.*宝小様から☆コラボレーション*. あの日の忘れものA 「……『今日一番のラッキースターは射手座のあなた! 何をやってもうまくいくスペシャルな日。特に恋愛運は高めだよ! 会いたくても会えなかった人に偶然出会えちゃうかも!? 天秤座の人と行動を共にするとさらに運気上昇!』」 「その占い、よーく当たるんだって。クラスの女の子が教えてくれたんだ」 花菱は嬉しそうにニコニコと笑いながら言った。 「何をやってもうまくいくスペシャルな日ってこういうことか。だから花菱はわざわざこんなとこまで、その初恋の女の子たちに会いに来たわけね」 朝からやたらテンションが高くて何かいいことあったんだろうな、とは思っていたけど。 「花菱も占いとか信じるんだな」 「うん、いいことは信じて、悪いことは信じない主義なんだ」 それはまた何とも都合がいい考え方だな。 「本当は一人で来てもよかったんだけどね、天秤座の海生と一緒の方が会える確率も高くなるかなーって思って。ごめんね、付き合わせちゃって」 「それは全然かまわないけど……」 嬉しそうに笑う、花菱の額に貼られた絆創膏に、俺は目をやる。 今朝、昇降口の簀の子に足を引っ掻けて転んだ時に出来た小さな傷だ。 「そういえば、体育の時間に飛んできたボールが背中にあたってすごい咳き込んでたよな」 「あー、あれはびっくりしたね。でも、顔面じゃなくてよかったよね」 「調理実習の時は包丁で思いっきり指切ってたよな」 「あれもすっごい血が出てびっくりした。でも、止まってよかったよね」 「ついさっき、駅の階段踏み外して、下まで転げ落ちていったよな」 「いやー、擦り傷だけですんでよかったよねー」 何を言っても笑顔で返す花菱は、そうとうタフな肉体と精神の持ち主、じゃなかったら相当なおめでたき人、というより阿呆なんだと思う。 「いったいこれのどこが何をやってもうまくいくスペシャルな日なんだよ!」と言いたかったけど、やっぱり黙っておこう。 「でもさ、花菱、その女の子の家知らないんだよな?」 「うん」 何故か花菱は誇らしげに頷く。 「名前も、知らないんだよな?」 「うん」 「……それでどうやって、探すんだ?」 「心配ご無用! なんたって今日は何をやってもうまくいっちゃう、スペシャルデーなんだからね! 適当に歩いてれば、そのうちばったり会えるよ!」 自信たっぷりに言い放つ花菱には悪いけど、俺は早くも「やっぱりついてこなければよかった」という後悔に苛まれていた。 駅を出て、しばらく真っすぐ歩いたところで、花菱が突然立ち止まった。 「ここ! ここで僕は彼女たちにあったんだ」 そこは、花菱の思い出話に出てきたように、本当に静かな住宅街だった。 道端の電柱を支えにするように、手をついて、花菱は道路にしゃがみこむ。 「何してるんだ? 具合でも悪いのか?」 「違うよ。あの時と同じような状況を作れば、あの子たちに会えるかなーと思って」 残念だけど、そんなことしたってあんまり意味がないような気がする。 彼女たちがこの道を通るかわからないし、通ったとしても、道端にしゃがみこむ変な中学生に声をかけてくることはないだろう。むしろ、不審者扱いされて逃げられるんじゃないだろうか。 そんな思いもつゆ知らず、花菱はニコニコ笑いながら、 「海生も座りなよ」 と俺を誘う。 「え、何で?」 「二人でやれば会える確率も高くなるかもしれないじゃない?」 いったい、どういう理屈だろうか。 「座らないの?」 メガネの奥の犬みたいなまるっこい瞳をキラキラさせながら、花菱は俺を見上げる。 3秒迷って、俺も花菱の隣に腰を下ろした。 「一緒に来てくれたのが、海生でよかったよね」 「そうか?」 「だって、桜井と一緒だったら、ヤンキーだと間違えられちゃうもん。あんな怖い人が道端にしゃがみこんでたら、もし、あの子たちが僕らを見つけても、びっくりして逃げちゃうよ」 たしかに桜井は学校一の不良として恐れられてるくらい、見た目凶悪だけど、ある意味では俺らだって桜井と変わらないくらい怖い人だと思う。 その時、道の向こうから2人の女の子が連れだって歩いてくるのが見えた。 女子特有のきゃらきゃらとかん高い、やけに楽しそうな話し声が聞こえて、たまらず俺は下を向いた。 「あれれ、海生どうしたの?」 花菱は気にしてないみたいだが、俺はやっぱり恥ずかしい。 いくら知らない人でも、「何あれ」「あんなとこに座り込んで何やってんのー?」なんてヒソヒソコソコソ言われ、不審な目で見られるのは嫌なんだ。 「あれ、何か男の子が座ってる」 来たぁ! 絶対に顔をあげてなるものかと、さらに俯く。 「具合でも悪いのかな? ちょっと声かけてみる?」 「えぇー、やめときなよー。ちょっと変だよ、あの子たち」 たしかに道端にしゃがみこんで、俯いてたら変だよなぁ。変だけど、何も本人に聞こえるくらい大きな声で言わなくてもいいじゃないか……。 「早く行こうよ、何かこっち見ててキモいし」 「うん……でも、何か気になる。ちょっと待ってて」 話し声が途切れ、代わりに人の近づく気配がする。 来なくていいのに! と思いながら、目蓋にぎゅっと力を入れる。 「ねえ、君達。こんなところで――」 頭上から降ってきた言葉は、何故か途中でぶち切れてしまった。 妙な沈黙があたりを支配する。 あれ? どうした? 何が起きた? 「一舞ちゃん!」 花菱の嬉しそうな声に、思わず顔をあげる。 「思い出した。一舞ちゃんと香澄ちゃん! そう呼んでた」 頬を上気させ、満面の笑みを浮かべる花菱と、そんな花菱にしっかりと手首を掴まれ、困惑している赤髪の綺麗なお姉さん。 そして彼らの少し後ろには、訝しげな表情で立ち尽くす、まるで人形のように可愛らしい顔をした女の子がいた。 back/next top |