.*宝小様から☆コラボレーション*.
第127回(?)高二男子親睦会C


「やあ、ヤスくん。先日はどうも。こんなところで会うなんて、奇遇だね」

 アキラさんは男の僕でも見とれてしまうような、麗しく妖しげな笑みを浮かべながら、ヤスくんににじりよる。

「ああ、はい、先日は、ありがとうございました。あの、お願いですからそんなに近づかないでください」

 対するヤスくんも負けじと笑顔を浮かべ、じりじりと横へ逃げる。

 僕が座ってたら邪魔かな。ベンチから腰を上げると、その時初めて僕の存在に気づいたかのようにアキラさんが言った。

「おや、君は?」

「あ、はじめまして。萬屋 豹雅と申します。ヤスくんのクラスメイトです」

「へぇ。ヤスくんの学校のお友達かー」

 何故かヤスくんの腰に手を回しながら、アキラさんは頭のてっぺんから、足の先まで舐めるようにじっくりと僕を見た。

「君もなかなか可愛い顔してるね」

 アキラさんに褒められた。こんなカッコいい人に褒められた……褒められたはずなのに、何故か嬉しいや恥ずかしいよりも先に、背筋がぞくりと寒くなった。な、何で?

「いえいえ、僕なんかヤスくんのかっこよさに比べたら全然」

「うん、ヤスくんもいいよねー。でも君はヤスくんとはまた違った可愛さがあるよ。あ、どうぞ座って」

 そう言って、アキラさんは自分の隣のスペースをすすめてきた……どうしよう。

「豹雅くんにまで、手を出さないでください。それから、ヤスくんが泣きそうなので、とりあえず手を放してあげてください。広夢、何ぼさっとしてんの。アキラさんとヤスくんの間に入って。豹雅くんは俺の隣に座って」

 慎一くんがてきぱきと指示をしてくれて助かった。アキラさんから解放されたヤスくんも、ほっとため息をついている。間に入らされた広夢くんは所在なさげだし、アキラさんは広夢くんには全く興味なさそうだった。

「まず伺いますが、何故アキラさんがここにいらっしゃるんですか?」

 慎一くんの言葉は丁寧だけど、刺々しさが隠れてない。

「みんなで楽しく親睦会やるって聞いたからさ。今度、集まるときはまた呼んでねーってヤスくんに言っといたしね」

「ヤスくんから聞いたんですか?」

 ヤスくんは慌てて首を振り、アキラさんも「いいや」と答える。

「じゃあ、何故、今日・この時間・この場所で親睦会をやるって知っていたんですか?」

「アキラさんは何でも知っているんだよ」

 何故か、勝ち誇ったような笑みを浮かべるアキラさん。慎一くんは続けて、

「ヤスくんの携帯の番号・アドレス、そしてアルバイト先もご存じだそうですね。ヤスくんは教えてないって言っているし、俺も広夢もアキラさんなんかに教えるわけがない。それもアキラさんだからこそ知り得たわけですか?」

「そうだよ。てか、今、アキラさん『なんか』って、さりげなく失礼なこと言ったね」

「すみません。口が滑ってしまいました」

「なら仕方ないな」

 二人とも笑顔なのに、やりとりがなんか怖い……。

「ちょうどいいので、言わせてもらいますが、アキラさん、ちょっと自由すぎますよ。ヤスくんのことがお気に入りで、からかいたくて仕方ないのはわかりますが、もう少し自重してください」

「そーですよ! ヤスくん、アキラさんからの電話・メール攻撃が怖くて、若干ノイローゼ気味なんですから」

 ノイローゼは言い過ぎじゃないかな、と思ったけど、ヤスくんが否定しないのを見ると、あながち間違いでもないみたい。

「だって、ヤスくん、つれないんだもん」

 いい大人が、こんなカッコいい大人な男性が、『だもん』て言った。自分でもおかしいとは思うけど、何だか妙にその部分に、僕は感動を覚えた。

「相手が可愛い女の子ならともかく、アキラさんじゃつれるわけないでしょう」

「慎一、悪気はないのかもしれないけど、あんまり失言を繰り返すと、そのうち本当にお仕置きするよ?」

「うわぁ、アキラさんがお仕置きとか言うと、なんかすごい怖い! すごいえげつないことしそう!」

 広夢くん、どんなことを想像しているんだろう。

「そんな酷いことはしないよ。ただちょっと可愛がってあげるだけで」

「ヤスくんが青ざめてますので、そういう発言は控えてください。とにかく、ヤスくんのことが大事なら、もう少し彼の気持ちも考えてあげてください。ヤスくんが本当にノイローゼになったら、どうするつもりですか?」

「そーです、アキラさん。大人のアキラさんなら駆け引きっていうものも得意でしょう。押して駄目なときは、引くものです」

 何かいいたそうな顔をしていたヤスくんは、二人の言葉を聞いて頭を抱え、俯いてしまった。大丈夫かな?

「なんだか俺一人が悪者みたいになってるけど、俺の心を惑わすヤスくんの可愛さにも問題あると思わない?」

「そんなのアキラさんの勝手な言い分じゃないですか!」

「ていうか、まじめに話聞いてます?」

 「聞いてる聞いてる」と笑いながら答えるアキラさん。たぶん、や、ほぼ間違いなく、今の状況を面白がってるな。

「あの、僕からもお願いします」

 突然意見した僕に、アキラさん・慎一くん・広夢くん・ヤスくんまでもが、驚いたように目を向けてきた。

「ヤスくん、本当に最近元気がなくて、すごく心配してたんです。ヤスくんは悩んでたり困ったりしても、人を頼らず、自分で何でも解決しようとする人なんです。そんなヤスくんが、わざわざ慎一くんや広夢くんを呼び出してまで相談したくらいだから、相当参ってるんだと思うんです」

 アキラさんの目が細く歪められる。怒らせてしまったかと、一瞬怯んだけど、ここで負けるわけにはいかない。

「もちろん電話を受けても、メールが着ても返事をしなかったヤスくんも悪いし、はっきり嫌だと言わなかったのもいけないんですが、どうか、もう少し距離を置いて頂ければ……せめて一日の電話とメールの回数を減らして頂けませんか? 見てる方もなんだか辛くて……」

「……ふっ」

 黙って話を聞いていたアキラさんが、ここにきて急に声を上げて笑いだした。

「アキラさん、豹雅くんは真剣に話しているんですから笑わないでください」

「ああ、ごめん」

 と言いながらも、なかなか笑いは止まらない。ひとしきり笑い、ようやく落ち着いたのか、アキラさんは僕を見て言った。

「いや、すまないね。豹雅くんが真剣なのがおも……可愛くて、ついね」

 今、絶対、『おもしろくて』って言いかけた。

「まさかそんなにヤスくんを追いつめているとは思わなかったよ」

 アキラさんは身を乗り出し、広夢くんの隣に座るヤスくんに向かって言った。

「ごめんね、ヤスくん。不快な思いをさせて。もう、連絡しないから安心して」

「いえ、俺の方こそ、アキラさんに失礼なことしてしまって、ご気分害されましたよね……すみませんでした」

 ヤスくんの表情は少し強ばっていた。アキラさんはそれを見て、また笑った。

「そんな顔しなくても大丈夫だよ。怒っちゃいないし、俺も悪ふざけがすぎた。本当にごめんね」

 「ほら、やっぱりからかって遊んでたんだよ。この人ほんっとにどうしようもない」「てか、アキラさんが謝るって珍しいよな」なんて慎一くんと広夢くんがひそひそ喋っているのが気になったけど、とりあえずアキラさんに僕の気持ちが通じたみたいで、一安心。

 アキラさんとヤスくんが和解し、ヤスくんの悩みも一応解決され、こうして第127回(?)高二男子親睦会は無事閉幕した。


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