18



「やっと、見つけた」
 悠馬くんはそう呟いてから僕の大好きな笑顔を見せてくれた。
「悠馬くん…ありがとう」
 じわりと引っ込んだ筈の涙がまた溢れ出てくる。悠馬くんはポロポロと涙を溢す僕の頭を黙って撫でてくれた。
 ああ、やっぱり、僕は悠馬くんが大好きだ。誰よりも悠馬くんが好きなんだよ。その大きな手のひらも、優しい目も、太陽みたいに眩しいその笑顔も全部全部いとおしくって堪らない。僕は君が大好きで苦しくなるんだよ、悠馬くん。
 僕はこの夏祭りで自分の思いを伝えようとして決心したことを思い返した。あの日、悠馬くんに電話をした時からずっと決めていたのだ。悠馬くんに告白することを。僕はぎゅう、と自分の手のひらを握りしめた。
「あのね、悠馬くん」
「あのさ、田崎」
 僕が悠馬くんの方を向いたのと同時に、悠馬くんも僕を見た。
「へっ?!」
「あ、あれ?」
 不意打ちの出来事にお互い目を丸くして見つめ合う。そのあまりの滑稽さに僕も悠馬くんもぷっと吹き出してしまった。
「あはははっハモったねえ」
「はははっなんだ今の。」
 僕ら以外誰もいない神社には僕らだけの笑い声が響く。遠くからは提灯の淡い灯りと太鼓の音が聞こえてきた。それはまるで、僕たちだけ切り離されてしまったようだった。だけど、今はそれが心地好い。悠馬くんと二人きりでこうして笑い合えるだけで楽しい。いつまでもこうしていたいと思った。
 僕らはひとしきり笑った後、悠馬くんが「それで、田崎はどうしたの?」と僕の顔を覗き込んできた。その仕草にもどぎまぎしたが、僕はさっき自分が悠馬くんの名前を呼んだ理由を思い出して体を強ばらせた。しかし、笑い終えた後雰囲気と告白しようとしていた雰囲気の違いに何となく物怖じしてしまい、「僕は、後ででいいよ。悠馬くんこそどうしたの?」と変な汗をかきながら聞いた。すると、悠馬くんも「あー、うん」と恥ずかしそうに頬をかきながら口を開いた。
「その、俺こそごめんな。田崎の事、置いてきぼりにして。射的に興奮しちゃって。後ろ振り返ったら田崎いなくて。ほんと、ごめん。」
 悠馬くんはそう言うとぺこりと頭を下げた。
「そんなことないよっ!僕だって、また体調崩しちゃったし…」
「ううん。田崎が悪いんじゃないから。それに、俺、なんつうか、田崎がいなくて、めちゃくちゃパニクって、すっげえ不安になった。」
「…悠馬くんが?」
 伏し目がちに僕を見てくる悠馬くんを僕はきょとんとしながら見つめる。
 悠馬くんが?あの悠馬くんが不安になった?僕が、いなくて?
「俺だって不安にぐらいなるよ。」
「で、でも僕がいなくなって?」
 どきどきが蘇ってくる。
 嘘。僕がいなくなって不安になったって、悠馬くん。それって、それって。
「あたりまえだろ。」
「え、なんで。」
「なんで?…なんでだろ。ってか田崎顔赤いぞ。」
 悠馬くんを見つめる顔がどんどんどんどん熱を持っていく。胸はばっくんばっくんいっているし、頭もくらくらしてきて今にも煙が出そうなくらい。
 だって、だってそれって、悠馬くんの中で僕の存在が。
 くらくらする頭で僕は悠馬くんを見つめた。そして、もう一度ぎゅっと自分の手を握りしめる。心臓は今にも飛び出しそう。
 悠馬くんは黙り込んでしまった僕に不思議そうに「そういえば、田崎は何?」と聞いてきた。
「あっ、僕?えっと、僕は、あの、その」
 あれほど賑やかだったお祭りの音は今はもう全く聞こえなくなっていた。変わりにどくんどくんと心臓の音だけが鳴り響いている。言わなくちゃ、言わなくちゃ、頭の中はそれだけがぐるぐると回っている。
 言わなくちゃ。
「あのねっ悠馬くんっ」
 僕は悠馬くんの事が好きです。
 目の前がパッと明るくなった。



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