08



 バスに乗り込んでから20分くらいが経ったところか。窓の外の景色は僕らが住んでいる町並みとは随分と変わっていた。海が近いからなのか、都市部のような賑わいはなくどこかゆったりとした下町の空気がそこには流れている。悠馬くんと翔平くんは二人でずっと他愛ない会話を続けており、たまに相槌を打つだけの僕に話を振ったりなどしてくれていた。とは言っても翔平くんがずっと話続けているから、悠馬くんも僕と同じく相槌を打っているだけなんだけど。
「せやからなー今度駅前のカフェ行こうやー」
「あー、いいなー。行きたいな。な?田崎」
「そーだねぇ…うん…行きたい、な…」
「そやなー!美月ちゃんも一緒に…って、美月ちゃん、顔真っ青やで?!」
 さっきまでにこにこ笑いながら話していた翔平くんの顔が僕を見た途端に驚きの表情に変わる。僕の顔が、真っ青?そんな、朝までは何ともなかったのに。ああ、でも確かにさっきからなんだか気持ち悪くて頭もグラグラ、グルグルする、かも。僕を心配そうに見つめる翔平くんの顔もクラクラしてきた。
「バス酔いか…?大丈夫か、田崎」
 気持ち悪さが最高潮に達しかけた瞬間、僕のおでこにひんやり冷たいものが触れた。あ、気持ち良い。
「ゆう、まくん…」
 朦朧とした意識の中、冷たいものの正体を見ようと上を見上げたらそこには僕のおでこに自分の手のひらを当てている悠馬くんの姿があった。悠馬くんの大きな手は僕のおでこをすっぽり収めていて、ひんやり冷たくて気持ちが良い。僕の子供みたいなちっちゃい手とは大違いだ。僕はそんな大きな手に体を預け、ゆっくりと目を閉じた。
「美月ちゃん、昨日ちゃんと寝た?」
「…んぅ…寝て、ない…」
 昨日は悠馬くんと海に行くのが緊張すぎて全く寝れてなかったなあ、とぼんやり考える。ただでさえ乗り物酔いをしやすいのに更に寝不足だなんて体調崩すのも当たり前だ。ああ、どこまでいっても情けないなあ、僕。こうやってまた悠馬くんや翔平くんに迷惑かけちゃった。折角誘ってくれたのに嫌な思い出作らせちゃった。僕なんかいない方が二人は楽しめただろうに。僕の所為で…。
 ツン、と鼻の奥が痛くなり、目頭が熱くなる。だけど、ここで泣いたらまた二人に迷惑かけるだけだ。僕は泣きたいのをグッと堪えた。
「寝ちゃいな、田崎」
「………ごめんね」
 悠馬くんは僕のおでこに乗せた手のひらをそのまま頭に持っていき、優しく撫でてくれた。乱暴だけど、優しいその手のひらの温度はどこか安心していつの間にかに僕はゆっくりと意識を手放していった。



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