.*宝小様から☆コラボレーション*.
あの日の忘れものB


「えーと……」

 赤髪の綺麗なお姉さんは、掴まれてる腕と花菱の顔を交互に見て、半笑いで、「何か?」と訊ねた。

「ずっと探してたんです!」

「――は?」

 赤髪のお姉さんは訳がわからんというように、ますます眉間に皺を寄せた。そんな彼女の反応に気付かないのか、花菱はさらに言葉を続ける。

「いやぁ、まさか本当に会えるなんて、やっぱりあの占い当たるんだなぁ……あ、僕のこと覚えてませんか?」

 無邪気な花菱の言葉。他意はない、が、そんな花菱の一言で、困惑は瞬時に怒りに変わった。

「ちょっとなに、あんた! つーか、いつまで一舞の腕掴んでんの。離しなよっ!」

 後ろで控えていた人形みたいな女の子が花菱にくってかかり、そんな彼女を庇うように手で制した赤髪のお姉さんが、射るような目で花菱を睨みつけ、

「新手のナンパ? それとも宗教の勧誘? どっちも間に合ってるんだけど」

 と威圧的な口調で言ったものだから、俺の体温は一気に下がっていった。まずい、これはまずい。

「あ、そうじゃなくてー、」

「あの、すみません! 違うんです! 変な目的とか全然ないんですっ、こいつちょっと変な奴で。驚かせて本当に申し訳ないです! あの、人を探してて。昔助けてもらった人にお礼を言いたくて。偶然通りかかったあなた方が、こいつの探してる人に似てたみたいで。でも人違いですよね! 本当にすみません! ごめんなさいっ!!」

 身の危険を感じた俺は、のんきにヘラヘラ笑ってる花菱を押しのけ、しどろもどろになりながら謝罪し、ここに来た事情を一気に捲し立てた。

 口下手で、人見知りの激しい俺にこんなことさせるなよ〜と泣きたいような気持を堪えながら。

 俺の突然の登場に、怖い顔をして身構えていた女子二人は、一時の間ののち、急に親しみを込めた声で、

「……君、海生くんだよね?」

「ああ、どっかで見たことあると思ったら、ハルちゃんの彼氏!」

「あ、いえ、彼氏じゃないです。イトコです。どっちかっていうと弟みたいなもんです、俺は」

 と反射的に否定してしまったけど、このお姉さんたち何で俺のことやイトコのハルちゃんのことを知ってるんだろう?

「ね、海生の知り合いなの?」

 花菱が俺を見上げて、訊ねてくるが、まったく思いだせない。

 ぎこちない笑みを浮かべながら、

「あの、どこかでお会いしましたっけ?」

「うん。ほら、3月頃にハルちゃんと一緒にライブ来てくれたじゃない。覚えてない?」

 ライブ……そういえば確かに、ハルちゃんに連れられて、ライブを見に行ったな。

 ハルちゃんの友達が出てるって言ってて。高校生バンドだけど、すごいクオリティーが高くって感動した覚えがある。ハルちゃんのお供で、控室まで遊びに行って、そこで紹介を受けて……あ。

「一舞さんと香澄さんだ。ハルちゃんの友達の」

 バンドのヴォーカルの一舞さんと、スタッフの香澄さん。

「あー、よかった。忘れられてたらどうしようかと思ったぁ」

「でも、一回会ったきりだからね。忘れててもしょうがないよねー」

「あ、すみません。俺、人見知り激しい上に、人の顔覚えるの苦手で……」

 でも、このお二人は特徴的だったから、すぐに思い出せてよかった。

「海生、」

 花菱が何か言いたげに俺を見上げ、制服の袖を引っ張っていた。

 お互いに知らない仲ではないと思い出し、緊張していた空気がなごむ。これはチャンスだ。

 頷いて、花菱を前に出す。

「あの、すみません。さっき早口で喋っちゃったんですけど、もう一度話を聞いてもらっていいですか?」




「これ、なくしたと思ってたやつ」

「本当だ。これ、お母さんにもらったんだよね。あたしがオレンジで、香澄はピンク」

「そうそう。一舞がクマさん柄で、あたしがウサギさん柄なんだよね。可愛かったからって、華ちゃんがお揃いで買ってきてくれたの」

「懐かしいなー」

 改めて説明をしても、二人は花菱を見てやっぱり怪訝な顔をしていた。が、ハンカチを見るなり、失われかけていた記憶が一気に蘇ったようだ。

「ハンカチを貸したことすら忘れてたよー」

「そうか、あの時の少年剣士が君だったのか」

「こんなに大きくなってるなんて思いもしなかったから、すぐにはわからなかったね」

「僕もすぐにはわからなかったです。お二人ともすごい美人さんになられて」

 普段あまり女の子に関心のない花菱も、初恋の人、しかも美少女二人を前に締まりのない顔で笑っている……あ、締まりがないのはいつものことか。

「でも、よく覚えてたね。あたしも香澄もあのハンカチはなくしたものだとずっと思いこんでたのに」

「それだけ、嬉しかったんです。あの時、二人に助けてもらえたのが本当に嬉しくて、いつかちゃんとお礼をしなくちゃってずっと思ってて」

 姿勢を正し、花菱は深々と頭を下げる。

「あの時は、本当にお世話になりました。ハンカチも返すの遅くなっちゃってごめんなさい」

「ううん。あたしの方こそ、ありがとね」

 花菱から渡されたハンカチを大事そうに胸に抱き、香澄さんはほほ笑む。

「大切なものだったから、なくしたと思って凹んでた時もあったんだ。ハンカチ大事に持っててくれて、ありがとう」

 香澄さんの隣りで、一舞さんも嬉しそうに笑っていた。もちろん、4年越しの願いがようやく叶った花菱も。それから、俺も。

 一時はどうなる事かと思ったけど、やっぱりついてきて正解だったみたいだな。


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