.*宝小様から☆コラボレーション*.
あの日の忘れもの@


 僕ね、小学生の頃、剣道を習ってたんだ。中学入ってからは部活があるから辞めちゃったんだけどね。

 僕の住んでるところには、剣道を習えるところがなかったから、週二回、電車に揺られてあの街へ通ってたんだ。

 先生いわく、僕の隙をつく洞察力とスピードはなかなかだって。でも、いかんせん体力も腕力もないから、一発で決めないとあっという間に打ち負かされちゃうんだ……どうでもいいか、こんなこと。

 あの日は確か、稽古中に足を痛めちゃったんだよね。最初はなんてことなかったんだけど、帰る頃になってだんだん痛くなってきて。でも、稽古をしていた小学校から駅までは歩いて10分もかからなかったから、我慢できると思って、一人で帰ったんだ。

 案の定、ちょっとも行かないうちに歩けなくなっちゃったよ。電車で通っているのは僕だけだったし、あの頃は携帯電話なんて持ってなかったから、誰にも助けを求められない絶対絶命の大ピンチ。

 こんなことなら我慢しないで、先生に足を痛めたことを言えばよかった。知らない街で、一人ぼっち。僕はこのまま誰にも見つからずに死んでいくんだ!

 大袈裟だって? でも、あの時は本当に怖くて不安で仕方なかったんだ。元気と笑顔だけが取り柄の僕も、さすがにあの時は笑顔を保っていられずに泣いちゃったよ。

 とても静かな住宅街だった。だからかな? そんなに大きな声で泣いてたわけじゃないのに、近くの家から女の子が二人出てきたみたいなんだよね。

 みたいって言うのは、僕は下を向いてたから、彼女たちが出てくるとこを見てないんだ。

 「どうしたの?」って声をかけられて、はじめて人がいることに気付いたくらい。

 僕のすぐ隣に女の子が二人、しゃがみこんでた。二人とも特徴的だったからよく覚えてる。

 まず僕に声をかけてくれたのは、赤い髪をショートにしたボーイッシュな感じの子だった。パッと見た時は男の子かと思ったけどね。

 もう一人は、ふわふわの茶色い髪と大きくて綺麗な目を持つお人形さんみたいに可愛い女の子。あの子の目の色はなんていうんだろう? 緑系なんだけど、深い緑じゃなくて、もっと鮮やかな色だった。

 はじめて見る、髪の色と目の色に、二人は僕を迎えに来た天使なのかと思ったよ。

「どうしたの? どこか痛いの?」

 赤髪の女の子は再度そう訊ねた。

 人に会ったら笑顔で挨拶が基本だけど、あの時の僕にはそんな余裕なくて、涙をこらえながら、足が痛いこと、駅まで行きたいことを伝えるのに必死だったんだ。

「なら、あたしたちが送ってあげるよ」

 そう言って、赤髪の女の子は僕を背負い、防具の入った袋を脇に抱えて、本当に駅まで送ってくれたんだ。

 一緒にいたお人形みたいな女の子は僕の竹刀を持ってくれてね、

「男の子なんだから、そんなに泣かないの」

 ってハンカチを貸してくれた。

 たいした距離じゃなかったけど、同じくらいの年の女の子が僕を背負い、さらに防具袋、あれもけっこう重いのに、その防具袋まで持って平気な顔で歩いて。すごく、カッコいいなぁって思った。

 それにね、僕にハンカチを貸してくれたお人形みたいな女の子も、本当に優しくて、僕が不安にならないようにか、道すがら色んな話をしてくれたんだよ。

 駅について、赤髪の女の子が持ってたテレホンカードで電話をして、すぐに迎えに来てもらうことになった。

 僕は何度も何度もお礼を言ったよ。あの子たちは、「気にしないで」って笑ってた。

 お母さんの車が駅のロータリーについて、「もう大丈夫だね」「気を付けてね」って、手を振って去っていった彼女たちの眩しいくらいの笑顔に、僕は胸がドキドキしたんだ。

 たぶん、あの時が僕の初恋なんじゃないかなーって。

 家に帰ってから、僕はあの女の子にハンカチを借りたままだということを思い出した。

 お母さんに「洗濯して綺麗にアイロンをかけてあげるから、お菓子でも持って、お礼に伺いなさい」と言われてね。

 またあの二人に会えるんだって思ったら、なんだかすごく幸せな気分になったよ。二人に会ったら、何て言おうとか、どんなお菓子が好きかな、なんて真剣に考えちゃった。

 でもね、後になって気づいたんだ。実は、あの子たちがどこの誰なのかさっぱりわからないんだってことに。

 名前も連絡先も聞かなかったんだからさ、自分で言うのもあれだけど、僕は本当に間が抜けてるよね。

 それから何度か、稽古の帰りにあの辺りを探してみたんだけど、あの女の子たちに会うことはなかった。

 方法を変えれば、もしかしたら彼女たちを探すことは簡単だったかもしれないけど、何でかな、僕は僕の力だけで彼女たちを見つけたいと思ったし、また、あの時みたいに、彼女たちに僕を見つけて欲しいって気持ちもあったんだ。

 だから、このハンカチはいつも鞄の中に入れてある。いつどこで彼女たちにあってもいいように。

 あれから4年たつし、今はもうそんな気持ちもだいぶ薄れて、あの街へ行くこともめったになくなっちゃったけどね。

 でも、今日なら会えるような気がしたんだよね。だって今日は、何をやってもうまくいっちゃう、スペシャルな日なんだから。


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