03



 キーンコーンカーンコーンというチャイムと共に一斉に生徒たちは教室を飛び出していった。僕も一人、持ち帰るものの整頓をしていつもより重い鞄を肩にかけ40日間の長い休みを迎えようとしていた。やっと馴染んできた窓際の席にも暫くお別れだ。
「じゃあね」
 そうぽつりと呟いて教室をあとにしようとした瞬間。
「あ、田崎」
「!!!」
 僕にとっては聞き慣れた声が僕を呼び止めた。ドキン、というよりはビクッといったほうがあってるかもしれない。体温急上昇、緊張MAX。自己主張の激しい心臓を押さえつけながら僕はゆっくり後ろを振り返った。
「ゆ、悠馬、くん」
「おー 今帰り?」
 変な顔してないかな。変な汗はだらだらかいているけど。悠馬くんは笑顔を浮かべながら僕に一歩、一歩と近づいてきた。僕は見えない何かに押し戻されるようにさよならを言ったばかりの席へと戻ってきてしまった。ただいま。
「う、うん!今、帰り」
「じゃあちょうど良かった。」
 悠馬くんはにこっと満面の笑みを浮かべながら口を開いた。
「さっき、俺のこと見てただろ?」
 僕終了のお知らせ。
 ピーーとスポーツでよく聞く試合終了のホイッスルの音が耳の奥で鳴り響いている。背中の太陽がジリジリと暑い。何せみかわからないがうるさいせみの鳴き声が聞こえる。下の方からはこれから始まる夏休みに心踊らせている楽しそうな会話があちらこちらに広がっていた。夏休みが始まったなあ。僕は終わったけど。終わりをむかえたけど。さよなら、僕の恋、ただいま、窓際くん。
「あ、あは、はは…」
 情けない笑い声しか出てこない。視界もうっすら霞んできた。あの時目があったのは嘘じゃなかった。でもあの時感じたものとは正反対だ。一人ではしゃいでばかみたい。
「その反応は見てた、ってことか?」
 悠馬くんの質問に僕は無言で頷いた。
 はあ、終わった。何もかも。悠馬くんのことを好きっていう気持ちだけは大切にしたかったのにこうもあっさり無くなるだなんて。きっと気持ち悪いって言われるんだろうな。だってそりゃそうだ…男なんかに見られたら誰だって気持ち悪がるにきまってる
「ははっ素直なやつー!」
 きまってる…まで言った瞬間、ぽんっと肩に手を置かれた。何事かと思い悠馬くんの方に顔を向けると。あれ。気持ち悪がっているような顔はしてない。むしろさっきよりもっと笑顔が眩しいくらいだ。
「悠馬、」
「一緒に遊びたかったんだろー?」
 星が僕の頭にコツンとぶつかった。
「え、?」
「田崎、耳いいんだな!俺らが海行く話してたときガン見だったぜー」
「え、え、」
 悠馬くんは、あの時僕が悠馬くんを見ていたのを僕が一緒に海に行きたがってるって思っているわけ?なんだかこっちまで混乱してくる。
「別にいいぜ、俺らは。一人増えるくらいなんてことないし」
「あ、え、あの」
 悠馬くんは一人慌てる僕に気づきもせずペラペラと話を続ける。
 そして、
「一緒に、行こうぜ!海!」
 差し出された手。
「…」
 ああ、窓際くん。
 前言撤回してもいいかな。
 ただいま、じゃなくて。
「うっ、うん!!」
 いってきます。



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