19



 目の前がパッと明るくなった。
「花火だ」
 ヒュー、ドーン。という音がして空に顔を向けるとそこには大輪の花が咲いていた。隣で悠馬くんも同じように空に浮かんだ花を見上げている。次から次へと上がってくる花火たちを僕たちはただ黙って見ていた。
「花火あんの、すっかり忘れてた。」
「僕も。」
「迷子だなんだでそれどころじゃ無かったしな。」
「う、それは、」
「あはははっ」
 次々に打ち上がる花火は大きかったり小さかったり赤だったり緑だったりと様々な姿を見せる。形、色は違えど花火は全部綺麗に見えた。きらきらきらきら、花ひらく花火。
「綺麗だね。」
「なあ。ここ穴場だな。誰もいないからよく見える。」
「ねえ。僕ら以外誰もいない。」
「田崎のお陰だな。」
 悠馬くんはそう言うと僕の方を向いた。
「へ、そんなことないよ!」
「あるよ。田崎が神社に来なかったらここが穴場だって知らなかったし、何よりも、あの日田崎が電話をくれなかったらこんな綺麗な花火を見ること出来なかった。」
 ぽん、と悠馬くんの手が頭に置かれる。
「ありがとう、田崎。」
 悠馬くんの、僕の大好きな悠馬くんの笑顔が僕に向けられる。真っ直ぐと僕だけを向いている。もしも、この笑顔が何にもない時だったらどうだっただろうか。そしたら、僕はこんなにもドキドキしなかったかな。花火があまりにも綺麗だから、おかしくなっちゃったのかな。ああ、どうしよう。これもあれも全部全部夏の所為だ。
 僕はぎゅう、と悠馬くんの右手を握った。
「ねえ、悠馬くん」
 遠くのアナウンスが最後の花火のカウントダウンを始めた。周りの人たちもアナウンスに合わせてカウントダウンを数え始める。
 10、9、8
 不思議とさっきよりは心臓もバクバクしていなかった。むしろ落ち着いている。真っ直ぐと悠馬くんをみられる。
 7、6、5、4
 最後の花火が打ち上げられるまであと僅か。カウントダウンの声も次第に大きくなっていく。
 さん
 息を大きく吸い込む。
 にい。
 改めて思う。
 僕は君が好きなんだと。
 こんなにも僕は君が好きなんだと思い知る。
 いち、
 ありがとう、と言う真っ直ぐな君の瞳があんなにも綺麗に見えるなんて。
 ゼロ
 ヒュー…ドー…ンと今まで一番大きな花火が打ち上げられた。
「好き。悠馬くん」
 その大きな、大きな花火に周りからは歓声やら感嘆の声が聞こえる。
「…えー、と、」
 悠馬くんは驚いた表情で僕を見ている。それも仕方無い。いきなり告白なんとされたら誰だって驚くだろう。それも同じクラスの同級生の男にだ。僕は悠馬くんの手を離し、「ごめんね」と言った。後悔はしていない。結果なんて最初から分かりきっている。は好きでいられただけで幸せだったのだから。それなのに悠馬くんと一緒に遊んだり、笑いあったり、色んなことをしてきたらどんどんと欲張りになってしまった。好きでいれるだけで良かったのに、いつの間にかにこの思いを伝えたくなってしまった。溢れて溢れて仕方無いこの気持ちを知ってもらいたいと思ってしまった。
 僕の気持ちを彼が知ったら僕らの関係は終わってしまうと最初から知っていたのにも関わらずに。
 だから、これでいいのだ。思いを伝えられただけで充分幸せだ。
「ありがとう、悠馬くん。」
 離れた手を下げようと力を抜いた瞬間、僕の右手は重力に逆らうように上へと持ち上げられた。
「ちょっと待って田崎。え?あれ、今の好きって、友達として?それとも、え、恋愛、として…?」
 悠馬くんは戸惑ったように僕を見つめる。
「あー、うん、と、恋愛、として、かな」
 苦笑しながらそう答えると悠馬くんはポカーンとした。
「まじ?」
「うん…あの、ごめんね」
「うそ」
「あの、悠馬くん」
 全部話そうと思って呆然とする悠馬くんを見上げた瞬間、気付いたら悠馬くんの匂いに包まれていた。
「やばい、かも」
「へっ」
 何が起こっているのか自分でも分からない。ただぎゅう、と悠馬くんに抱きしめられている。
「うわあ、あー…」
「ゆ、ゆゆゆゆ悠馬くん?え、えっ何これ」
「………………、…………すっげえ嬉しい、かも」
「ゆ、悠馬くん?」
 ぷはっと顔をあげ、悠馬くんを見た時、僕は自分の目を疑った。
「…ゆーま、くん?」
 見上げた先の悠馬くんの顔は真っ赤に染まっていた。
「なんか、全然分かんないんだけど、田崎に好きって言われて、俺、今、すげえ嬉しい。」
「うん…」
「これって、俺も田崎の事、好きなの、かなあ」
 悠馬くんはそう言うと困ったような、照れているような笑顔を僕に見せてくれた。
「…その笑顔は、初めて見た…」



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