06
ピピピピ… ピピピピ… ピピッ
けたたましく鳴り響く目覚まし時計の音をピタリと止める。窓の外に広がるのは真っ青な空と真っ白な雲、それからかんかん照りの太陽。絵に描いたような夏の日のいい天気だ。そう、遂にやってきたのだ。
「…やってきてしまった…」
待ちに待った海の日が。
本当だったら心から喜ぶはずだろう。きゃほーい!みたいな。遂にこの日がやってきた!うーれしいなあー!みたいな。もうウキウキのルンルンになるはずなのだろう。だが、実際の僕はそんなウキウキルンルン気分とは程遠く、目の下には真っ黒なくまを作り、目はうさぎのように真っ赤に充血としており、テンションはがた落ちの最悪。なぜこんな上記のイメージとは正反対のひどい有り様になってしまったかって?そんなの皆さんの予想通りですよ。緊張しすぎて一睡も出来なかったんです。
「…うう…ああー…」
寝ていないから頭はグルグルしてるし、緊張は緩む筈もなく酷くなるばかりだし。
ベッドから漏れる声という声は唸り声となり床に落ちていく。ああ、今日の海、大丈夫かなあ。そんな不安が胸を支配していく。何か悠馬くんに迷惑かけたらどうしようとか、嫌われたらどうしよう、とか。考え付くのはマイナスなイメージばっかり。いやいやでもあの悠馬くんと海に行けるだなんてこんなチャンスみすみすと逃して堪るもんですか!あーでもでも失敗しちゃったらっ!うーでも悠馬くんと海!!
「うーわああ!!!」
夜からこんな感じでずーっとプラスとマイナスの考えが頭の中を行ったり来たり。
ああ、もう!ここまできてぐだぐだしてどうすんのさ、ぼく!いい加減腹を括らなきゃ。
「男、田崎美月っ!いざ海へ!参る!!」
ギンギンに冴えた目をして、ぼくはそう大きく叫んだ。太陽もギラリと光り、なんだか応援してくれているみたいだ。
「水着入れた、タオルもおーけー、おー財布も、大丈夫っ。よっし、忘れ物はー、あっ、帽子帽子っと。忘れ物は大丈夫っだね!」
パンパンに膨れたカバンを担ぐように持ち、真っ白なキャップを頭に乗せる。
「気を付けろよなー!」
「流されないようにねぇ」
「溺れたら…死ぬ…よ」
お姉ちゃんたちに見送られながら玄関の扉を勢いよく開けた。むわっ、とアスファルトから立ち込める熱気に目眩しそうになるがそこもググッと堪える。遠くからセミの鳴き声も聞こえ、まさに夏日だ。
「行ってきますっ!」
こうして、ぼくの暑くて長い夏の一日が幕を開けたのであった。
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