15



 机の上に堂々と置かれた宿題の山は一昨日とあまり姿を変えずにどっかりとそこに座っている。結局、綿密に立てた計画は三分の一もこなす事が出来ずに3日目でぴったりとその役目を終わらすことになった。そんな挫折を表している真っ白な計画表の中はに一際目立つように赤い大きな花丸が凛々と咲いており、隣には可愛らしい文字で『花火大会!!』と書いてある。
 僕は今日のために買った服を来て姿見の前に立った。すぅと大きく息を吸ってゆっくり吐く。今日だけでこの動作を何回行っただろう。深呼吸をして興奮した身体を抑えようとしているのだが効き目がないみたいだ。何度空気を吸ったり吐いたりしても心臓はどっくんどっくんうるさいし、熱を持った顔は冷めないらしい。始まる前からこんな状況で大丈夫なのかと我ながら不安になる。


「海の二の舞にならないようにしないと。」


 そう呟いて思い出すのは、バスの中の気持ち悪さと苦々しい思い出だ。僕はそれらを断ち切ろうとぱんっと自分の熱い頬を叩いた。少しは落ち着いた気もしなくはない。今日こそは失敗する訳にはいかない。なぜなら、今日は悠馬くんと夏祭りに行くのだから。
 僕は自分に言い聞かせるように「よし、」と呟いた。時計を見ると約束の時間の30分前を指している。再度、姿見に写った自分の姿を確認して僕は部屋を後にした。


「じゃあ、行ってくるね。」


 鼻緒に足を通し、くるりと振り向くと後ろではお姉ちゃん達が見送りに来てくれていた。


「おー。楽しんでこいよ!」
「私たちも後から行くからねえ」
「押してだめなら、引いてみろ。」


 僕はそれぞれに返事をして玄関の扉を開けた。8月の生ぬるい風が頬を撫でては一面オレンジに染まった空へと消えて行く。一歩踏み出すとからん、と優しい木の音が耳をついた。ぎゅっと手のひらを握りしめる。未だに僕の臆病な心臓はドキドキしているけど多分平気だ。ちょっぴり不安だけど、それ以上に今僕はわくわくしているから。僕は夏の終わりが運んできた風を感じながら彼の待つ場所へと足を急がせた。
 遠くの方からは懐かしい祭り囃子の音色と下駄のからんころんという音が聞こえてくる。


「…急がなきゃ」


 今日、僕は決めたんだ。
 一つの決心をした。
 オレンジ色はいつの間にかに薄い青へと姿を変えあちらこちらにぽつんぽつんと星を散らばし始めた。
 もうすぐ、お祭りが始まる。



戻る

人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -