音はきっと。僕は連日の不眠の所為で気だるい体をゆっくりと起こした。本当は君が僕がいつでも寝れるようにって毎日ふかふかにしておいてくれているこのベッドで眠っていたいんだけれどね。僕が一番元気になれる源は、ふかふかの布団でもなくて君だから。本と原稿用紙で溢れかえっている僕の汚い部屋から重い体を無理矢理引きずり出した。すると、下の方から良い匂いが僕の鼻を浸く。ああ、この匂いは僕の大好きなあまーい玉子焼きだ。なんて優しいんだ君は。仕事で疲れているであろう僕を思って作ってくれたんだね。あまりの感動に視界がジワリと歪んだ。君の暖かい優しさのお陰で僕の疲れはこの通りひとっ飛びさ!待っててね、今行くよ!今行くから!僕は涙を拭き取り、急いで階段を駆け降り、君が待っている部屋の扉を勢いよく開けた。
「朱流!!」
「…父さん、俺、学校行ってくるから。あ、玉子焼きあるから勝手に食べて。あと仕事終わったんなら部屋の掃除よろしく。えー、とそれから今日三角スーパーで特売あるから遅くなるかも。だから、ご飯炊いておいてね。じゃ。」
 可愛い可愛い僕の息子の朱流ちゃんを抱きしめようとしたのだけど、抱きしめたのはただの空気だった。全く昔は朱流ちゃんの方から抱きついてきてくれたのに。恥ずかしがらなくてもいいんだよ、父さんは恥ずかしくないからね。いつでも父さんの胸は朱流ちゃんのために半分開けておくから。もう半分は千代子さんのだからダメだけど。
「行ってらっしゃい、朱流ちゃん。」
 玄関から足音が遠退いて行く。さあてと、僕は朱流ちゃん特製の玉子焼きでも食べようかな。朱流ちゃんも随分料理が上手くなったもんだ。最初の頃は僕が作っていたのにもうその必要もなくなった。つまり、その分朱流ちゃんには苦労をかけた、ということか。
 ぱく、と甘い玉子焼きを口に含んだ。段々千代子さんの味に似てきているなあ。
「朱流ちゃんももう高校生だもんねえ」
 今日も朱流ちゃんにとって幸せな日になりますように。
 それから、変な虫がつきませんように。
「今日は何しようかなー」





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