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 海に行ってから数日が経ちました。
 僕、田崎美月はというと。
「だぁああ―っ!宿題が終わんないよーっっ!!」
 連日溜まりにたまった宿題を片付けるのに大忙しです。中学生の頃だって夏休みの宿題を片付けるのにてこずっていたのに、どうして高校生になったら更に量が増えるかな。2倍、3倍っていう増え方じゃない気がする。たった1年で倍以上の宿題を終わらせる程、僕らは出来た人間じゃないぞ。いくら先生たちも昔苛められたからってあんまりだ。鬼畜。ばーかばーか。
僕は目の前に積まれた宿題を見上げて何十回目かの溜め息を溢した。これ、本当に終わるのかなあとどこか他人事。ごろんと見飽きた勉強机に突っ伏し、静かに目を閉じた。
 目を閉じれば今でも波の音が鼓膜を小さく揺らし、綺麗な赤い海が脳裏に浮かび上がってくる。
「海、楽しかったなあ」
 海に行った日から1週間も経ったのにあの日の楽しかった思い出が今でも鮮明に思い出せるのはそれくらい僕にとって特別な1日になったからかな。綺麗でそれでいて少し悲しい思い出。思い出すとじんわりと気持ちいい暑さと胸がちくんと痛む不思議な感覚。忘れたくない記憶。
 きっとこんな風に感じるのも全部悠馬くんのおかげだ。あの日を境に僕の悠馬くんへの思いが強くなった。今までは悠馬くんの事を考えると楽しくて、でも胸がきゅうってなってそれが幸せだって感じていたのだけど、今はちょっと違う。楽しくて、胸がきゅうってなって、泣きたくなる。どうしようもなく切なくなって、鼻の奥がつうんって痛くなるんだ。どうしてかな。悠馬くんの事大好きなのに、なんでこんなに切なくて苦しく感じるのかな。
「ゆーまくん…」
 小さく大好きな彼の名前を呟く。
 今、何してるのかな。
 僕と同じように宿題に追われてるのかな。それとも彼の事だから宿題なんてやらずにのんびり過ごしているのかな。アイスとか食べながら。
 ねえ、悠馬くん。
「会いたい、なあ…」
 夏休みが始まる前は悠馬くんに40日間会えなくなるのを覚悟していたはずなのに、今では1週間でも会えなくなると寂しく感じるだなんて。欲張りなのかな、僕って。
 そんな時、ふと海で見た悠馬くんの顔が浮かんだ。
 『ほら、やっぱり、笑ってた方が良いよ。』と笑った悠馬くんの顔が。
「笑ってた方が、か。」
 いつでも僕を笑わしてくれるのは他の誰でもなく君じゃないか。
 僕は傍に転がってるあまり使ってない携帯電話を握りしめた。
 ねえ、ねえ神様?
 もう少しだけ、あと、少しだけ。
 欲張りになってもいいですか?
 慣れない手つきで開いた君の電話番号。そっと通話ボタンを押す。プルルル、プルルルという無機質な機械音が余計に僕の心拍数をあげた。
 プッ、と機械音が消える。
 また、胸がきゅうってなって、泣きたくなってしまうよ。
 君が好きで、好きでたまらない。
「もしもし?」



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