20



 悠馬くんの腕の中で僕はぼんやりと悠馬くんを見上げたいた。そして、ぼんやりとしたどこか夢見心地な頭でさっき悠馬くんに言われた言葉を思い返してみる。
『好きなのかな』
 そう困ったように笑う君の言葉を復唱する。
「好きなのかなって。悠馬くん。」
「うん?」
「僕が?」
「うん。田崎が。」
「だって、僕、男だよ?」
「俺だって男だよ。」
 悠馬くんはそう言うときょとんとした顔で僕を見た。
 いや、そうなんだけど。そうなんだけれども。未だに信じられない。だって、あの悠馬くんが僕のことを好きって言ってくれているなんて信じられる?しかも恋愛感情だなんて。入学式の日に悠馬くんに一目惚れしてそれからずっと悠馬くんに恋をしているけれどまさかそれが叶うなんて事は夢にも思っていなかった。もしかして本当にこれは夢かもしれない。だけど、今、僕を抱きしめている悠馬くんの腕は本物で、ということはこれは夢じゃない。本当に、悠馬くんは僕のことを好きって言ってくれた。
 涙がポロリと溢れた。
「た、田崎?どうした?」
「悠馬くん、」
 涙は次から次へと溢れ落ちる。悲しくはない優しい涙たち。
「本当に、僕でいいの?」
 ズビッと鼻を鳴らしながら悠馬くんにそう聞くと、悠馬くんも優しくにっこりと笑って僕の頭を撫でてくれた。
「うん。お前が良い。」
 ああ、なんて僕は幸福者なんだろう。
「田崎が好きだよ。」
 ぎゅう、と僕は悠馬くんの胸に顔を埋めた。

 桜舞う入学式。
 焼きそばパンを頬張る君に僕は恋に落ちた。
 どうして君のことを好きになったのかは分からない。ただ、素直に君に惹かれてしまったんだ。
 それから僕はずっと幸せだった。君のことを考えるだけで楽しくなって、君のことをちらりと視界にいれるだけで溶けてしまいそうになった。
 そして、一学期最後の日、あの日、僕の人生が変わったんだ。
 君と過ごす夏休みは僕にとって全て輝いていて、大切な大切な宝物になった。
 君のことが大好きだという僕のこの気持ちも僕の大切な宝物。
 ねえ、悠馬くん?
 僕は君が大好きだよ。どうしようもないくらい君が好き。君といると世界がこんなにも輝いて見える。

「悠馬くん」
「ん?」
 人も疎らになり始めたお祭り会場を僕らはゆっくり歩いていく。あんなにきらきら綺麗だった屋台の明かりもぽつりぽつりと消えていく。けれどその変わりに空には満天の星空が広がっていた。
「大好き。」
「うん、俺も好きだよ。」
「へへへ。これからも、よろしくね。」
「こちらこそ。」
 大好きな君とこれからもずっと一緒にいれますように。
 きらりと流れる流れ星に僕はそっとお願いした。




end


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