.*とめこ様から☆二周年祝*.
プレシャスハート


放課後、忘れ物を取りに教室に戻ると、クラスメイトのテンプルが腕枕をして寝ていた。夕日を浴びているからか、彼の髪はいつもの燃えあがるような赤ではなく、いつもより柔らかい色合いをみせていて、思わず見とれてしまった。


「(きれい…)」


できることならもっと近くで見たい。
だけど不用意に近づいて、もしテンプルを起こしてしまったら。
そんな不安が足を止めた。

彼の寝起きの悪さは有名な話で、志摩と宇井が起きた直後のテンプルに追いかけられるのはいつものこと。遠くから見ているだけでも怖かったのに、実際に追いかけられたらなんて考えただけでも恐ろしい。

怖いけど見てみたい。

最終的には恐怖より誘惑が勝って、起こさないようにそっと慎重に近づく。一歩近づくごとに彼の様子を伺い、机一つ分の距離でも乱れない寝息から完全に寝ているのだと安心できた。


「(あれ?イヤホン?)」


テンプルの赤い髪に、黒いイヤホンが埋もれているのを見つけた。
かろうじて引っかかっている状態のそれを辿ると、握りしめている携帯プレーヤーに辿りついて、更にもう片方のイヤホンを探すと、そっちは耳から外れて腕の下に。


「(何の歌を聴いているんだろ)」


流石にイヤホンから流れる音楽までは聞こえてこない。疑問は新たな好奇心を呼んで、抑えきれずに外れたイヤホンにそっと耳を近づけた。
悪い事をしているわけではないが、段々鼓動が早くなる。

お願いだから起きないで。

祈りながら流れる曲に神経を集中するも、聞き覚えのない曲だった。今流行りのものではないし、以前ヒットした曲でもない。
ひょっとしてテンプルだから、洋楽かもしれないと思ったけれど、聞こえるのは残念、日本語だ。


「(誰の曲だろう?)」


一通りの音楽は聞いているけれど、誰の曲か全く見当がつかなくて、疑問は増すばかり。ただ、ベースとドラムの音がヴォーカルの女の人の声と絶妙にマッチしているこの曲は、もっと聴きたくなる中毒性のある曲だ。


「(テンプル君ってこういう曲が好きなんだ)」


思わずクスリと笑ってしまうと、テンプルが僅かに動いた。
起こしてしまったと思った時にはもう遅くて、テンプルはもぞもぞと動くと腕の中から顔をだした。寝起きで頭がぼやけているらしく、目の焦点が定まっていない。

瞬間、鬼の様な形相で志摩と宇井を追いかけるテンプルが思い浮かぶ。起こしてしまった私も同じ目にあうのだろうか。
怖くて声を出せずにいると、テンプルの視線がゆっくりと自分に向けられる。まだ目の焦点は定まっていないけど、自分の事は認識した筈だ。


「あ、れ…?今、何時?」

「ええっと…6時前だけど?」


てっきり怒鳴られるのかと思ったのに、今の時間を聞かれてなんて。拍子抜けしつつ答えると、テンプルは「もうそんな時間か」と丸まっていた背中を伸ばす。


「(あれ?なんだか不機嫌じゃない?)」


背中を伸ばしたテンプルは、机にかけていたスクールバッグに教科書を詰めて帰り支度を始めていて、やっぱりいつもより穏やかだ。
予想との違いに戸惑っていると、テンプルが「ん?」と顔をあげた。



「え、もしかして顔に痕残っている?」

「ううん。大丈夫」


テンプルの顔は少し赤いけど、服の皺などの痕は残っていない。大丈夫と言われて安心したテンプルだが、まだ見られていると感じて不思議そうに尋ねた。


「どうかした?」

「うーん…」


聞いてもいいかな?
思ったよりも機嫌が良いテンプルに、そんなことを考えてしまう。


「俺だって、普通に起こされれば不機嫌じゃないよ」

「え?」「気になっていたんだろ?俺の寝起きが悪くないこと」


そう言ったテンプルはこちらの疑問に気づいていた。当たりだろ?と笑う彼は、やはり寝起きが悪いとは思えない。
溜息をついたテンプルはおもむろに指を折って数え始めた。


「クラッカー、スターターピストル、爆竹、パーティーバズーカー…」

「?」


何のことを言っているのか解らない。他にも教科書、筆箱、辞書と今度は文房具が続き、テニスボールで終わるとテンプルは不機嫌そうに眉間に皺を寄せた。


「これ、全部遼と橙南が寝ている俺にやったいたずら。音の出るモンは交互に鳴らして、どっちが鳴らした時に俺が起きるか勝負だし、文房具は寝ている俺の頭に乗せて、どれだけ耐えられるか勝負しているんだよ」

「ええ!?」


寝ているテンプルでそんな勝負をしたら、起きた時が怖いに決まっている。わざわざ怒らせる為にやっているようなもので、どれだけ命知らずなんだと志摩と宇井に呆れると、テンプルは力強く頷く。


「普通に起こせばいいだろ?なのに、あの二人は俺のことしょっちゅうそうやって起こすんだ。切れて追いかけたくもなるさ」


寝起きの悪さはテンプルにあるのではなく、起こす側にあると主張するテンプルに、そういうことかと納得する。普通に起こせば、彼だって機嫌悪く人にあたらないのだ。
今回は、その志摩と宇井がいなくてよかったとテンプルは呟き、耳からイヤホンを外して携帯プレーヤーをポケットに入れたところでちょっと待った。


「ねぇ、それって誰の曲?」


最後のモヤモヤを晴らさないと気持ちが悪い。
テンプルは、ポケットの携帯プレーヤーを見せて「これ?」と尋ねた。


「聞いた事ない曲だから気になっちゃって」

「ああ、これは」

「誰の曲?」

あまりの喰いつきに、テンプルはプッと吹きだした。笑われたのが恥ずかしくて思わず視線を下げると、テンプルは「ごめん」と謝る。


「知り合いのバンドなんだ。いい曲だろ?」

「うん。音楽も素敵だけど、ヴォーカルの人の声が凄く綺麗。ずっと聴いていたい不思議な曲だね」

「あ、いたいた。ロッタ、帰るぞー」

「早く来ないとロッタの自転車、私が乗っちゃうよ」


二人きりだった教室に、元気な声が聞こえてきた。教室のドアを振り返ると、志摩と宇井が手招きをしていてテンプルは「今行く!」と答える。


「って言うか、橙南。俺の自転車なんだからお前が乗るなよ」

「えー。だって私、自転車ないし」

「だったら走ればいいじゃん」


運動部だろ?と言いたげなテンプルは、立ち上がる瞬間、持っていた携帯プレーヤーを押しつけるように渡した。反射的に受け取った携帯プレーヤーは、さっきの曲を流している。


「あ、あのテンプル君これ!」


受け取ってしまったものの、どうすればいいか戸惑っていると、テンプルは笑う。

「それ貸すよ」

「えっ、いいの?」

「ああ。その曲、気に入ったみたいだから貸すよ」


自分が好きな曲が誰かの好きな曲にもなって嬉しいのか、ご機嫌な口調のテンプルは、「じゃあな」と手をあげて、志摩と宇井に合流する。

教室の残ったのは自分一人だけ。
静まり返った教室は、夕日色に染まっている。
だから、少し顔が赤いと感じるのはそのせいだ。


「(また話せるといいな)」


きっと今日はこの曲をずっと聴いているだろうから、明日、テンプルにプレーヤーを返して、このバンドのことをもっと教えてもらおう。
他にどんな曲があるのか、ライブがあるならどこでやっているのかとか。

イヤホンをつけると、次の曲に移っていた。
これもいいけれど、やっぱりさっき聴いたのがいいと、ひとつ戻す。

テンプルと話せる明日を楽しみにして――





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《感謝御礼from*美砂》
atelier二周年のお祝いにリクエストで小説を書いていただきましたよぁぁぁぁ!!(*;∀;*)
今回のリクエストはですね。
浮気者の美砂が密かに気になっていた、ロッタくんをメインにしたお話ということで書いていただいたのです!(>ω<*)
もうホントどうしよう!これって恋!?(←何か言ってるw)
ロッタくん優しいじゃん!爽やかじゃん!可愛いじゃん!毛根が・・・美砂の毛根が消し飛ぶじゃん!(←黙れwww)
とある女の子目線ってのがまたイイですよ(*´ω`*)あれ自分に変換しちゃいますよね。ね。
いいなー!美砂もロッタくんの優しい寝起きに出会いたい!
しかもあの曲って一舞たちの曲ってことですよね?とめこ様の愛を感じました(*´`*)

お忙しい中、こんなに素敵なお話を本当にありがとうございました♪
大切に大切にします♪とめこ様大好きだー!!!(*ノ´▽`*)ノ


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