.*とめこ様から☆コラボレーション*.
本日晴天、テニス日和



日曜日の昼下がり、蓮と洋の双子は並んで歩いていた。


「蓮」

「……」

「れーん」

「……」

「ちょっと蓮ってば!」

「……」


洋が必死に話しかけても、蓮は見向きもしない。
さっきからずっとこうだ。蓮は、まるで洋が隣にいないかのように歩き続けるので、洋は眉に八の字を寄せる。

あーあ、ちょっとくらいこっちを向いてくれたっていいじゃん。

頭の後ろで手を組んで溜息をついていると、目の前に何かが転がってきた。黄色いボール…テニスボール?
コロコロと転がったボールは洋の足元で止まり、反射的に拾い上げると蓮にも見せた。


「これってテニスボールだよな?」

「それ以外の何に見えると言うんだ」


ごもっとも。
というより、ようやく口を開いたと思ったらあまりに辛辣な言葉じゃないか。もうちょっとコミュニケーションとろうよと嘆き半分でいると、声が聞こえてきた。


「すみませーん。こっちにテニスボールきませんでしたか?」


そう言ったのはオレンジ色の髪をした女子で、女子にしては少し高めの身長に、洋は一舞とどっちが高いのだろうと比べてしまう。


「これだろ」

「あ!蓮!」


洋が考えにふけった一瞬のうちに、蓮はテニスボールをその子に返した。拾ったのは自分なのにーと不貞腐れる洋を尻目に、その子が「ありがとー」と間延びした口調でお礼を言うと。


「おーい、橙南。ボールあったか?」


また誰か来た。
こうも次から次へと出てくるなんて、ある意味凄い?なんてことを洋が思っていると女子もとい橙南と呼ばれたその子は、左手に握ったテニスボールを見せた。


「うん。この人達が拾ってくれたおかげで」


橙南から蓮と洋を紹介されると、彼はニカッと歯を見せるように笑った。いかにもスポーツマンらしい笑い方だ。


「そっか。拾ってくれてありがとな」

「ただ拾っただけだ」


蓮の言葉はやっぱり素っ気なかったけど、橙南達がそれで気分を害した様子はないので洋はこっそり胸を撫で下ろす。
お礼を言われたんだからそんなに素っ気なくしなくても、もうちょっと、一舞に対する十分の一でも愛想すればいいのに。
でも、この素っ気なさがクールだと、女子の間で持て囃されているのだから人の感覚って本当に不思議だ。


「遼、早くコートに戻ろう。一舞ちゃんと由紀ちゃんが待っているよ」

「そうだな――って、どうかした?」


首を傾げる遼につられて橙南もそっち、蓮と洋を振り返る。
そして橙南も首を傾げた。蓮は眉間に深い皺を刻みこんでいて、洋はこれでもかと大きく見開いていたのだ。


「今、一舞と由紀って言っていたけど、それってもしかして橘一舞と沢田由紀?」


洋からの問いに、遼と橙南は不思議そうに顔を見合わせて、頷いた。

やっぱりか。







蓮と洋は遼と橙南に案内されて、テニスコートにやってきた。
運動公園の一角にあるそこにいたは、やっぱり二人がよく知る一舞と由紀がいて、一緒にいる栗色の男子は遼と橙南の友達だろう。長い髪の男子と赤髪の外国人がミニゲームをしているコート脇のベンチで、賑やかに談笑していた。


「おーい。ボールあったぞー!」


遼の呼びかけでベンチにいた三人がこちらを振り返り、コートに入っていた二人もラリーを止めた。そして、遼と橙南の後ろにいる蓮と洋を見つけた一舞が真っ先に声をかけた。


「蓮ちゃんと洋ちゃん。こんなところで珍しいね?」

「それはこっちの台詞だって。一舞達こそ、そんな格好でどうしたの?」


洋に言われて一舞は「これ?」と自分達の格好を見る。
二人共いつものプライベートとはまるで違うスポーティーな格好で、特に、運動が苦手な由紀に関しては真逆もいいところだ。由紀本人もそれを自覚しているのか――いやこの場合は別の理由か――顔が赤い。


「あ、あの、これは…今、体育でテニスをしているんです。テストで一舞ちゃんが私に付き合ってくれて…」


説明する由紀だが、蓮からの視線を意識しすぎて思うように言葉がでてこない。それでも必死に説明をする由紀に「かわいいなー」と思いながら一舞がバトンタッチした。


「次の授業でラリーを10回以上続けるテストがあるんだよ。で、その特訓中ってわけ」

「そうなんです…」

「そういう事か。テニスねー、そーいや俺達もやったっけ」


懐かしー、とラリーのテストに苦戦した一年前を振り返る洋。

運動神経が飛びぬけている一舞なら、テストも簡単にクリアできるに違いない。しかし由紀となれば話は別だ。
本人も運動は苦手だと自覚している程なのだ。ラリー10回どころか、ラケットにボールが当たるのすら危ぶまれる。

一舞と由紀の説明で二人がここにいる理由は解った。となると、次に気になるのはこっちだ。


「じゃーさ、あの人達は誰なの?」


素人の一舞、由紀とは違い、テニスシューズとテニスウェアで決めた向こうは明らかに玄人衆。コートに注目する。


「銀竹!ロッタ!今度こそ負けねーからな!」

「Not that easy!そう簡単にいくかっつーんだ!」

「ロッタの言うとおり。悪いけど、今度もこっちが勝たせてもらうぜ」

「フッフッフ、その言葉そっくりそのままお返ししますよ。橙南!」

「任せて氷雨!助っ人参上!!」

「ちょ!?橙南も入るのかよ!」

「二対三なんてずるいぞ!」

「「「勝負の世界はいつだってシビア(です)!!」」」


いつの間にかコートに入っていた五人はぎゃーぎゃー、わーわーとても賑やかで、あれではテニスをしているのか騒いでいるのかどっちか解らない。

三人プレーで有利かと思いきや、密度が高くなった分、動きに支障をきたしていた。それだけに留まらず、誰かがもう一球ボールを投入したおかげでプレーはめちゃくちゃもいいところ。
最終的には、ミスした責任を互いになすりつけて仲間割れに発展。テニスボールの代わりに飛び交う低レベルな言い争いを聞いて、蓮は「小学生か?」と呆れてしまった。


「蒼夏高校テニス部の皆さんだよ。あのメガネをかけているのが、部長の冬海君。この間、知り合ったばかりなんだけど、まさかこんなところで会うなんてね」


以前、冬海と会った時のことを思い出して一舞はクスリと笑う。彼女の中で、冬海の印象はテニスよりスイーツの方が強いのだ。
一舞の言葉に、由紀が補足する。


「私と一舞ちゃんがここに来た時には、もうあの人達が練習していたんですけど、一舞ちゃんが事情を話すと冬海さん達がそれなら教えようか?と親切に言ってくれたんです」

「あ、それじゃ俺達が拾ったボールって」


話の察しがついた洋が口走ると、由紀は恥ずかしそうに「私です…」と答えた。


「志摩さんとラリーをしていたんですけど、中々打ち返せないから思いっきり振ったらそれが大当りしちゃって、ボールがどこかに…」


自分の失態を話すのはとても恥ずかしい。最後の方は殆ど聞こえないくらいの声量だ。


「全く、鈍いにも程があるな」


呆れ果てて出た蓮の言葉に、由紀はぎゅっと手に力を入れる。泣く一歩手前ですといったその様子に、一舞が黙っている筈がない。
頑張っている由紀ちゃんに失礼ではないか。キッと蓮を睨みつけて、反論してやろうと思った時だ。


「おいおい、由紀ちゃんだって頑張っているんだからそんな事言うなよ」


やってきたのは銀竹。後ろで結った髪を揺れさせながら、険悪気味なムード漂う中に割って入ってきた彼は、由紀にテニスボールを渡す。受け取った由紀は、ボールと銀竹を交互に見る。


「あー!銀竹!なんでお前が由紀ちゃんとラリーしようとしてるんだよ!」


文句を叫ぶ量は、ズルイと言わなかったものの言葉の端端にその言葉が見てとれる。これには、銀竹もめんどくさそうに頭を掻く。


「あのなぁ、お前も由紀ちゃんとラリーしたいなら力加減くらい考えろよ。相手は初心者、それも女子なのに強い球ばかり打つから、由紀ちゃん力負けしてまともに返せなかっただろ」

「…………橙南は返せる」

「橙南と一般女子を比べるな!つーか、お前それ解って言っているだろ!」
留めの一言が効いて、遼はそれ以上口答えすることなく、大人しくベンチに座った。
かわいい女子とテニスができる折角の機会は、銀竹に取られて呆気なく終了。隣のロッタが髪を引っ張ったり突いてみたりと、ちょかいをかけても全く反応がない。これは相当、落ち込んでいる。


「遼も大人しくなった事だし、今度は俺と練習してみようか」

「は、はい」

「よし。遼とのラリーを見ていて思ったんだけど、由紀ちゃんはちゃんとボールを捕らえている。ただ、打つ時に脇が空くんだ。これじゃラリーは続かない」


はっきり言われて落ち込む由紀に、銀竹は「そこで」と話を続けた。


「今度はボールを脇に挟んだまま打とう。それで脇が空く、閉まるの感覚もちゃんと理解できるからな」

「はい!」

「由紀ちゃん、頑張って!」

「頑張れー」


一舞と洋の声援を笑顔で返すと、由紀はまたコートに入った。
銀竹は由紀が打ちやすいよう、同じ場所に緩い球を打つ。
最初は脇のボールを落としたり気を取られ過ぎたりしていたが、諦める由紀じゃない。徐々にラリーが続くようになってきて、見ている側も由紀の上達っぷりに、嬉しさが込み上げる。


「蓮君、洋君。由紀ちゃん凄いね。どんどん上達しているよ」

「ああ!由紀は努力家だからなー。蓮もそう思うだろ?」

「……」


無言イコール肯定の方程式。
洋と一舞は顔を見合わせると、どちらからともなく笑い合った。不機嫌そうに自分達を睨む蓮の視線は敢えて無視。


「なー、お前達もテニスできるんだろ?」


声をかけたのはテンプル。
その肩には落ち込んでいる遼の頭が乗っかっていて、鬱陶しいのと重いのが相まってか、ロッタの顔は笑いつつも、こめかみがひくついていた。


「わー…、遼君かなり落ち込んでるね」


いつもなら心配するであろう一舞も、この遼に関しては若干、引き気味に「大丈夫?」と気づかいを見せる。
一舞ちゃんは優しいね。だけどコイツにはそんな優しさ勿体ないから、との意味合いでロッタは手を横に振った。


「テニスすればすぐに治るから。悪いけど、一舞ちゃんは遼と組んでくれるかな?」

「うん、いいよ」

「ありがとう。あ、そっちの二人もテニスできるよな?」
そっちの二人とは言わずもがな蓮と洋のこと。ノリのいい洋は「もちろん!」と即答するも、蓮はあまり興味がない様子。
温度差を感じたロッタは小首を傾げる。


「テニスは嫌いか?」

「別に。だが、お前が入るなら俺までは入れないだろう」


遼と一舞、ロッタと洋。テニスはペアの競技だから、確かにこの場合だと蓮があぶれてしまう。ロッタとしては、さっき自分達がしていたように三対二でやってもいいんだけど、と考えていたのだが。


「それなら心配いらねぇぜ」


ラリーを終えて、銀竹と由紀がこちらにやってきた。


「由紀ちゃんとペア組めばいいだろ。由紀ちゃんもやるよな?」

「はい!」


自信を持って答える由紀。ボールのアドバイスと、練習相手になってくれた銀竹のおかげで最初よりはるかに上達していたのだ。
これならラリーのテストは絶対に合格できる。
一舞は嬉しさを抑えきれない。


「それじゃあ由紀ちゃんは蓮君とそっちのコートね。相手は?」

「俺と橙南」

「OK、銀竹君と橙南ちゃんで!蓮君、いいよね?」
「勝手にしろ」
嫌だと言ったところで、どうせ無理矢理させるつもりだろう。そう蓮が暗に言えば、正にそのつもりだった一舞はにんまりと笑った。


「よーっし!皆でテニスを楽しもーっ!」

「「「オーッ!!」」」









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《感謝御礼from*美砂》
リクエストでまたまた小説を書いていただきましたぁぁぁぁ!!(>∀<*)
今回はバンド部のあの子にテニスを教えていただきました!!羨ましい!!(>ω<*)
もうね、響くんの安定のイケメン具合いに美砂はメロメロですよ奥さん!(誰!)冬海くんとはまた違ったツボが刺激されるよね?ね?(←知らんがなw)
とめこ様☆お忙しい中本当にありがとうございました♪大切に大切にします♪


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