05



「ゆ、悠馬、くん?」
『田崎か?ごめんな。突然電話なんかかけて。』
「うっううん!大丈夫!」
 受話器越しから聞こえる悠馬くんの声。いつもより近くで聞こえるその声に緊張しない訳がない。震える手を押さえ込みながら出ない声を絞り出す。頭は今にも沸騰しそうなくらいぐわんぐわん回っている。
『メールしようと思ったんだけど、電話の方が手っ取り早いかなーって思ってさ。』
「そ!そうだね!」
 そうだね!って!そうだね!って!返し方可笑しくない?でもこんな状況でちゃんと話せって言う方が間違ってるよね!だって無理だもん!緊張するし!
『うん。それで、海の日にちと時間と場所なんだけど』
「うぁい!ちょ、ちょっと待って!メモ取るから!」
 うわああああ!!!
 やってしまった!なんだうぁい!って!バカまるだしじゃん!バカだけど!バカまるだしじゃん!悠馬くんに変に思われてないかな?!もう思われたり?!やだよそんなの!まだ変な子って思われたくないよ!ってそんなことよりメモメモ!!!もう一人パニック状態だ。たかが電話、されど電話である。ああ、もう僕のライフゲージは電話が終わるまで持ってくれるかな。
「もし!もし!」
『ん、来た。え、とじゃあ行くぞ。日にちは7月…時間は10時に、……に集合。大丈夫か?』
 ギリギリ文字と読める字でメモを取り、大丈夫、と悠馬くんに告げる。これで一応用件は終わりだ。僕はほっと小さく胸を撫で下ろした。が、同時にもう終わりか、というあんなに慌てていたのにも関わらず淋しさが胸を過った。もう少し悠馬くんと話していたい。ちゃんと話せるかは別として、あとちょっとでいいから悠馬くんの声を聞いていたい。姿は見えなくてもいいから悠馬くんと同じものを共有していたい。
「あの、悠馬くん!」
 考えよりも先に体が動いていた。気付いたら悠馬くんを呼び止めていた。
『ん?』
 優しい悠馬くんの声が僕の耳をくすぐり、きゅうっと胸が小さくなる。そして、実感するんだ。僕は悠馬くんに恋してるんだって。
「あのっあのっあのね、う、海っ楽しもう、ね!」
 拙い言葉だけど少しでいいから悠馬くんに届くといいな。まだ好きとは言えないけれど、伝えられないけれど、いつか届けたい。
『…ははっそうだなー!楽しもうな!』
 受話器の向こうで悠馬くんの笑い声が聞こえる。
笑ってくれた。それだけで僕の頬はぽぽっと赤く染まる。
『田崎誘って良かった。お前とも仲良くなれたらな、ってずっと思ってたんだ。』
「え?」
 体温が一気にあがった気がする。
『だって、お前おもしれーもん。』
「え、」
『ははっ じゃ、3日後なー!じゃあな!』
 僕は最後の悠馬くんの言葉に呆然としながらこくん、と頷いた。電話はプッと切れ、ツーツーと特有の音が流れ始める。携帯がぼすんっとベッドの上に落っこちた。画面には『通話を終了しました』の文字と3分30秒の数字。たった3分半しか電話してなかったのか。なんて短い時間だったんだろうか。でも、今の僕にとってはずっとずっと長く感じていた。こんなちっぽけなものではなくてもっと大切なものになっていた。たった3分半がずっと大切になっていたんだ。携帯に続くように僕もベッドにダイブする。未だに頬は熱いままで手は汗をびっしょりと書いている。頭もちゃんと働いてないのかポワンとしている。
 はあ。
 今度は大きく溜め息をついてみる。既に0に近いライフゲージは3日後までちゃんと持っているのかな。楽しみすぎて0にならないようにしないと。



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