01



 徐々に太陽の光が眩しく僕ら、鷹盟(おうめい)高等学校の生徒たちを照らしはじめた頃。僕、田崎美月はお昼休みで賑わう廊下を一人パタパタと走っていた。
(やばい、やばい!!)
 前を立ち塞がるクラスメイト達を小柄な体でひょいひょいと交わしていきながら、漸くお目当ての場所が見えてきた。
 売店だ。
(もうすぐっ)
 ここ、鷹盟高校は由緒は別に正しくはない男子校だ。そのため、売店や食堂での戦いは壮絶なものである。そんな男の戦場と化した売店は、身長160cmという悔しいけど小柄としか言いようのない僕にはそんな戦場で戦うような気質は備えてはいないためただの死に行くような場所でしかないのである。だから、こうしてお昼前の授業が終わって直ぐに売店に向かって走っているのだ。
「うぁ!!」
 しかし、やっぱり男子校。
 授業が終わって直ぐに売店に行くなどみんなお手の物。2、3年の先輩など売店で沢山並ぶパンを買い占めるなどもうプロの領域だ。勿論、今日も僕が売店でパンを手にするときにはほとんどのパンが売り切れており、残っているのはボロボロになったタマゴサンドと焼きそばパンだけだった。だけど、僕にとってはそれだけで充分だ。
 鷹盟売店で人気No.1のカレーパンよりも、新発売された牛カルビサンドよりも、僕が大好きなものがここにはいつも売れ残っているから。
「…えへへ…よかった。」
(まだ売れ残ってた。)
 僕が1番大好きなもの。
 それは。
 僕はちょこんと赤チェックのテーブルクロスの上に乗っている焦げ色の美味しそうなパンに手を伸ばした。
 こぼれ落ちそうなまでに大量に盛りつけられた蕎麦が美味しそうな焼きそばぱん
「おっ、あったあった。」
 と、その時。頭上からちょうどよく声変わりを迎えた低い声が聞こえた。僕は一瞬そんな声に肩を震わせ、頭上を見上げた。
「あれ、田崎じゃん。」
 僕がここの売店で1番好きなもの。
 それは、こぼれ落ちそうなまでに大量に盛りつけられた蕎麦が美味しそうな焼きそばぱん、を買う同じクラスメイトの前橋悠馬くんだ。
「あ、あ、あ、ゆっ悠馬くんっ。」
 僕の憧れの人、前橋悠馬くんはいつもここで売れ残った焼きそばぱんを買っていく。彼曰く、残り物には福があるのと一緒で売れ残りの焼きそばぱんの味はは格別らしい。僕はそんな彼に話し掛けられて耳まで真っ赤に染めながら頭上で笑っている悠馬くんを見上げた。
「お前もまた売店?」
「うっ、うん。悠馬くんっ、も?」
「おー。ってか、俺は毎日売店。」
 そう笑う悠馬くんのきらきらな笑顔。
 ああ、もうくらくらしてしまうよ。
「…あ、あと二つしか残ってねぇな、ぱん。田崎、お前どっち買う?」
「ぼ、僕? え、とえと…」
 そんなの決まってるじゃないか。
 僕はいつもこの売店で君を見ているんだよ?
 だから、君が好きなものくらい知ってる。
 僕は、真っ赤になった指を焼きそばぱんの横で貧相に並んでいるタマゴサンドを指差した。
「これ。」
「よっし、じゃあ俺は焼きそばぱんな。おばちゃん、これとこれ頂戴。」
「はいよ。一つ100円。」
「じゃ、200円で。」
「え?」
 僕は隣で売店のおばちゃんに200円を手渡す悠馬くんを見上げた。
おばちゃんは200円しっかり受け取ると毎度あり、と呟いた。
「…ゆ、悠馬くん?ぱん、二つ食べるの?」
 慌てて悠馬くんにそう聞くと又しても悠馬くんはニッコリ笑って言った。
「俺の奢り!!」
 ああ、もう本当に脳みそが溶けちゃいそう。
 僕はこんな男前な悠馬くんに一斉一大の恋をしています。



前 | 戻る

「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -