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「いてて…」
「日焼け痛むん?」
「うん。しょうくんは?焼けた?」
「真っ黒!」
「ほんとだあ」
 日焼け止めを塗っていたにも関わらず炎天下に晒された肌はヒリヒリ痛い。海水パンツをはいていた部分とはいていない部分の肌の違いを見せながら翔平くんは楽しそうに笑っている。僕もそんな彼の姿を見ながらくすくすと笑いを溢した。人も疎らになってきた海岸はゆっくり沈む夕日に赤く照らされてキラキラ光っている。さっきまで遊んでいた青い海のもうひとつの顔を見ている気がした。僕はそんな海を見ながら一人目を細める。夕日に反射した水面が眩しい。
 もうひとつの顔。
 この海だってくるくる表情を変える。
 青い海、赤い海、透明の海。
 それらの海はいつだって見れる訳ではない。その時、その時に見れる海の色は違う。だからこそタイミングが必要なんだ。そのタイミングを逃してはいけない。流れるままに、見るタイミングが来るのを待たなくてはいけない。
 それなのに、僕は。
 僕は無理矢理にもうひとつの顔を見てしまったんだ。優しい悠馬くんの弱い部分を。
「お待たせ」
 後ろからかけられた声にハッとして振り替えるとそこには着替えを済ました悠馬くんが立っていた。
「おっそいねんー。」
「ごめんってば。そんなに遅かったか?田崎。」
「うえっ?!あっ全然!」
 突然話しかけられてびっくりする。さっきあんなこと考えていた所為かまともに悠馬くんの顔が見れない。顔を背けようと咄嗟に目線を向けた先。それは、すっかり表情を変えて真っ赤に染まったキラキラ輝く海だった。
「うっ海、海、見てたから。」
「海?」
「うおーっすっげえ!」
「え?…うわ、何これ。」
「ね」
 翔平くんが叫んだのと同時に悠馬くんも海に目を向けた。目の前に広がるクリアな赤。所々夕日に反射した光がまるで海に眠る財宝のようにキラキラ光って見える。その上に真っ直ぐ伸びる水平線。そして燃え盛るようにそこにある太陽。ただ、ただ目の前に広がる景色に僕らは圧倒されていた。こんなにも綺麗な景色があるのかと。燃え盛るような赤が静かに僕らを包み込んでいった。
「すっげえな」
「真っ赤っ赤」
「ワンダホー海!」
「なんだそれ。」
「あっははっ!ビューティホー海ーっ!」
「なんや美月ちゃんもええ感じやないかい!」
「だって綺麗なんだもん。なんか全部全部赤く染まってるみたい。」
「…良いもの見れたな。」
「そうやなー。…お、バス来たで。ナイスタイミングー」
 プシューと後ろからバスが停まる音が聞こえる。行きと同じバスなのにエンジン音がこんなにも悲しく聞こえるのはなぜだろう。まだ帰りたくないと思ってしまうのはなんでだろう。何か心に引っ掛かってる気がするのはどうしてだろう。
「田崎ー?行くぞー!」
 遠くの方から悠馬くんに呼ばれて振り返る。
「今行くー!」
 最後に見た海はとてつもなく綺麗でいて、そして、とてつもなく悲しかった。



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